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戦後70年、第2の敗戦に向かう日本  その8 黒田発言、日本国債のリスクについて

2015年02月21日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

  日銀黒田総裁のオフレコ発言の内容の一部がテレビで報道されてしまい、大きな話題になっています。最近の国債市場の変動に不安が募っている中での発言だけに、放ってはおけないニュースです。発言は先週の経済諮問委員会(首相も出席)の中でのオフレコ発言ですが、ご存知ない方のために報道元のテレビ朝日のHPからまず引用します。

 引用

先週の政府の経済財政諮問会議で、日銀の黒田総裁が日本国債の将来的なリスクについて言及したにもかかわらず、議事要旨から削除されていたことが分かりました。

(経済部・門秀一記者報告)
 前回の諮問会議は財政健全化がテーマでした。議事要旨の黒田総裁の発言部分、私が読んでも1分ほどです。しかし、実は自ら発言を求め、5分以上も日本国債のリスクなどについて話していて、そうした発言は議事録から削除されていました。出席者などによりますと、黒田総裁は、ヨーロッパで国債をリスク資産とみなし、銀行への規制を強化する議論が始まっていると説明しました。そのうえで、日本国債の格下げに絡み、「安全資産とされている日本国債も持っていることでリスクになり得る」などと述べ、財政健全化に取り組むよう訴えました。こうした発言はマーケットに影響を与える可能性もあるため、議事要旨から削除され、箝口令(かんこうれい)も敷かれたということです。
 日本銀行・黒田総裁:「財政について信認が失われれば、国債の価格、あるいは金利に影響が出る恐れがある。リスクがあることは事実でありまして、であるからこそ、政府は財政再建目標を決め、それに向けて着実に前進しておられると思う」
 20日の予算委員会でも論点となった財政健全化の問題は今後も大きな焦点となりそうです。

引用終わり

 

  この発言は今後様々な解説がなされると思いますが、私は大事な点は以下の点だと思っています。

1. 日本国債市場のボラティリティ(変動幅)がかなり拡大している中での発言のため、今後さらに動揺が走る可能性がある

 2. オフレコにして議事要旨から削除すること自体が日本国債のリスクの高さを表している

 3. 「安全資産とされている日本国債も持っていることでリスクになり得る」と言い切っているが、一番保有しているのは他ならぬ日銀で、そのトップが中央銀行の信認リスクを認めた

   面白いのは日経新聞の扱いです。他社スクープということもあるためか、本来なら一面で取り扱われてもよいほどのニュースですが、2面の「真相深層」というコラムで、財政に関する政府と日銀の蜜月に転機が訪れているというストーリーの中で少し取り上げただけでした。大本営のご意向に逆らわない配慮なのでしょうか。

   このニュースが出る前に私はある方から「海外投資家が日本国債をかなり買っているというニュースがあったが、何故か」という問い合わせを受けました。まだ回答をしていませんでしたのでこの場で回答をさせていただきます。

   海外勢の日本国債買いは私の見るところ「黒田プット」で儲けるためだと思います。クロちゃんが就任してほどなく私は「株式にしろ債券にしろ海外勢が買いまくる最大の根拠は下げに対しては日銀が買い取りで保証してくれるプットが付いているからだ」というコメントを書いています。これはリーマンショックから立ち直る際、FRB議長であったバーナンキが住宅ローン証券化商品を大量に買い取る様を指して言われた「バーナンキプット」をもじったものです。要は相場で負けそうになったらバーナンキに売ればいいということですが、日銀のクロちゃんはバーナンキより爆食するので負けることなく儲けられるということです。

   しかしここにきて債券相場は怪しくなっています。今年1月に10年物が0.195と史上初の0.1%台を付けて価格がピークを打ち、その後はむしろ不安定さを増し新規国債の発行で十分な需要がないまま不調に終わるなど、大きな変調きたしています。海外投資家も遂にクロダプットが付いていてもこれ以上は儲けられないと判断し、一部が撤退を始めているのでしょう。

 

  オフレコ発言の内容でもわかるように、彼は財政のリスクや国債保有のリスクを十分に理解しています。とにかく頭脳は極めて明晰な方ですから。しかし彼は日銀の力量というよりも自分自身の力を過信していたのです。箝口令で人の口に戸が建つと思っているくらいですからね(笑)。

   「2年で、2倍、2%」というバズーカ砲を発射するのに、まさか2年ぎりぎりで2%の物価上昇を達成できるだろうなどと思ってはいなかったはずです。当然もっと余裕しゃくしゃくでできるはず。「うまくいけば1年、悪くても1年半では達成可能で、あとの半年しゃ寝て暮らす、いや、ニッコリ笑って出口へ向かってやるさ」と思って始めたに違いありません。

  発射後1年近くまでは彼も「しめしめ」と思っていたでしょう。それが1年半後にまさかの真っ青、2年では降参となります。私がクロちゃんよりもっと強くその発言と考え方を批判したリフレ派代表で副総裁の岩田規久男氏は、すでに「わるうございました」と白旗を掲げています。

   では今後国債市場はどうなるのか。私は一気に総崩れはないと思っています。もう少し金利が上昇すればまた海外の短期勝負のヘッジファンドが戻り、クロちゃんにプットしてしこたま儲ける。そうしたことがしばし続くのでしょう。それが本格的に変調を来すのはクロちゃんが言うように「ヨーロッパで国債をリスク資産とみなし、銀行への規制を強化する」、あるいは日本国債の格付けがさらに低下する。そして国債の引き受け手に困る状況になってからだと思います。

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1 コメント

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Unknown (Owls)
2015-02-21 19:11:06
こんにちは。
またお邪魔させて頂きます。

日経新聞の気になる記事としては、
小さな記事でしたが2024年度には国債利払いが
24兆あまりになると財務省が試算してるとの
記事がありました

以前、内閣の大臣の1人が2020年度の国債費は
43兆程度と答弁していたと思います。だいたい
利払いが国債費の半分程度だとすると、2020年度は
利払いだけで20兆前後ということになります。
2024年度が24兆ならそれほど間違った数字ではないと思います。

そうなると、利払いだけで20兆前後もあるのに、
まともな予算が組めているのか非常に気になります。
バブル絶頂期の税収でも60兆程度。それだけの税収でも
利払いだけで20兆前後消えるとなると相当な割合です。
多少はオーバーな試算だったとしても、クロちゃんが
青くなってるところをみると、自ら認めた国債リスクを
日銀が最も背負ってることを考えると頷けます
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