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アメリカの金融市場について その5 2016年のアメリカの長期金利

2015年12月06日 | アメリカの金融市場

  一昨日発表のアメリカの雇用統計は雇用者数の増加が21万人と好調維持。今月17日に予定されるFOMC(連邦公開市場委員会)での利上げにダメを押す内容でした。市場は好調な雇用を歓迎し、ダウは370ドルも上昇して終わっています。これほどの上昇は利上げがやっと不確定要素ではなくなったことを歓迎したのでしょう。

  そしてもう一つ大事なニュースは、同日に行われたOPEC石油輸出国機構の総会で生産枠の合意ができず、現状の生産レベルが継続する見込みとなったことです。それを受けNYの原油先物は終値でも30ドル台に低下しました。これでしばらくは原油価格の低位安定が確かなものとなりますので、世界の物価には下げ圧力が継続です。

  前回のブログで私は「この1年の世界経済は、なんだかんだと言いながらもさしたる大波乱はなく、実はとても穏やかだった」と述べました。そしてその裏付けとして日米の金利・為替・株式市場の指標を並べました。ほとんどが動いていない中で動きがあって成績が良かったのは日経平均株価で、今年1月から11月までで13%の上昇となっています。そして悪かったのは国際商品相場で、20%も下落しました。

  では米金利にとって大事な今後の世界経済をどう見るか、私の見方を簡単に紹介します。といっても、昨年の見方と大して違わないのです。昨年の要点にマイナーチェンジを加えますと、以下のようになります。

・欧州は先週ECBによる追加緩和があったが、スローな状況を大きく好転するにはいたらない

・中国もさらに成長率は低下する。人民銀行による追加利下げが行われても、来年は不動産バブル崩壊の可能性が高まる

・産油国であるロシア、中東、中南米は低迷のまま。石油以外の資源価格の上昇も見込めないが、オーストラリア経済は底を打った

・日本は企業収益のみが向上し株価は堅調であるが、先日の記事「合成の誤謬」で指摘した状況は改善されず、アベノミクス旧3本の矢も新3本の矢も役立たずのまま一進一退。追加予算で無理やり成長率を上げる以外に手立てなし

  とまあ、こんなところでしょう。「合成の誤謬」とは、個別はよくとも全体は悪くなるということで、個々の企業収益は向上し株価が上昇しても、それが非正規雇用への切り替えでよくなっていると消費全体は低迷し、GDPは伸びないという意味です。

  では次に米国金利に直接影響を与える要素の見通しですが、やはり昨年の記事にマイナーチェンジを加えて列記します。大きい変化はありません。

①   FRBの政策金利上げ第2弾以降が見込まれる(金利には大きなプラス)

②   米国債の海外投資家のうち産油国からの買いがさらに減少、新たに売りに回る組も出る。9月までの1年でロシア保有分▲25%、OPEC保有分+5%(金利には大きな影響なし)。ちなみに巨額保有国である中国±ゼロ、日本▲4%。

③   連邦予算の赤字削減継続で国債供給は減少継続(金利にはマイナス)

④   雇用の順調な増加(金利には大きなプラス)

⑤   物価の落ち着き(金利には大きなマイナス)

⑥   世界の中央銀行の政策、FRBは正常化に向けさらに利上げ(金利には大きなプラス)。日本・中国・欧州は緩和継続あるいは増強(金利にはマイナス)

  まとめとしては「FRBの引き締が実行されても雇用に不安はなく、残るは物価のみとなった」

  昨年12月5日の記事でも同じ金利見通しのことを書いているのですが、その時の最後の言葉も、「金利上昇の最大のリスクになるのはこの物価だろうと私はみています。」でした。

  では次回は、上記のおおまかな要素を踏まえて来年の長期金利のレベル感をさぐります。

コメント (6)
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