前回は金利の見通しの3%という数字はどうやって導いたのかのお話をしました。それは過去の数字を利用して統計的手法を使ったモデルを作り、将来の予測をしているということでした。しかし予測をするときに使う数字も予測した数字にすぎないので、当たるとは限らないということでした。
2点補足をします。一つはモデルによる予測の当たる当たらないは、しょせん確率の問題だということです。経済予測モデルは過去の数値をかなり説明できるしっかりしたモデルでも、100%の説明力を持つことはなく、いわゆる標準偏差と言われる許容範囲にかなりの確率で入るという程度です。大学入試で偏差値が上がっても、必ずしも合格するとは限らないのに似ています。もう一つは、私が自分で予測をするときに、「シナリオ」という言葉を使いました。それは物事の因果関係とも言い直せます。予測は「風が吹いたら桶屋が儲かる」ではダメです。モデルは、偶然関係があるということを表すのではなく、しっかりと因果関係に裏付けられている必要があります。以上、補足説明でした。
では予測数値の話題から次の「アメリカ経済に死角はないのか」に移ります。11日金曜日のNYダウは300ドルを超す下落になりました。その原因として解説されていたのは、「ジャンクボンド投信の破たんと原油の下落」でした。そして米国債が買われ、長期金利がまた2.1%台に下落しました。それにつられ週明けの日本株は一時600円の暴落でした。いずれもアメリカにかかわる問題です。
それでも私はアメリカ経済自体に内在する重大なリスクはないと思っています。例えば経済成長率が景気循環的に低下するのは、死角あるいはリスクとは呼びません。現時点で想定できる景気循環とは異なるリスクの可能性を並べます。いずれも利上げが原因の一つとなります。ただ原油価格の下落は何度も取り上げていますので、ここでは省略しますが外的ショックで取り上げます。
1.ドル高による輸出の不振
すでにそれはこの一年言われていたことです。アメリカが輸出より輸入の大きな純輸入国である限り、影響は限定的です。輸入価格が低下して物価を下げ消費を刺激しますので、大事には至りません。ただし物価の低下は金利にはマイナス要素です。
2.米国内のハイイールド債券市場の崩壊
それが「株式の暴落も誘発し、そのために経済が不調となって雇用が減り、FRBが利上げどころか利下げを迫られるような状況があるのではない」かという懸念です。私は今のアメリカのハイイールド市場崩壊の影響はそこまではいかないとみています。理由は、現在のハイイールド市場の規模は金利低下局面でありがちな大きさにはなっていますが、シェール・オイル関連企業がプラスされたくらいで、その他は従来規模の延長線ていどだからです。かつてのサブプライム市場とは比べるべくもありません。ハイイールド市場崩壊の件は別途取り上げます。
3.住宅市場の低迷
低金利が住宅ローンの組みやすさを後押ししていましたが、利上げにより長期金利も上昇すれば、悪影響が出ます。しかし住宅ローンに影響するような長期の金利上昇はさほど大きくないことが予想され、大きなリスクにはならないと思われます。むしろ短期金利が上がって影響を受けやすいのは自動車ローンですが、それは景気循環の範囲です。
では、外的ショックはどうでしょう。なんといっても中国問題が筆頭です。
1.中国経済のメルトダウン
すでに十分に低迷している不動産市場、それに重厚長大産業の低迷が輪をかけ、成長率が大幅にダウンする可能性があります。しかし私は11月の中国問題アップデートで、以下のように述べています。
「中国ショックはあったとしても吸収可能な範囲だと思われます。今後の世界は中国という強力なエンジンを一つ失うことにはなるでしょうが、大きく足を引っ張られるほどのことはないでしょう。」
リーマンショックのように、まさかの事態が突然来るわけではないのです。リーマショック前は、世界がサブプライムの恩恵で沸き返っていたところに突然襲いかかりました。しかし中国の変調に対してはすでに十分に身構えていますし、海外投資家の中国投資は制限を受けているため直接のインパクトは小さく、吸収可能ということです。
ちょっと横道にそれますが、中国に関する重要な情報を追加します。それは日本の製造業の一部が中国から撤退を始めているというニュースです。日本では海外進出は景気いい話として大きく報道されますが、撤退はカッコ悪いので静かに行いますので報道はほとんどされません。製造業、それも比較的大きなメーカーから中小企業まで、静かに撤退の動きが広がっています。理由は採算性の悪化です。
2.逆オイルショック
これはすでに今年の初めから継続していることですが、最近の原油価格は予想を超えた大幅な下落となっています。しかし何度も言っているように、資源消費国はそれで潤うことがあっても、困ることはないのです。アメリカもまだ純輸入国です。昨日の原油価格は一時35ドルまで下落して株も一時反応していますが、それに対する私の見解は「過剰反応」で、メリットがじわじわ効いてくるので大問題ではありません。
3.新興国、資源国のスローダウン
こちらも初耳という話ではなく、昨年のQE停止や利下げ観測が高まった時からすでに始まっています。東南アジア諸国は中国スローダウンの影響とアメリカの利上げによる資本引き上げの両方が来るため、苦しくはなるでしょう。しかし97年のアジアショック時とは違い、すでに経済規模は中進国以上になっていて、為替もほとんど自由化されていますので、一気に崩壊ということはないのです。為替変動を無理に制限しているとマグニチュードがたまって、崩壊は一気にきますが、多くの国はその段階からは抜け出ています。その他の資源国、例えばオーストラリアなども中国頼みの体制をだいぶ変えてきていますので、対処は可能です。困るのはモノカルチャー的な中南米とアフリカ諸国くらいです。
米国債投資に直接かかわるのは、「金利と為替」です。ここまで金利がメインでしたが、次回は為替に関する話題です。とてもチャレンジングな話題ですが、頑張ります。