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アメリカの金融市場について その6 2016年のアメリカの長期金利

2015年12月10日 | アメリカの金融市場

  みなさん、今年の世相を表す「今年の漢字」は、何になるとおもわれますか?毎年恒例、清水の舞台で貫主の書く漢字一文字です。私の予想は「爆」です。爆買い、自爆テロなど爆の一文字が非常に印象に残る年だったからです。発表は一両日中と思われますが、我こそはと思う方、是非コメントをつけてください。

  さて、前回は昨年同様、「やはり金利上昇に対するリスクは物価だ」と申し上げました。早速NYの原油市場は反応し(笑)、一時36ドル台をつけるに至っています。じゃ、この原油がさらに下落したら、いったい世界はどうなるのか。

  心配には及びません。たびたび原油価格に対するコメントを差し上げている通り、資源消費国全体にとって何よりのプレゼントになります。アメリカのシェール・オイル産業にとっては大きなマイナス要素ですが、アメリカ経済全体はエネルギーコストのセーブによりメリットを受け、エネルギーを使う産業も使わない産業も、そしてなにより消費者にとって大きなボーナスとなります。うちのマンションの11階の廊下からはガソリンスタンドが見えます。否応なしに毎日ガソリン価格の変動をチェックできるのですが、最近の価格はレギュラーが110円台前半になっていて、下がるたびに私はほくそえんでいます。

  原油価格の下落は世界を震撼させるISの資金源を直撃し、これまで原油生産国として我が世の春を謳歌していた中東諸国やロシアの経済力、そして何より軍事力を削ぎます。その分世界の安全に対する脅威が減ると私は思っています。エコノミストの中には物価の低下などにより景況感に悪影響があり、好ましくないと言う人がいますが、それは株価だけを追っている株屋エコノミストの言い分です。また政治的混乱を来す可能性が高まるとの観測もありますが、ISよりはるかにマシです。短期では多少の摩擦があるとしても、長期でみれば好ましいことこの上ない。心配なのはそれによって省エネ努力が鈍ることくらいで、あとはクロちゃんの苦り切った顔だけです(笑)。

  アメリカ金利の先行きを見る前に、一応来年の経済見通しを私の定性的見方だけでなく、数字でレビューしましょう。経済予測などあまり当たらないとはいえ、世界一流の頭脳をそろえて見通しを発表しているOECDの予想数字くらいは、みなさんと一緒に見ておきましょう。

  11月初旬に発表されたOECDによる今年15年のGDP前年比の推定値、そして16年の予想値を、4つの国と地域について見てみます。比較のため14年実績もつけます。

       14年  15年推計  16年見通し  (前年比%)

日本     ▲0.1   0.6    1.0

アメリカ      2.4   2.5    2.4

EU合計     0.9   1.5    1.7

中国       7.3   6.8    6.5

  みなさんのこれまでの印象と比較して、実際の数字はいかがでしょう。

  日本はアベノミクス導入後2年目の14年にマイナスを記録し、3年目の15年も低迷、16年にやっと少し上向くものの、他の主要国には大きく後れをとっています。景気のバロメーターといわれる好調な日本の株価と実態経済のかい離の大きさがよくわかる数字です。かい離の理由は先日の記事のタイトル、「合成の誤謬」という聞きなれない言葉で説明したとおりです。企業業績というミクロの数字がよいため株価は好調でも、それがリストラや契約社員への切り替えによるコスト削減によるものだと個人消費が低迷し、日本経済全体は低迷してしまう、それが合成の誤謬でした。自画自賛の政府・日銀の発表や、彼らの思惑に踊らされる御用報道ばかりを見ていると、本当の経済実態はわかりませんので、ご注意ください。

  ヨーロッパはどうでしょう。昨年来のギリシャ問題に続き、難民問題やテロなどがあって、なんとなく低迷していると思っている方が多いと思います。しかしこちらも経済実態は報道とは正反対。スローとはいえ欧州中銀ECBの緩和策もあり、日本に比べはるかに良い数字です。

  そしてみなんさん想像のとおりアメリカは非常に順調で、世界経済はアメリカがけん引役といわれるとおりです。今月は遂にFRBによる政策金利の引き上げがあるほどで、世界を覆ってきた超緩和からいち早く脱却し、金融政策も正常化に向かいます。

  世界はアメリカ頼りだという割に、中国の成長率は悪くないように見えます。理由はこの数字が大本営発表によるものだからです。国際機関であるIMFやOECDも中国政府の発表数字がウソだとは言えず、経済統計は政府発表を踏襲せざるを得ませんが、いまや世界のエコノミストのほとんどは中国がすでに足を引っ張る側に回ったとみています。

  こうした世界の経済状況は、国際商品相場にはしっかりと反映され、来年も相場の大きな好転はないと思われます。

  それを前提にアメリカの長期金利を予想すると、最初に申し上げたとおり、やはり来年も際立った上昇は見込みづらく、せいぜい年の後半に3%前後だろうと私は見ています。それは来年中に政策金利が2~3回上げられても変わらないと思われます。

  じゃ、何故3%という具体的数字が導きだされるのか。そして順調といわれるアメリカ経済に死角はないのか、次回以降に見てみたいと思います。

コメント (7)
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