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戦後70年、第2の敗戦に向かう日本  その9 でかしたアベチャン

2015年03月04日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本
 

戦後70年第2の敗戦に向かう日本のシリーズに戻ります。

 これまでのお話を簡単にまとめますと、

 ・バブル時代が終わった時点で政府は痛みを伴う処理をせずに、財政を使った大判振舞いを続けた

・処理方法を間違えたことにより、長期低迷が始まった

・ツケを後の世代に先送りすることは世代間格差を決定的なものとしてしまった

・先代のツケを背負わされた若い世代はやる気を失っている

・バブルとはかつてのエクイティファイナンスに象徴されるような自己増殖の過程を経る

・今の政府・日銀は自分で発行した債券を自分で買うという債務の自己増殖を行っている

・債務の自己増殖を解消するために政府日銀は勝てるはずのないバクチに打って出た

・若い世代はこのバクチのツケまで背負わされるため、ますます将来を悲観的に見ざるを得ない


   私はトマ・ピケティの「持てる者と持たざる者の格差は拡大の一途をたどる」という議論に加え、日本ではこの「世代間格差」こそが最大の問題だと思っています。普通ならそれはかなり政治的不安定さをもたらすはずが、今の若者は牙を剥くことはしません。非正規社員化と低賃金を甘受し、声を上げず選挙にも行かない。

  トマ・ピケティは民主主義が資本主義をしっかりと正していく手段だと言っていますが、日本の実情は選挙権の半数近くを高齢者が占めるシルバー・デモクラシーとでも言うべき状況で、若者が選挙で世の中を変化させるチャンスはほとんどありません。そうした無力感が彼らの投票率の低さの原因でもあると思います。

    では若者にチャンスはないのか。いいえ、小さな変化の芽が出てきています。

 「就職戦線異状あり!」

   かつて日本の高度成長期に求人市場では新卒者達が「金の卵」と呼ばれた時代がありました。今また新卒者が金の卵としてもてはやされ始めています。バブル崩壊後20年以上のあいだ就職氷河期と言われ続けましたが、それに較べると大きな変化です。高卒・大卒を問わず内定率が大幅に向上し、企業の新卒獲得競争が激しくなり就職協定破りが横行。売り手市場が久々に復活しています。

    この新卒の就職を巡る動き変化はアベノミクスの数少ない明るい側面を映しだしていると思われます。

 「若者よ、逆襲せよ!」


   ではこのあたりでその他のアベチャンのでかした側面も整理しておきましょう。

 ・株価の上昇・・・15年ぶりの高値更新

・円安への転換・・・資産目減りという負の側面もありますが、輸出企業の業績に大きく貢献し、外人観光客が大幅増加

・企業収益改善・・・昨年の第4四半期に日本企業全体の経常利益は史上最高を更新

・輸出の増加・・・貿易収支の大幅な悪化には若干歯止めがかかっています

・労働市場の改善・・・失業率の低下に加え、賃金が上昇。昨日発表の毎月勤労統計で基本給が前年比で0.8%上昇。これは15年ぶりの高さ。しかし物価上昇を差し引くと実質賃金はマイナスが継続

   以上、多少とも明るくなった指標を掲げてみました。こうしてみると明るくなった側面はどうも企業側に偏っていて、我々一般人にはいまだにアベノミクスの恩恵は届いていないようです。

  今後このシリーズはアベノミクス最大の問題点である財政問題に入りたいと思います。

 

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14 コメント

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Unknown (目白のおっちょこちょい)
2015-03-04 18:33:28
この4点のまとめをすっきりしました。

>・バブル時代が終わった時点で政府は痛みを伴う処理をせずに、財政を使った大判振舞いを続けた
>・処理方法を間違えたことにより、長期低迷が始まった
>・ツケを後の世代に先送りすることは世代間格差を決定的なものとしてしまった
>・先代のツケを背負わされた若い世代はやる気を失っている

恥ずかしながらついこの間まで「なぜ日本経済はこのような状況なのか?」は全く分からず「不況」という一言しか知りませんでした。
なぜ不況か?を納得がいく分かりやすい議論が提示されていたのは、藻谷浩介さんくらいです。
最近の林さんのシリーズで、政策的ミスも大きいことが分かってきました。

> 日本ではこの「世代間格差」こそが最大の問題だと思っています。普通ならそれはかなり政治的不安定さをもたらすはずが、今の若者は牙を剥くことはしません。

振り込め詐欺くらいが持てる高齢者からの所得移転が成功している例ですね(笑)
若者にちゃんと移転されてはないようですが。

そもそも若者に限らず多くの方は「世代間格差」が存在していることを知らないんじゃないでしょうか?
常識として共有されているのは「景気が悪い」・「年金は破綻しそう」・「国の借金が多い」程度で、その原因も「少子高齢化社会」という言葉で思考停止なのかもしれません。
でもネットでも少し調べればいくらでも情報は得られますが、何なんでしょうね?私もよく分かりません。
ネットとスマフォにエネルギーを吸い取られているのでしょうか。

30代前半後半の同年代に聞いてみても財政や政治に詳しくはなく、財政も年金も、少子高齢化もどうにもならないので諦めているのは確実で、将来に対する不安感があってどうサバイバルするかという方向にエネルギーを注いでますね。


まとまりなくてすいません。
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Unknown (Owls)
2015-03-04 19:13:44
こんにちは。

このところの新卒者の就職事情の改善は
アベノミクスの成果というよりは、団塊世代が
完全に労働人口から消滅したことによる
労働人口減少そのものが大きな要因だと思います。

労働人口減少は蓄えを使うだけの人達が増加し、
さほど消費が増えたというわけでもないのに
家計貯蓄率がマイナスに陥るという状態です。
日本のバブル崩壊を予言した何とかという人も、
日本の家計貯蓄率がアメリカより低いのは驚き、
それは人口動態で説明できるとコメントしてました。

稼ぐ人が減少していくのに昭和の夢よもう一度とばかりに
バラマキを続けるアベちゃんには恐怖を感じます。
本気でバラマキをやるだけやって逃げるつもりではと疑っています。
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Unknown (用心棒)
2015-03-04 23:21:35
こんばんは。

 都市と地方、高齢者と若者、ネット世代とPC弱者、正規と非正規など色々ありますね。

 若者は車に興味がないのではなく、買えないのです。また貯蓄が減っているのはしたくてもできないから、結婚をせず、子供を産まないのは先立つものや将来を楽観できる職場環境ではないからでしょう。

 法人税を下げるのは国際競争を勝ち抜くためにも問題ないでしょうが、下げる分の使い道は内部留保だけではなく、減税分の3割程度は従業員給与に充てるとかすれば、消費に回るのではないかと思います。

実質賃金や可処分所得を向上させなければ現役世代は成長実感など味わえません。

なんだか不満ばかり書いてしまい、申し訳ございませんでした(笑)
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Unknown (ひまわり)
2015-03-05 03:26:19
こんにちは(^-^*)/
いつも、勉強になります。
経済通の方が一貫してブログで安倍政権がいかに愚かな政策をしているか唱えておられます。読むごとにこの先、我々の生活はどうなっていくのか不安だし、その時の為に慌てないために知っておきたいです。次回の、グログ楽しみです。
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若者はインフレ待ちでは? (弥七)
2015-03-05 08:03:00
はじめまして。私は山崎元さんの書評を読み林さんの本に出会いました。ブログも楽しみにしています。

自己増殖する借金にケリをつけるには、歳出削減で追いつかないので増税かインフレのどちらかしかなく、増税は政治的に不可能なのでインフレになるということですよね。
インフレになっても、職があればもらっている給料も上がるので暮らせます。年金はそうはいかないでしょう。世代間格差がインフレで調整されるのは、自然の摂理に思えます。労働力しかない若者には、インフレは希望です。
橋本さんも、野田さんも正面から増税を訴えましたが、票にはなりませんでした。政治は無策ではありませんでした。お年よりも増税は嫌だと。お年寄りこそ増税を願うべきですが、そういう流れはできませんでした。
来たる大インフレは団塊の世代には敗戦です。逃げ切ったつもりが、つもりで終わります。今の若者は、先代が作った大借金が減るのですから大喜びです。生活は苦しくなっても、さらに悲惨な老人に比べれば、相対的に豊かになるので若者の中流意識が復活するでしょう。老後まで時間があるので、年金が激減しても準備ができます。心配ありません。



私は42歳です。若くも年寄りでもありません。地方都市に住むメーカ勤務の設計技師で、子供が3人居ます。勤倹生活で一億の資産をつくったのが自慢です。林さんのアドバイスに従い、全額日本株だった資産を、外貨建てに移し変えはじめました。これからもいろいろ教えてください。
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目白のおっちょこちょいさんへ (林 敬一)
2015-03-05 14:48:49
私の「バブルのまとめ」の話でかなりすっきりとされたようですね。よかったです。

>財政も年金も、少子高齢化もどうにもならないので諦めているのは確実で、

この3つの問題、財政・年金・少子化は政府が人口構成をしっかりと見て政策を決めていればかなりの程度手は打てていたはずです。これほど簡単に予想できるものはないのですから。

特に財政・年金問題の解決は超長期のリードタイムは要しません。少子高齢化は対策が奏功しても効果が出るのは30年後ですが、実はバブル崩壊後すでに25 年近く経過しています。早く手を打っていれば・・・

財政出動以外の知恵を持たない愚かな政治のツケがしっかりと回ってきつつあります。若者に気概があるなら、どなたかが言ったように「この国を出でよ」が唯一の正解なのかもしれません。

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用心棒さんへ (林 敬一)
2015-03-05 14:49:49
>若者は車に興味がないのではなく、買えないのです。また貯蓄が減っているのはしたくてもできないから、結婚をせず、子供を産まないのは先立つものや将来を楽観できる職場環境ではないからでしょう。

全くもって賛成です。

うちの息子(35歳)も同じことを言っています。

ただいま家を買うか否かで悩んでいます。

返信する
ひまわりさんへ (林 敬一)
2015-03-05 14:51:09
私のブログを楽しみにしていただき、ありがとうございます。

>我々の生活はどうなっていくのか不安だし、その時の為に慌てないために知っておきたいです。

おいおいそうしたことにも触れますね。

現在進行形のギリシャ・ロシアなどの経過を見ておくのも役に立つと思います。


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弥七さんへ (林 敬一)
2015-03-05 14:53:36
山崎さんの書評からこのブログにいらしたんですか。それがきっかけとおっしゃる方は初めてかもしれません。

それにしても42歳でお子さんが3人いて一億円の資産を作ったとは本当に驚きです。日本株の投資がよほどうまくいったのでしょうか。せっかく作った資産、今後は大事に大事にキープしてください。

>来たる大インフレは団塊の世代には敗戦です。逃げ切ったつもりが、つもりで終わります。

そのとおりですね。我々団塊の世代にとっては初めての敗戦です。バブルを楽しんだのですから、それくらいのツケは払いましょう。

私は年金を60歳すぎてすぐにもらい始めています。先に延ばして多くもらおうなどとは決して思いませんが、周りの友人達はけっこう先延ばししています。いつまでまともにもらえるか、私は希望的観測はせずにいくつもりです。

>今の若者は、先代が作った大借金が減るのですから大喜びです。生活は苦しくなっても、さらに悲惨な老人に比べれば、相対的に豊かになるので若者の中流意識が復活するでしょう。老後まで時間があるので、年金が激減しても準備ができます。心配ありません。

そうですよ。理不尽な先人の借金などインフレで踏み倒せ!

あまり書くと夜道が危なくなるかも(笑)
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60歳から年金受給とは! (弥七)
2015-03-05 23:26:40
コメントありがとうございます。
林さんの先の見通しから、おそらく60歳から年金をもらっているはずと予想していましたが、本当にそうだと聞いて驚きました。まさに言行一致ですね。

私が就職したとき育英会に200万円の借金がありました。先月資産一億達成したときは本当にうれしかったです。誰にも自慢できないのが残念です。
実は地方に住むエンジニアに、小金もちが多いです。残業代が多く、大きな家に親と同居するので家賃もかからず、共稼ぎできるのでお金がたまります。(私は同居していません)

私が昔勤めていた会社の組合が、投資信託の会社を持っています。意識の高いナイーブな小金もちが多く、澤上さんに影響を受けて会社を作ってしまったものの、投信は売れず経営はぼろぼろで、運転資金のため増資を続けた果てに、大減資した上で澤上さんに出資してもらったようです。まだニュースになってはいないようです。
http://www.unionam.co.jp/company/index.html

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