ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
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ドイツに敗れた日本

2014年08月15日 | 2014年の資産運用
「サッカーの話ではない。」という言葉で始まる非常に興味深い内容のコラムが、8月13日の日経新聞に掲載されました。

 私はワールドカップでも、ドイツの速攻サッカーが世界の先端を行っているのに対して、のろくさとパスを回し続ける日本のサッカーは一昔前のサッカーだと感じていました。ボールのキープ率がいくら高くても、キープする時間が長ければ長いほど相手は守備陣形を固められる。相手を疲れさせるつもりが、自分のほうが先に疲れてしまったのが日本でした。それに対してドイツはボールを奪うと5秒・10秒後、相手が守備に着く前もうシュートを放っている。いわば異次元のサッカーで勝利をものにしました。今回のお話は、経済の日独対決でも決着ありというお話です。

<要約>

・ 戦後はともに戦勝国の復興計画に支えられて、見事に復興を遂げた

・ 違いが鮮明になったのは近隣諸国との関係で、ドイツは独仏融和を軸に欧州連合を築き、深化・拡大させた

・ 日本は中国、韓国という重要な隣国との関係でつまずいている

・ メルケル首相は国際政治の舞台でもイランの核問題やウクライナ危機打開で鍵を握り、リードしている

・ 安倍首相は中韓と対話すらできずに関係を悪化させている


そして歴史をさかのぼれば、

・ 経済では「財政規律、強い通貨、物価安定」を優先させたドイツに対して、日本は360円に安住し、過剰流動性からバブルを発生させ、その後始末に財政出動を繰り返し、いまだに財政規律を取り戻せていない

・ ドイツは財政黒字を達成し、赤字国債発行なしの予算が組めるのに、日本はいつまでたっても赤字解消は念仏のように唱えるだけ

・ ともに経常収支の大黒字国だったのに、ドイツは中国を上回る最大の黒字国になり、日本は経常赤字に転落しつつある


・ 近隣諸国との関係冷却が世界の成長センターの恩恵を享受できなくしている

そして結論は「ドイツに学ぶしかない」と結ばれています。


 この分析、日本を完膚なきまでに打ちのめしているように思えます。アベチャンに見せてやりたいですね。
 2カ国の戦後をたどれば、まさにアリとキリギリス。こつこつと教科書どおりにやり遂げるドイツに対し、歴史から学ぶことなく一発逆転にかけ続ける日本。最終ホールでプッシュをかけるみじめなゴルファー象がダブります。

(注)ゴルフで言う「プッシュ」とは、ホールごとの勝敗を対象にした賭けゴルフで一方が負け続けた結果、最終ホールで1つくらい勝っても焼け石に水の状態になったとき「プッシュ」を宣言します。勝てばそれまでの全負け数をチャラにすることができ、負ければ全負け数が2倍になってしまうやり方を指します。そこまで負け続けたゴルファーが負ければ2倍の大きなプレッシャーの中で勝てる可能性は低いのです。今のアベチャンの心境やいかに(笑)。といっても私はゴルフに限らず賭けごとは一切しません、念のため(笑)
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著書のとおりに投資をしていたら?

2014年08月08日 | 2014年の資産運用
 今月で私の著書「証券会社がうりたがらない米国債を買え」が出版されて丸3年になります。それを期に著書の内容に沿った投資を3年前に実行していたら結果はどうなっているかをレビューしてみます。

 私が著書でお薦めしていたのはもちろん米国債ですが、それだけではリスク分散ができないという方、あるいはもう少しリスクを取ってリターンをという方に向けて3つの代替を提案しています。それらをまとめてレビューしますが、同時にベンチマークとして日本国債や日米の株式に投資したらどうなっているかの比較もしてみましょう。

 お薦めは代替を含めて、米国債、バークシャーハサウェイ株、アメリカREIT、豪州国債の4つ。そして比較対象は日本国債、日経平均、NYダウです。債券は金利変動によるキャピタルゲインを加味する場合と加味しない場合を示します。著書の執筆時11年7月末の円ドルレートは81円、豪ドルレートは87円でした。8月8日時点(海外は前日)でのレートはそれぞれ102円と94円とします。

1.米国債・・・著書ではP.211のシミュレーションを参照してください
10年債 金利3.12%で運用開始
複利の運用で金利分は9.7%(3.12%の3乗)
為替差益102/81=125.9%  
キャピタルゲインは100⇒107.3%
それらの合計は、100⇒148.2(100X1.097X1.259X1.073)
 3年間プラスで48%の運用結果でした。かなりの高率ですね。

30年債、金利4.37%
複利の運用で金利分は13.7%
為替差益は102/81=125.9%  
キャピタルゲインは100⇒125.2%
それらの合計は、100⇒179.2
3年間で79%のゲインです。これはもうすごいとしか言いようがない!

10年債、30年債ともに持ち切りを前提とするなら、キャピタルゲイン分を除いてください。それでも10年債でプラス38%、30年債ではプラス43%となります。

2.バークシャー・ハサウェー株(A)

2011年7月末 115,000ドル ⇒ 194,001ドル  168.7%
為替差益は102/81=125.9% 
合計 100X1.687X1.259=212.4%
2倍以上、112%のゲインです。なおバークシャー株はたったの一株が2千万円もしますが、もっと安く買えるB株があって、それは現在1株1万3千円程度で買えます。

3.アメリカのREIT(FTSE NAREIT INDEX)

2011年7月末 145.7 ⇒ 176.97 121.5%
為替差益は102/81=125.9%
合計 100X1.21.5X1.259=153.0%
53%のゲインです

4.豪州国債
 
30年債はないため、10年債のみでみます
金利5.23%で運用開始
複利の運用で金利分は16.5%(5.23%の3乗)
為替差益94/87=1.080%  8%のゲイン
キャピタルゲインは100⇒113.9%
それらの合計は、100⇒143.3(100X1.097X1.08X1.139)
43%のゲインです。償還までの持ち切りを前提にキャピタルゲインを除いても26%のゲインがあります。

では、比較のためベンチマークである日本国債、日経平均、NYダウをみてみます。

①日本国債;10年債の金利は1.18%でした。
金利のゲインは 3.6%
キャピタルゲインは5.4%
合計では 9%のゲイン。キャピタルゲイン除きだと3.6%のゲインです。

②日経平均株価
11年7月末  9.833円 ⇒  14,778 150.3%
50%のゲイン

③NYダウ
11年7月末 12,143ドル ⇒ 16.368ドル 134.8%
為替差益は102/81=125.9%
合計 70%のゲイン

こうして11年7月末を起点として並べてみると、すべての資産がプラスでマイナスはありませんでした。

・米国債10年   48%
・米国債30年   79%
・バークシャー株 112%
・アメリカREIT  53%
・豪州国債    43%

そして比較対象のベンチマークは
・日本国債 9%・・・為替のロスをドル建てで考えればなんとマイナス13%です
・日経平均 50%・・・為替のロスをドル建てで考えれば19%のゲインです
・NYダウ 70%

ではこの結果をどう評価するか。

私の考え方を率直に述べますと、

「大きなロスを生じる危険性のある株式(REITは株式)で運用してこの程度であれば、リスクを冒す必要などない」となります。超安全な米国債でもたった3年で10年債なら約5割、30年債なら約8割も儲けが出ました。

そして同じ様に一応世間的にはリスクがないとされる日本国債については、

「あそこまで買われているのに、こんな程度のパフォーマンスしかない。だから海外投資家は見向きもしないのだ」となるのです。インカムゲインはほとんどない上に、これ以上のキャピタルゲインも見込めない。これはもうクロちゃんに引き取ってもらう以外に金融資産として価値のない資産なのです。

 そしてもう一つ申し上げたいのは、出版時に「そんな低金利の米国債なんか今さら買えないよ」とおっしゃった方々へ、

「かっときゃよかったですね(笑)」


以上

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米国債投資のタイミング もりもりさんへの回答です

2014年08月05日 | 2014年の資産運用
 もりもりさん、プロフィールの登録、ありがとうございます。しっかりと追加いたしました。またご質問をいただき、ありがとうございます。団塊リタイア組世代の方はこのブログの読者の方に多いと思います。その方々にも参考になると思いますので、こちらの本文でしっかりと回答させていただきます。

 小売業のご出身ですと、資産運用はなじみが薄いと思いますが、よく勉強されていらっしゃる様子がうかがえますね。質問項目に沿って私の回答・見解を述べさせていただきます。順序を変えます、あしからず。

質問2: 「債券価格が100を超えていても、満期時点で円安になれば持ち出し分が戻る」との理解で正しいでしょうか?債権の価格、金利や為替は、わかりにくいですね。

回答; たしかに債券の世界は単純なようで複雑ですね。では回答です。まずクーポン利率の高い残存期間が5年程度の債券に投資して満期まで保有し、その償還時に長期債に再投資するという戦略ですが、この作戦も「あり」だと思います。現在の低金利がいつまで継続するか予想するのは難しいのですが、少なくともFRBの緩和策は終わりが見えてきていますので、将来の金利上昇の可能性に賭けるのは大いにありだと思います。

 いただいた例の5年物債券の最終利回りを計算しますと、1.64%くらいです。クーポンは3.375%と高いですが、5年後に9%弱程度のキャピタルロスが生じますので、それを加味すると最終利回りは1.64%になるという計算です。これはイールド計算機でないと計算できません。そしてこの1.64%はドル建て計算です。あくまで為替が現在のレベルを維持したとすればということになります。

 ご質問は、満期時点で現在より円安になれば、為替益で元本のロスを回復できるかということですが、もちろんその通りです。9%程度の円安で相殺されます。

問1: 5年後の満期の時点で買い換えを予定しているとして、今後米国の金利が上がれば、クーポン4%前後の長期の債券も出てくる可能性はあるのでしょうか?

 現時点でも30年債の新発債であれば3.3%程度のクーポン利率ですので、今後4%くらいの長期債が出てくる可能性は大いにあると思います。また既発の残存20年程度の長期債であれば、4%以上のクーポンのついた債券はありますが、このところ日本の証券会社の利付債券の在庫は払底していますね。きっと私がリタイア世代に示唆している「インカム重視」という考え方の投資家が増えているからでしょう(笑)。高齢になって元本が返ってきても使えないことの方が多いと思いますので、どうせなら20年債という中途半端な年限でなく、金利のより高い30年債を選択してみてはいかがでしょう。20年経って売却する時には残存10年債になっていますので、もしその時点で売却されても大きな損失が出るとは見込みにくいと思うからです。

質問3:それとも、金利が3%以上になり価格が下がるまで、しばらく米ドルで待ったほうがよいでしょうか? しばらく=年内位でしょうか?

ここでの金利は10年債のことですよね?
10年債の金利が3%超えになるのが年内くらい、あるいは来年なかば、ということを確約することは私の手に余ります。私の勝手な見通しでいえば、3%を超える可能性は大いにあると思います。

 これまでの回答と若干矛盾するようですが、もりもりさんの場合かなりの程度ドルに転換済みですので、5年債投資プラス長期債への再投資でいくより、のんびりと金利上昇を待つのが得策に思えます。

 以上、当たるか否かわからない金利予想を含めて回答させていただきました。

参考になれば幸いです。



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アベちゃんの潮目は変わったか、3

2014年08月02日 | 2014年の資産運用
 ただの投資家さん、Owlsさん、山ちゃん、たかさん、多くのコメントをいただき、ありがとうございます。

 たかさんのおっしゃるように、「なんだか暗い」ですよね。

 そしてたかさんの最新のコメントにある「消費税を今さらに増税すべきではない」、に関してですが、3つの理由を私もそのとおりだと思います。異存は全くありません。しかしそれでも増税しなければならないほど財政状態が悪いのが今の日本だと思っています。
 例えば株価はどう反応するか。増税=再建は国際公約でもあるため、海外投資家はそれを織り込んで日本株を買っています。ですので増税回避は財政悪化と同義語のため、売り材料になってしなうのです。IMFも消費税は10%なんかでは不足だと言っていますし、株価のためにも増税は回避できないと思います。

 さて、今週は週末までに大きなニュース、イベントがたくさんありました。中でも市場が大きく反応したのは意外にもアルゼンチンのテクニカル・デフォルトでした。
 最近市場が下落するニュースのほとんどは、世界の誰も全く予想していないか、イベント予定は知っていても予想を上回るインパクトが出て市場が強く反応しまうことばかりです。春先からのウクライナ問題、イラク国内の内戦、イスラエルとハマス、アルゼンチンのテクニカル・デフォルトなど年初の予想などには全くカウントされていませんでした。私がいつもみなさんに申し上げているように、「将来の出来事など誰も予想はできない。突発事故に対して十分に備えるべし。その手段は米国債しかない」のです。

 再確認のためみなさんにしつこく申し上げたいのは、最近の異常気象や天変地異は50年に一度の異変が2-3年に一度の頻度で起こっています。その状況は、世界の政治経済にも同じことが言えます。我々には予想すらできないことがすごい頻度で起こり、それが金融市場を通じてあっという間に世界に伝播します。

 日本の財政問題も国内的な要因ではなく、とんでもない外部要因によって突如コントロール不能な状況に陥るかもしれません。またリスクとしての認識があっても薄かったために見過ごされるような要因が襲いかかるかもしれません。

 ここでは一つ、普段から私が注意すべきと思っていることを皆さんにお知らせしておきます。昨日の日経新聞1面に「フラット35優遇延長」と言う見出しのニュースが載っています。内容は住宅着工がスローダウンしたので(そんなことはハナからわかっています)、対処策として政府の金利優遇支援策を延長するというものです。

 私の指摘は優遇策についてではなく、住宅ローンの根本問題です。すべての銀行は住宅金融公庫などがなくなり、企業の貸出が伸びなくなって以来、貸出の主力を個人の住宅ローン、それもフラット35に代表されるような超長期ローンに置いてきました。その貸出残高は118兆円にもなります。

データは日銀の以下のサイトで見ることができます。
http://www.boj.or.jp/statistics/dl/loan/ldo/index.htm/

 銀行にとって35年の長期固定金利ローンを出すということは、35年の超長期固定利付債を買っているのと同じです。発行者は個人です(笑)。つまり金利が上昇すれば、ローンの時価は債券と同じ様に値洗いしなければなりません。国債と違い償還まで持つので時価評価はいらない、などとはいかない債権です(債券ではありません)。アメリカでは住宅ローンの出し手はどんどん証券化してバランスシートからはずしますが、邦銀はそのままです。

 金利の上昇が始まると銀行はどう対処するのか。ちょっと専門的になりわからりずらいかもしれませんが、書いておきます。銀行はもしスワップの相手がいれば、長期の固定金利を変動金利にスワップしておけますが、スワップの出し手はあまりいないでしょう。

 長期国債の下落なら先物の売りでヘッジ可能ですが、個別住宅ローンにその市場はありません。そこで銀行は長期の金利先物市場を使って近似的に売りヘッジをするのです。長期金利の先物市場の参加者の主力は売りを浴びせるヘッジファンドです。そこに銀行も一緒になって売りヘッジをかけることになりますので、暴落に拍車がかかります。

たとえ時価評価を特例で「ナシ」としても、ローンを出し続けるための銀行の調達金利は上昇し逆ザヤになる可能性が出てきて、収益を圧迫します。ここでも登場するのは日銀のクロちゃんです。バズーカでは間に合わないので、核弾頭付きのテポドンを射ちこみ、なりふり構わず低金利での特例融資を拡大するでしょう。

 住宅ローン、みんなで渡れば怖くない(笑)。そしてTOO BIG TO FAILの原則。ここでもきっと横並び体質の銀行を政府日銀が救済せざるを得ません。金利の上昇は国債の暴落への対処だけでは済まないことを、みなさんにお知らせしておきます。住宅ローンが国債暴落の引き金を引く可能性もあるのです。

 というように、世の中には知らない、もしくは注意不足から見落とされているリスクがいっぱいあるのです。

 さて、暗い話ばかりが続きましたが、私はこうしたことがすぐ起きそうだと思って今回の「潮目はかわったか」を書いているのではありません。アベチャンの「誤算」をいくつか指摘していますが、アベチャンの「目算通り」もたくさんあるからです。一番はアベノミクスによる景況感の改善ですが、さらに
 ・ 円安
 ・ 株高
 ・ 大企業のベースアップへの協力
 ・・・などなど

 こうしたことは、延命には大いに役立っています。そして日本がそう簡単に破綻しないもう一つの大きな理由は、山ちゃんもご指摘のように、危うさは自覚していても、わからないものには手を出さない人が大半からです。「トイレットペーパー不足」だとわかりやすいので誰もが飛び付く。でも「外貨でヘッジ」などわけわかんないので飛び付かない。

 しかし潮目に変化が生じているのも確かです。私もOwlsさんのコメントにある
>巷で思っている以上に問題は深刻
に賛成ですし、たかさんの心配ももっともだと思います。

 ですので、今後もみなさんと一緒にムードに押し流されることなくしっかりと「数字」を追いかけて行きましょう。

 これまでは「株価・為替などが先行し、金利さえ抑え込んでいれば実態経済は追いかけくるはず」という図式でしたが、ここに来て実体経済がぐずぐずし始めたのは、アベチャンの支持率低下とともに要注意です。

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