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アメリカの金融市場について その11 ドル円レート見通し

2015年12月26日 | アメリカの金融市場

  クリスマスも終わり、今年もあとわずかになりました。報道でも今年を振り返る特集番組が多いですね。「アメリカの金融市場について」のシリーズも最後のテーマの「ドル円レート見通し」のまとめまできました。

  私が為替見通しで最初に申し上げたのは、来年の見通しはエコノミスト間でもかなり割れていて、ドル高派対ドル安派の比率がおよそ2:1となっているということでした。しかもお互いの主張はかなり確固たるものです。ドル高派では135円程度まで見ている人がいる一方、ドル安派では110円程度まで見ている人がいるというほど大きく割れています。変わらずとみている人が少ないのも今年の特徴です。

  その背景には、日米のファンダメンタルズに対する見方の差があります。ファンダメンタルズという言葉も、あらてめてみなさんに勉強していただきました。アメリカ経済強しとみる側はドル高、アメリカ経済はスローダウンすると見る側はドル安を見込んでいます。

  では為替を見通す上で私が大事だとしてあげた点をおさらいするとともに、若干の補足をします。

1.アメリカの利上げによる日米金利差拡大

  FRBは来年4回程度の利上げを示唆しているのに対し、日米のエコノミストは2-3回とみている人が多いようです。利上げによる日米の政策金利(翌日物)の差は1%から1.5%程度に拡がり、それが短期金利(3年物くらいまで)に波及すると、これまで世界に拡散していたドル資金の国内回帰を促し、低金利にあえぐ日本や欧州から資金を引き寄せることになります。

  一方日銀はFRB利上げ直後の政策決定会合で、補完的と言われる緩和策を提示しました。しかしその内容が逆にミソをつけ、市場は大幅な株安で反応しました。私自身は、日銀はこれといった決定打を有していないため、この先黒田マジックは効かなくなるとみています。その後の会見などで黒田総裁は相変わらず「できることはなんでもやる」と同じことを吠え続けていますが、私を含めいわゆる提灯持ちでないエコノミストは、「もうできることなどない」と冷静に見ており、奇手が出ても市場は暴落で答える可能性が大きいとみています。

2.日米のファンダメンタルズ較差

  ファンダメンタルズと言われる様々な経済活動を総括したものがGDPで、その日米の先行きが為替動向に影響します。成長率較差はドル高を促す方向に拡大する一方で、この先も縮小は難しい状況です。特にインフレ率を反映させた名目GDPでは4%近い差があります。

  そしてアメリカのファンダメンタルズ改善の象徴として私は「双子の赤字が明白に解消に向かっている」ことを説明しました。この解消に向けたトレンドは今後も進行すると思われます。

  双子のうちの一つは「財政赤字」です。GDP比率で見るとアメリカの財政赤字は09年の13.7%の赤字から3%へ、10%もの改善を示しました。一方日本も改善はしているのですが、同時期に8.9%から6.6%へのわずかな改善に留まっています。

  そして累積債務のGDP比は直近で両者とも増加し続け、日本の財務省資料によると、15年末でアメリカの110%に対し、日本は234%と2倍の開きがあります。なお、この財務省発表数字ですが、これは決していわゆる大本営発表ではなく、警鐘を鳴らすためむしろ正直な数字を出すので、信用がおけます。

  双子のうちのもう一つは「経常収支」です。06年と14年を比較すると、アメリカの経常赤字のGDP比率は▲5.8%から▲2.3%へと良い方向に半減し、日本の黒字幅は逆に4.0%から0.5%と悪化してしまいました。

  上記の双子の赤字の数字を私は単なる絶対値の数字ではなく、GDP比率で示しています。その理由を説明しますと、同じ赤字の数字が続いていたとしても、経済が成長していれば問題は解消に向かうし、逆に日本のように成長するどころか名目成長率が縮小したりすると、問題が大きくなってしまうからです。こうした数字のアヤは、慣れた人間でないと見極めにくいのですが、みなさんも是非少しずつでもお勉強してみてください。

  今回示した過去の数字について、もう一言。何故しつこくこうした双子の赤字の数字を振り返るのかと言いますと、みなさんに長いスパンでの両国の国力の差をしっかりと認識していただきたいからです。私の経済の見方は常にこうした数年単位でものを見ています。これまでも繰り返し申し上げてきましたが、長いトレンドを頭に描いた上で数字をみると、目先の数字に振り回されないようになるからです。

  ところが日常で目にする経済指標は、やれ先月の雇用はとか、先月の物価はとか、月単位や四半期、せいぜい前年比という程度のスパンです。それは株価に振り回される株屋さん達の見ている数字で、そうした短期の数字に惑わされると本当の先行きが見えてきません。

  私が債券投資にあたって物を見る見方は、数年、数十年の単位です。その重要さをわかっていただきたいために、繰り返しているのです。

  さて、私は来年円安を見込んでいることをお伝えしました。それは1年先だけをみているのではなく、長いスパンの脈絡から見ているのです。そして初めにお伝えしましたが、レベル感としては130円程度です。その実現時期はとても特定まではできませんが、アメリカの緩やかな利上げペースに見合った程度とみています。つまり後半だろうと考えています。ただし、FRBの利上げ前に私が「政策金利上げ、即、長期金利上昇ではない」とお伝えし、実際の動きもそうなっていることを是非忘れずに頭にとめておいてください。

  と言いながらも、為替の予想なんてしょせん当たるも八卦であることもお忘れなく(笑)。

  では次回は「アメリカの金融市場」シリーズの最終回として、全体をまとめることにします。


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