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アメリカは大丈夫か?  その3 シェール関連企業の行く末

2016年03月23日 | アメリカアップデート

  ゲーリーも帰ったようですので、アメリカの話に戻ります。

   その1では、短期の株式や為替相場の上下動ばかりに気を取られると、先行きを見誤る可能性があるということを指摘しました。

   その2では、原油価格の下落がアメリカ経済にマイナスの影響を及ぼすという、これまた相場の反応でしかないことに気を取られると、本来のメリット・デメリットの計算を間違えるという指摘をしました。そして様々な憶測が流れているシェール関連企業のジャンクボンド市場の崩壊が、まるでリーマンショックの再来だという意見を、数値でそんな大きなものではないと示しました。さらに、そもそもジャンクボンドとは、デフォルトする可能性が高いからジャンクだ。投資家はそれを知っていて、あえて買っているジャンク投資家だから、政府は救済などしないし、経済全体がおかしくなるほどのことはないと申し上げています。


   今回は、それでもシェール産業はアメリカにおける有望な新産業で、それもエネルギーという極めて重要な分野のため、もしシェール関連企業が続々と倒産を始めたらいったどうなるか、私なりの分析をしてみます。

   アメリカ企業の破たんの処理方法として、ご存知のかたもいらっしゃると思いますが、「チャプター・イレブン」という法律があります。倒産企業の多くは、典型的にはそこに入りこむことになります。

  チャプター・イレブンは日本語訳では会社更生法となっていますが、むしろ企業再生法というべき色彩の強い法律です。それが適用されると言うことは、逃げ込む場所ができたということなのです。

   例えば世界的大航空会社であるノースウェストなどは、私が覚えているだけで3回はチャプター・イレブンに入っています。それにより債権者からの追及を免れ、再生が果たせそうだというところまで債務を削減してもらい、見事カムバックというパターンを繰り返しています。ノースは今ではデルタ航空と合併し、新デルタ航空になっていますが、そのデルタでさえ08年にはチャプター・イレブンのお世話になり、その後再生しました。

  アメリカと日本の破たん処理の決定的差は、再生可能であれば救いの手が伸びてくるかこないかです。日本でもやっと再生法でその芽がでてきましたが、それまではとにかく完膚なきまでに倒産企業からみんながむしり取るというやり方が横行していました。

   シェール関連企業は、原油価格が上昇してくれば簡単に再生が見込めます。そこまでチャプター・イレブン入りして時間的猶予をもらう。その間、新技術を導入し採算分岐点、ブレーク・イーブンを下げ、ちょっと価格が上昇すれば利益を出せる体質の企業にしておく。こういう経路を経るのが一つ。

   あるいはシェール企業同志がデルタ・ノースのように合併しコストを下げ、ファンドの支援などで再生するという経路もあります。

   今一つは、企業としては解体するが、採掘権や設備を大手の石油企業などが二束三文で買い取って事業だけ引き継ぎ、安いコストで生産を始める。その二束三文だけは債権者に配分されます。かなり手荒いやりかたです。

  要するに、シェール関連企業が破たんしまくったとしても産業全体として見ればしたたかに生き残り、サウジが目指すインダストリーの壊滅などには至らないのです。再生までには時間がかかり、その間は従来からの中東産油国などが一息つけるかもしれません。しかし一息ついた結果価格が上昇したとなればすぐまた生産を再開、シェール産業はインダストリーとしての消滅などないのです。

   こうした石油供給の調節弁の役割を果たす生産者をスイング・プロデューサーと呼びます。かつてOPECの全盛時代、最大の生産国であるサウジがその役割を自らの意志で果たしていたことがあります。サウジは生産量がダントツに大きかったため余裕があり、価格が低下すると他国が追随しなくとも自ら供給を絞り、供給を調節する弁になっていました。今後はシェール産業全体が、自身が望まなくとも破たんによりその役割を果たす可能性があると私は見ています。

   ということで、アメリカのシェール関連企業は、サウジなどがいくら価格を低下をさせて倒産させたとしても、そんなものは仮の倒産でしかなく、価格が上昇すればすぐに戻って生産を始める。そしてそれが繰り返されるたびにテクノロジーの進化により、強靭になって帰って来る可能性が強いと私は見ています。

   そうこうしているうちに原油価格は最低レベルよりすでに5割近く値を戻しています。その上、強硬姿勢を取り続けていたサウジなどのOPEC諸国に加え、ロシアまでが増産停止に向け協議をするという新たなステージを迎えました。ミイラ取りがミイラになる前に、自ら痛手を負った傷の手当を始めたのです。

   だからといって原油価格はOPECやロシアが我が世の春を謳歌した100ドル前後のレベルなどには戻りようもありません。今後はお互いに青息吐息ながらも生き延びる程度の生産量をキープし、価格の大きな上昇のない、つまり消費国側有利な状況が続くと私は見ています。

   最後にもう一度申し上げますが、最近の株式相場は原油価格の下落とともに下落しますが、そんなものは過剰反応で、消費国にとって原油価格は安いほどいいのです。OPECやロシアからエネルギー供給の主導権を奪ってくれたシェール産業に、みんなで感謝しましょう。

   次回はすでに私が解説するまでもなく、なんとなく影の薄くなった「アメリカは大丈夫か?」のまとめです。

コメント (1)
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