前回までベーシス・スワップというかなり難しいテーマが続きました。そろそろうんざりだとおもいますので、今回で終了します。
その前に、せっかくベーシス・スワップを勉強したついでにみなさんのお役に立つよう、一つだけ付け加えておきます。それは、「キャリートレード」というアナリスト解説や報道で時々見られるキーワードに関してです。
ベーシス・スワップでは邦銀や外銀のビジネスの本質は「リスクを取らずに鞘を抜くこと」だと申し上げました。このことは、いわゆるアービトラージ(裁定取引)の本質でもあります。為替と金利という相場変動のリスクを回避していれば、あとは投資対象のデフォルト・リスクだけを気にすればよい。それはヘッジファンドなどの得意技でもあります。鞘抜きなら100億円というような小さな額でなく投資対象さえあれば、1,000億円でも1兆円でもレバレッジを掛けながら拡大することができます。
ベーシス・スワップで説明した外銀の円金利払い、円債券運用とはまさに、ドルを運用資金として持つ投資家のキャリートレードそのものです。それを外銀が運用するのではなく、さらにスルーして裏にヘッジファンドがいれば、ファンドによる巨大キャリートレードになります。スワップでは終わったときの円とドルの最後の取引は、市場を通さずに交換するだけなので相場へ影響はしません。それがプロのキャリートレードです。アウトライトでリスクをとるようなヘタなキャリーは、シロウトのやることです。アウトライトとは、ヘッジをしない裸のリスクを指します。
よくアナリストや報道が「キャリーの巻き戻しで為替が動いた」などというのは、クロウトからみればお笑い種なのです。私はときどき「巻き戻すんなら、巻き上げはいつあったんだ(笑)」と揶揄していましたが、その本当のワケはこのスワップにあります。たった1%や2%の日米金利差を得るのに、10%-20%動く為替の変動のリスクを取ることなどありえないのです。
私がソロモンの資本市場部にいたときに、トレーディング・フロアの一角ではこうしたリスクのほとんどないトレードで、仕組んだ瞬間に何年か先の利益を確定するアービトラージを専門にしている社内ヘッジファンド部隊がいました。実はソロモンという投資銀行の儲けの源泉はそうしたアービトラージ部隊のトレードから生み出されていたと言っても過言ではありません。その部隊は先週亡くなった「ウォールストリートの帝王」と言われたソロモンの会長、ジョン・グッドフレンドのお気に入り部隊でした。
世の中にはもちろんリスクをめちゃ取りするファンドもありますが、そんな連中はソフィスティケートされたトレーダーから見れば単なる博打うちで、いずれは負ける勝負師にしか見えなかったのです。
今度ドル円が動いたときに「キャリーの巻き戻しだ」なんてことを言う解説者がいたら、「お気の毒に」とやさしく慰めてあげてください(笑)。
以上でスワップやキャリートレードなど、難しいことの続いた説明は終わります。
さて、3月10日、欧州中央銀行がさらなる緩和措置を発表しました。しかし欧州の株式市場は売り一色で終わりました。アナリストなどの解説は、「ドラギ総裁がこれで打ち止めということを示唆したからだ」と解説していましたが、果たしてそうでしょうか。
私は、日銀のクロちゃんのマイナス金利導入後に示した日本をはじめとする世界の株式市場の強い反応と同じだ、と思います。つまり、効果の疑問視されていることをやり続けるのは、むしろ出口を難しくする一方だ、ということを市場は感じたのです。BISもそれを恐れ、欧州中銀の追加緩和決定前に日銀の経験を踏まえ警鐘を鳴らしたのです。
こうした金融政策が続くと、その先ではいったいどういう世界が待っているのでしょうか。
同じく3月10日に資産運用に関して一つのニュースがひっそり流れました。世界で名だたるノールウェイの年金資金が、昨年10-12月期から徐々に保有していた日本国債を売っていると言うのです。理由は「低金利にいやけが・・・」と書いてあるのですが、私はそれ以前に格付け低下も一因ではないかと思います。彼らの投資基準についての情報を持ち合わせませんが、格付けつまりはリスクと、彼らの求めるリターンが間尺に合わないのでしょう。
昨年9月にドル円のベーシス・スワップのスプレッドが70-80bpに上昇しました。その時期、格付け会社S&Pは日本国債の格付けをダブルAマイナスからシングルAプラスにワンノッチ下げています。たったワンノッチとはいえ、ダブルAからシングルAへの格下げは、象徴的であり実態面でもかなり効きます。例えば、債券投資家は格付けによる投資基準を持っていて、ダブルAしばり、ということが往々にしてあります。ノールウェイ年金の日本国債投資の引き揚げは、そのタイミングで始まったのです。そして今後マイナス金利が浸透すれば債券価格はより上昇し、彼らに絶好の逃げ場を提供します。
そうしたまともな投資家とは逆にマイナス金利でも買う投資家を見ると、私にはチューリップの球根を買っているように見えます。17世紀のオランダで起こったチューリップの球根バブルです。1個の球根が、家一軒分もの価格になったバブルの元祖です。普通の人から見ておかしなことは、いつも最後には破たんするのです。
マイナス金利でも買って儲かるなら買う。そんなことは長続きしません。そのうち日本の投資家もそーっと引き揚げるでしょう。それを無理やり引き取る日銀こそ、最後に球根を掴むにちがいありません。日銀に溜まる腐った球根など、誰も引き受け手がいない。その後始末を文無しの政府ができるはずもない。マイナス金利で政府が発行した国債を引き受け続ける日銀と政府は、まともな人が見れば腐った球根をあたかも価値があるものとしてやり取りする、「球根ねずみ講」そのものなのです。そのうち参加者は政府・日銀の二人だけになります。
ではまとめです。
1.黒田マジックの賞味期限は終わった
2.企業も個人もガチョウじゃあるまいし、フォアグラになんてならない
3.インフレ2%の達成時期は、これからいつも日銀発表から2年後だ
4.日本で預金金利をマイナスにしたら、みんな預金を引き揚げる
「マイナス金利導入で信認を失ったクロちゃん、あなたは裸の王様ですよ!」