今回のテーマは私が過去何度か、「いつか機会を見つけて解説します」と言っていた、海外勢のファンディング・コストが何故マイナスになっているのかの解説です。ちょっと長いです。(いつものことか、笑)
先延ばしにしていたのは、あまりに専門的過ぎて実務の経験がない方には、理解しかねると思い、躊躇していたというのが本音です。しかしこれ抜きでは今の一番大切な事象の理解が進まないと見て、解説することにしました。みなさんラッキーですよ。なかなかお目にかかれない解説ですから(笑)。
と書きつつも、どこまで行くか迷っています。本当に理解していただくには、スワップ取引ということの意味から説かないといけない。それは先日「パリティ」ということの意味をあっさりと解説しましたが、それにもかかわるのです。そこから始めると、たぶん1か月はゆうにかかるので(笑)、はしょって「えいやっ」といくことにします。(笑)。
まず、国際的なファイナンスを展開する大手邦銀の資金調達の話からスタートします。彼らはこのところ日本での低金利に手を焼き、収益を求め海外ビジネスへの傾斜を強めています。例えば、
1. 外国企業へ直接外貨を貸し付ける。シンジケート団に入ることもあり
2. 日本企業が海外展開をする際に外貨を貸し付ける
3. 海外で日本企業がM&Aをする場合、資金の出し手になる
4. 自分が海外の金融機関を買収する
などです。自分の買収行動は去年私が「またぞろ懲りない、金融機関の横並びM&A」として批判しました。覚えていらっしゃる方も多いと思います。
邦銀は、みなさんがドル預金をあまりしないので、貸し付けるためのドルなど外貨資金をあまり保有していません。そこで海外の有力銀行との間で、通貨のスワップをして外貨を調達するのです。
邦銀は規模と期間に応じた円資金を用意し、外銀はその分のドルを用意する。そして例えば期間5年、金額100億相当の円とドルのスワップ契約を結びます。
その時の金利は例えば円金利の0.5%に対してドル金利が1.5%としましょう。二つの金利には差がありますが、両者は「パリティ―」なので、このままスワップしても理論上は損得なしと両者は納得しているのです。「理論上は」とは、「金利差は将来の為替変動をカバーするはず」ということです。FXのスワップポイントをご存知の方は、多少理解しやすいかもしれません。
では、具体的なスワップのやりとりを説明します。
スワップとは元本と金利の交換です。最初に円の出し手である邦銀は100億円を用意し外銀に渡す。同時に為替レートが1ドル100円であれば外銀から1億ドルを受け取る。それでまず元本のスワップが完了します。
その後は満期まで毎年、金利をスワップします。邦銀はドルを調達しているので、ドル金利1.5%を払い、外銀は円を調達しているので円金利0.5%を払う。
最後はまたお互いに、邦銀は1億ドルを外銀に返し、外銀は100億円を邦銀に返す。この間の為替レートがどうなろうと、最初に契約した元本金額と金利を払って終了となります。これがスワップ契約の内容と実際のやりとりです。
もう一度簡単に繰り返せば、最初に元本の円とドルを交換し、5年間金利をお互いに払い、最後にまた同額の元本を交換して取引終了です。為替のリスクはお互いに金利に反映されていると納得をしているので契約することが可能なのです。納得できなければ、契約しなければいいのです。
このようなスワップ取引のできる銀行は実は非常に限られていて、原則的には国際金融取引にかかわることのできるBIS基準を満たせる銀行のみです。
「そんな面倒なことをしなくても、100億円で1億ドルを買って調達すればいいじゃないか」という疑問については、後ほど回答します。
スワップ契約の期間中、邦銀は手に入れた1億ドルを日本企業に貸し出します。その時の金利はスワップのドル金利である1.5%より高い金利で貸し出し、差をスプレッドとして儲けるのです。例えば2%で貸し出せれば、0.5%を儲けられます。外銀は外銀で100億円の円資金を円資産で運用してやはりスプレッドを儲けます。いわば円キャリートレードです。
BIS基準を満たせる銀行は内外ともにお互いの信用力に大きな差はありませんので、そこに余分なプレミアムは生じません。ところが、ドルと円の資金需給や通貨自体の信用力に差があると、プレミアムが生じます。
通貨の信用力は、例えば格付けを見れば日本は他の先進国に比べ、明らかに劣ります。格付けに反映されている国の債務状況も、相当な差があります。 需給については、邦銀の外貨需要は日本企業の需要を反映してかなり多く、海外勢はあまり日本に投資しませんから円の需要は少ない。企業のみならず銀行や保険会社などの金融機関も海外で盛んにM&Aを行っています。そこで日本勢が海外勢にプレミアムを払ってでもスワップ契約をしてドルを調達する必要があるのです。
海外投資家の日本株買いはスワップでは行わず、通常ドルを為替市場で円に替えて行います。株式投資は貸付と違い、投資期間終了のめどが厳密でなく、勝ったり負けたりで元本と償還の額に差が生じるので、スワップには向かないのです。同様なことは、先日John-0123さんからのヘッジ付き株式投資の質問で私が回答しています。
これがさきほど、「そんな面倒なことをしなくても、100億円で1億ドルを買って調達すればいいじゃないか」、という疑問への回答の一つです。単純な為替交換だと為替リスクをフルに背負ってしまうことになるのです。他にも重要なポイントがあるのですが、それはのちほど。
先の日経の記事で「例えば海外勢が手持ちのドルを円に5年間交換する取引で、上乗せ金利は年0.9~1%ほどになる」とあります。この0.9~1%が、日本勢がドルの調達で支払うスワップのプレミアム、つまり日本勢が海外勢に払う上乗せ金利です。
こうした為替交換の伴うスワップを専門家は「ベーシス・スワップ」と呼びます。ベーシス・スワップのプレミアムは、現状ではどの邦銀がどの外銀とスワップ契約を結ぼうがおよそ1%くらい払う必要があります。こうした市場のオファー・レベルは関係者には見えています。市場レートが1%ということは、個別銀行の信用力差からくるプレミアムではなく、通貨の信用力差と需給によるものと考えられるのです。
ここまでご理解いただけましたでしょうか?
やはり1回では十分な説明は無理なので、次回に繰り越します。
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