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アメリカは大丈夫か?  その4 まとめ

2016年03月26日 | アメリカアップデート

  アメリカでは今週3人の地区連銀総裁が、早期利上げを示唆しています。今年に入って、利上げはないかもとか、年1回、あっても2回というような予想に後退したのを真っ向から否定し、次の利上げの布石と思われる見解を述べています。理由はコアインフレ率の上昇です。

   先ごろ発表された2月のアメリカのコア物価指数は前年比で2.3%の上昇。1月の2.2%を若干上回りました。雇用が堅調なのは言うまでもないことですが、それが賃金上昇につながりはじめ、いよいよ本丸の物価にジワリと来ている。

  地区連銀総裁連中は、それが本格的インフレにつながらないよう、あらかじめ金利を正常化しておく必要がありそうだ。3月のFOMCでいったん見送った利上げを次の機会でいきなり行うと、また市場が荒れる可能性があるので、牽制球を投げておこう。そう考えて利上げ示唆発言につながっているのだと私は思っています。

  昨年末私は今年のアメリカについて比較的楽観的な見通しを述べました。ところが年初以来、雇用を除くとあまり芳しくない指標が発表されたことを受け、2月には世界の株式市場も暴落し、あたかも世界はアメリカの利上げにより大不況を迎える恐れが出てきたという見通しが横行しました。

   しかしアメリカの実体経済は強さを維持し、そうした大不況論はたった1か月で大きくトーンダウンしています。私はいつも長い目で経済を見ていますので、そうした目で見ると現在の様子はどのように見えるかを以下にお示しし、それをもって「アメリカは大丈夫か?」のまとめにしたいと思います。

   話は7-8年前にさかのぼります。08年のリーマンショック後に世界経済は奈落の底に落ち、「アメリカにも失われた10年が来る」、ということを世界のエコノミストのほとんどが唱えていました。

  私は一貫して「アメリカに失われた10年など来ない」と言い続けました。11年に書いた著書の137ページにはそのことが記されています。そのころはたとえ回復してもそれは一時的で、これからリーマンショックの後遺症が延々と続くといわれていました。しかし09年に大底を打ったアメリカ経済はその後順調に回復し、ここまで5年以上もの間成長が維持されてきました。2四半期連続でGDPが前年を下回るとリセッション入りという定義にあてはめると、そうしたことはありませんでした。

   好調さの象徴である失業率も最悪の10%から、自然失業率だと言われる6%を突き破り、まさかの5%割れを達成。普通なら景気をちょっと冷やす必要があるというところに至っています。

   一方、物価だけは世界的に上昇機運がありませんでした。中国経済をはじめアメリカ以外のスローダウンから国際商品相場が低迷を続け、力強さに欠けていたからです。それでも景気全体を見ればアメリカ1国は堅調だったため、一昨年10月に量的緩和を終了。昨年末には最初の利上げに至りました。

  利上げしたとたんに世界の株式相場が暴落したため、「利上げは間違いだった」とか、「おかげで世界は不況に突入する」というような悲観的トーン一色になりました。

   かつてBRIC’sと言われ、もてはやされたブラジル、ロシア、インド、中国がものの見事に失速し、世界経済の足を引っ張る側に回っています。そこに日本の不調や欧州の政治的不安、その他新興国全般のスローダウンにより、世界不況論が力を得たのでしょう。

   このような長期視点から見ると、私には「アメリカはたった1国で、よくぞけなげに世界を支えているな」と見えるのです(笑)。

   とは言え、景気とは循環するものです。5年も回復が続けば当然疲れが出てきて一休みするくらいは当たり前です。アメリカに限ってみればそれは単なる景気循環です。アメリカの利上げ発、世界的大不況の始まり、なんかではありません。大不況論者もここにきてだいぶ論拠を失いつつあるようです。

  それでも世間がアメリカの大きな不安な要素として挙げているシェール関連産業について、2回にわたり解説をしました。

 「アメリカは大丈夫か?」シリーズ、

 その2.シェール関連企業のジャンクボンドは、規模から言っても投資家から言ってもサブプライムのような大問題には至らない

 その3.シェール関連企業が続々と破たんしてもチャプター・イレブンに入ってリハビリの上復活してくるので、インダストリーとしてはしっかり生き残る

   一番心配されたことも、実はたいしたことはないのです。皆さんからのコメントはOwlsさんの納得できたというコメント一つでしたが、他のみなさんもこの解説についてはある程度納得されたのではないかと勝手に解釈しています。

   アメリカに大きな不安材料などありません。その中で3月のFOMCは、利上げを見送りました。その議事録に書かれていた主な見送り理由は、アメリカ経済に内在するリスクではなく、世界経済の停滞リスクでした。トランプ氏が大統領になるというリスクを指摘する人もいますが、私は彼が大統領になることはないと思っています。

   ということで、「アメリカは大丈夫か?」

   はい、大丈夫です!

   次回からは、「大丈夫か日本財政」にやっと復帰します(笑)

コメント (4)
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