ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

アメリカの金融市場について その9 ドル円レート見通し

2015年12月17日 | アメリカの金融市場

  FRBは予想されたとおり利上げしましたね。

「イエレン議長、おめでとうございます!」

  9年半ぶりの利上げという大イベントを見事に乗り切りましたね。9月の見送りに次いで今回の利上げも、市場参加者の大方の予想を裏切らず、批判しようのない出来栄えだったと思います。

  NYの株式市場はさしたる波乱もなく224ドル上昇し、歓迎していました。米国債10年物の金利は敬意を払って若干の上昇ですが、これは動いていないに等しい。ドル円は50銭近いドル高、日本株は寄り付きから上昇し、終値でも303円のプラスでこちらも歓迎でした。

  このニュース、日本のテレビ報道ではトップに取り上げられていますが、今朝のアメリカのABCニュースでは4番目にやっと出てきました。欧州各国のニュースでも必ずしもトップではありません。強い関心の対象ではないのでしょう。

  利上げ直後のコメントのほとんどは証券関係のアナリストから発信されますが、誰もがもちろん「予想どおり」でした。

  たびたび申し上げているとおり、彼らは株式相場が上げ続けることに最大の関心を持ち、いわば会社を代表してポジション・トークをしているので、要注意です。だって9月の利上げはやめろの大合唱をし、その後も12月もやるなよ、と言い続けて「今年はない」と大半のアナリストが言っていたのに、今回は「予想どおり」とは、笑っちゃいますよね。

  今後の予想も同じ轍を踏む可能性はおおいにあります。例えばFRBメンバーのほとんどが来年の金利引き上げ回数を4回としていますが、いや2回、せいぜい3回と株価にマイナスになる材料をつぶしにかかっています。理由はインフレ率の低さです。イエレン議長はインタビューでその点を突かれると、「物価はいずれ上昇する。中期では2%に達する」と回答しています。そのとおりになるかは別としても、それを曲解するよりも素直に聞いておくべきだと私は思います。

  日本の報道は、今回のFRBの利上げは「歴史の転換点」というほど大げさにとらえ、世界が緩和時代から大きく転換し、利上げインパクトが世界に拡がると言っていますが、私はそうは思いません。比較感で言えば昨年10月のQE停止のほうが、量的によほど大きな転換に思えます。その時でも長期金利はびくりともしませんでした。今回の利上げにもどちらかと言えば肝心の金利だけが反応薄でした。長期金利上昇を期待されていた方には残念でしたが、私がコメントしていた政策金利と長期金利は別物ということがここまでは当たっているようです。


  では為替の話です。ドル円レートに集中して先行きを見通していきたいと思います。といっても今回は長期ではなく来年1年程度の見通しです。長期のドル円については、私は相変わらず円安方向をみていて、そのことは全く変化していません。

  このところのエコノミストや為替アナリストの見通しは、利上げがありそうだというあたりから、めずらしく大きく割れています。来年には130円に向かうという見通しと、いや110円に向かうという見通しです。比率としては円安組3分の2、円高組3分の1程度です。

  昨年末の今年の予想は穏やかな円安でほぼ一致していたのが、この2・3か月余りで見方が割れてきました。極端な為替アナリストは3月の利上げまでに130円、反対の意見の人は材料出尽くしで当面は110円に向かう、というほど大きな割れ方です。これまでのように120円付近で変わらずという人はほとんどいません。

  見方が割れた原因の一つはアメリカ経済、つまりファンダメンタルズの見通しの差です。円高組は、9月の利上げ見送りでアメリカのファンダメンタルズの先行きに怪しさを感じたのだと思われ、それがいまだに継続しています。決して日本経済の強さを予測しているわけではありません。日米のファンダメンタルズ、どっちが弱いかのくらべっこというわけです。ですから利上げまで円安はしょうがないけど、その後は材料出尽くしで、むしろ積みあがったドル買いポジションを解消していくため円高だということです。

  では一方の円安組はどうでしょう。こちらの組は来年のアメリカ経済は依然堅調であり、12月の利上げ後もFFレート(政策金利)は1年で3-4回の利上げを見込む。そして短期金利の指標である2年物金利も並行して上昇を見込んでいます。同時に日本経済はスローな状況の継続を見込む人が多く、円金利上昇を全く見込んでいません。昨日政府が出した16年度成長率「実質1.7%、名目3.1%」を信じる人はいません。

  その結果日米の2年物金利の差が拡大し、それにつれて為替もドル高円安に振れるという見通しです。ただし円安組は、日本経済はさほど強くないとみているのに、株価だけは強気です。なにしろ円安が株高の最高の支援材料なのですから。

  実はこの1年程度、ドル円相場は2年物の日米金利差の上下動と連動していました。先日解説した統計モデル風に言えば、「2年物金利差が為替変動に対して説明力を有している」ということになります。金利差と言っても、円金利は事実上ゼロ近辺のまま不動ですから、アメリカの2年金利が徐々に高くなり、円は連動して下げているという図式です。

  私の見方をまとめますと多数派と同じく、1年を通して徐々に円安が進むと見ています。どれくらいかについては、正直わかりません。

  ちなみに先日紹介したTrading Economicsの予測モデルでは、16年の第3四半期まで四半期ごとに円安が進み、第3四半期で129円です。もう四半期を勝手に延長すれば、ちょうど130円ということになり、私もその程度にみています。しかしブラックスワンは遠くの空に見え隠れしています。

  次回は為替の続きで、ファンダメンタルズの内容や、資本の動きを見ていきましょう。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする