ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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ちょっと横道、最近の経済動向について

2012年06月08日 | 資産運用 

  今回からは「デフレは克服できるか」のお話をさし上げるつもりでしたが、友人から「どうも世界がヤバそうな局面に入ってきているみたいだから、最近の経済動向を解説してほしい」という過分な(笑)リクエストをもらいましたので、今回は私の「最新経済の見方」をみなさんにも共有していただくことにします。


  このところの株価の下げ、ユーロをめぐる混乱、それに追い打ちをかける米国経済と中国をはじめとするアジア経済の低迷報道、どうみてもいいニュースがありません。こうした状況になると世界大恐慌論者が復活の兆しを見せ始め、「リーマンショックの再来か」とまで言われ始めています。本当にそうした状況になるのでしょうか?


  今回の恐慌再来論は間違っていると思っています。その理由を私なりに解説します。

1. 米国経済は報道で言われているほど悪くない


リーマンショックの再来などありません。理由は、アメリカの金融セクターは不良債権処理をとっくに終了していて、アメリカに失われた10年など来ないから。大手の銀行・投資銀行は不良資産の処理などリーマンショックから2年目ですべて終了していて、現状は軒並み1兆円をはるかに超えるレベルの利益を出し続けている。日本の銀行のように政府支援の返済に10-15年もかかる金融機関などなかった。バランスシートの調整など、とっくに終了。

12年のGDP成長率のコンセンサス見通しは現状でも潜在成長力並みの2.5%程度と、不況とはほど遠い。潜在成長力を実現できる経済のどこが悪いのか。ここにきて雇用回復がスローになっているが、依然として増加している。製造業の回復基調に大きな変化はない。原油価格の下落がガソリン価格を押し下げ、消費全般はこれからそのプラスの影響を受ける。雇用や消費動向など、波があって当然。


2. ヨーロッパは恐慌に突入したりしない

まずギリシャ。6月中旬のギリシャ再選挙がどうなろうとも、新政府は自国民を混乱に陥れる政策決定などできない。ユーロの離脱で困るのは新政府の人間も同じで、自ら自滅の道を選択することなどない。政治家が「自国通貨を作る」などと言ったら、その日のうちに自分も預金を引き出して、通貨ユーロの確保に走る必要がある(笑)。過激な政策選択など不可能。今後は駄々をこねて財政の立て直しに猶予をもらい、国民をゆっくりなだめる以外に道はない。

つぎにスペイン問題。スペイン問題の本質は政府の放漫財政ではなく、過剰な不動産投機の後始末で銀行が危機に瀕していること。政府の累積赤字は、GDP対比70%以下で、ドイツより低いって、みなさん知っていますか?ただし、昨年の年間赤字はGDP比8.5%とちょっと高め。日米に比べると低い。銀行の救済は、ECBの資金供給とスペイン政府の資金供給で可能。EU加盟国は、各国の銀行への飛び火回避のための政策手段を作りつつある。銀行を防御するシステムの構築が見えてくると、金融セクターも落ち着く。スペインの失業率の多さや、めぼしい産業のなさは今に始まったことではなく、数十年前から同じ。ただ不動産バブルで、2000年代中ごろから一瞬よくなったので、錯覚した。ペセタに戻ることなど誰も望まない。

そしてイタリア。政府債務のGDP比率は120%で、毎年の赤字規模はリーマンショックまでプライマリーバランスがとれていた。最近でもGDP比たったの4%。イタリア人は日本人と違い、昔から政府など信用せず地下経済という自助努力でしたたかに生きていた(笑)。せっかく地下から出てきたのに、誰も地下に戻りたくなどない。

  ヨーロッパ全体はマスコミの過剰反応と市場の過剰反応に翻弄され、しばらく経済が委縮するが恐慌などには至らず、世界の過剰反応が収まれば自律的に回復してくる。

  ということで、相変わらず日本にいて日本の報道だけを見ていると、あたかも世界は恐慌に向けて走り出しているように思われるでしょうが、経済・金融は数字さえしっかりと見ていれば、本当の姿が見えて、恐れるには足りないことがわかります。


  林は楽観的過ぎますかね?

みなさんのご意見も伺いたいです。
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4 コメント

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何年ものが良いのでしょう? (こうちゃん)
2012-06-10 21:18:05
拝啓 林様
先日書店で貴兄の書籍「米国債券を買え!」を購入させていただきました。
老後に向けて、何か投資をしなければいけないと何年も前から考えてはいたのですが、色々な方の話を聞いたり、書籍を読んでも、どうも今一つ腹にお落ちず、投資に踏みきることができませんでした。しかし、貴兄の書籍を拝読させていただき、やっと、投資という事が腹に落ちた感じです。
ただ、現在50歳という自分の年齢的ポジションから考えて、何年ものに投資するのが良いのかというのが、判断がつきかねているところです。
書籍の161ページ50歳の所に「40代の方の勝負を参考にしてください」と記されていますが、50歳で30年物ゼロクーポンを買うと、償還される時には80歳になってしまいますので、一寸これは無理だなと思います。
そうすると、30年物ゼロクーポンの残存期限15年くらいの物を購入したほうが良いのか?
30年物利付債を購入して、毎年の配当は、リタイアするまで再投資に回したほうが良いのでしょうか?
お忙しい中、大変恐縮ではございますが、ご回答いただければ幸甚です。 敬具


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こうちゃんへ (林 敬一)
2012-06-12 09:55:27
こうちゃんさんはヘンなので、こうちゃんと呼ばさせていただきます。

私の著書をお読みいただき、ありがとうございます。最近は宣伝もないため売れ行きがおちているようですが、著書のことをどこでお知りになったのでしょうか、聞かせてください。

こうちゃんはこれまで何もされなかったとのことですが、それは正解でしたね。腑に落ちないことはしない、これはとても大事なことです。私自身が同じ様な考え方の人間ですので、それを貫くことが投資で失敗をしない、一番の方法だと思います。

では、回答にあたり、ちょっとこうちゃんの考え方を確認させてください。

1.ここへきてあえて投資をする必要性を何故感じたのでしょうか。

2.投資の目的は何にありますか?
この質問、へんな質問ですよね。だって普通、投資したいというのは、お金を増やしたいに決まっているからです。でもあえてうかがいます。
こうちゃんが書かれている、50歳という年齢で15年物への投資ということは、65歳までは殖やす、と受け取れますが、その確認です。

であれば、
3.65歳以降はどうしたいですか?さらに殖やしたいか、それとも固定的なインカムをもらいたいか。

このあたりを伺ったうえで、アドバイスをさし上げたいと思います。きっとこのブログの読者の方も、年齢的に同じ様な方は多いと思いますので、みなさんの参考にもさせてください。

返信する
投資について (こうちゃん)
2012-06-13 01:03:57
拝復 林様

早々の、ご回答痛み入ります。

貴兄の書籍との出会いは、たまたま偶然に、書店で手にしたのがきっかけです。
ダイヤモンド社に、友人は何人がいるのですが、何故、初版の時に紹介してくれなかったのか?
一寸遺憾です。
自分の本を出版する時には、発売前から連絡してくる癖に(笑)

1.ここへきてあえて投資をする必要性を何故感じたのでしょうか。

A、投資については以前から考えておりましたが、納得のできる投資対象がありませんでした。

2.投資の目的は何にありますか?

A、増やしたいと言う事もありますが、減らしたくない、インフレをヘッジしたい。円だけの資産を最小限に抑えて、USD、ASDに分散したい。というのが第一義です。


3.65歳以降はどうしたいですか?

A、増えるに越したことはありませんが、固定的なインカムが優先します。

これは、私の個人的な考えですが、将来は、相当な円安、ドル高になると考えております。
日本は煮蛙のように、ゆっくりと死んでいくと思います。もちろん、母国ですのでそんな事は全く望んでおりませんが。
只、日本の経済活動に従事する者の、正直な実感です。 草々。             




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こーちゃんへ (林 敬一)
2012-06-13 14:34:07
こーちゃんの質問に回答させていただくにあたり、きっと他の読者の方の参考にもなるかと思いますので、本文にて回答させていただきます。

お許しください
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