ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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吠えるなトランプ!

2018年12月21日 | トランプでアメリカは大丈夫か?

  きまぐれトランプの政策を普段から批判していたと言われ、「そして誰もいなくなった」劇のいなくなる候補の筆頭だったマティス国防長官が辞任するというニュースが飛び込んできました。マティス氏はトランプに引導を渡される前に、「シリア撤退は国益には反するし、同盟国との関係を悪化させる」とはっきりとした辞任声明を出しました。悪いことは悪いと言う立派な軍人です。

   といっても辞任は大方の予想通りです。報道では全軍の司令官である大統領と国防長官の二人が、数か月も会話をかわすことがほとんどなかったというのですから、異常を通り越してあきれるばかりです。もちろんアメリカの一方的シリア撤退に対する世界の反応は大反発です。特にアメリカと一緒に依然ISと戦っている「有志連合」を組んでいる英仏首脳の反発は強いものがありました。またアメリカ議会でも与党共和党の有力議員が「ここで撤退すべきではない」と強く異を唱えました。そのニュースを時事通信から引用します。

 「トランプ米政権がシリア駐留米軍の撤収を開始したことについて、与党・共和党議員から19日、批判の声が噴出した。ルビオ上院議員は記者団に「シリアからの米軍撤収の決定は大間違いだ」と指摘。「今後数カ月から数年、(中東で)大きな反動が起きるだろう」と警告した。グラム上院議員はツイッターで、シリア撤収について「オバマ前大統領同様の大失敗になる」と批判。オバマ氏が米軍をイラクから撤退させた後に過激派組織「イスラム国」(IS)が台頭したことを念頭に懸念を示した。さらに「(対ISで連携してきたシリアの)クルド人勢力を危険にさらすことになる」と強調した。」

   でも世界には、ただ一人撤退に歓迎の意を表した人がいました。ロシアのプーチンです。衝動的トランプはこれでプーチンの思うつぼにはまり、彼がほくそ笑んでいることまで考えは及んでいません。トランプは兵士をクリスマス前に帰還させたと言いたいだけの衝動的決断を、側近たちの制止もかかわらず実行したのです。ではタイトルの話に移ります。

 

トランプの遠吠え その1

  金融市場では株や原油価格が暴落しています。特に株価で命脈を保つトランプが、暴落をFRBの利上げのせいにするために大声で吠えています。自分で選んだ議長なので思うがままに操れると思いこんでいたのでしょう。FRBのパウエル議長はトランプが吠えれば吠えるほど、「誰がおまえの言うことなんか聞くもんか」という毅然とした態度でのぞんでいるように思えます。FRBの本分は政府から独立した政策を決定することにあるので、いくら吠えても無駄です。私としては、今回の利上げでトランプの犬ではないパウエル氏の本当の姿がわかり、とても安心しました。

  

トランプの遠吠え その2

   トランプは選挙戦で「メキシコ国境に壁を作る。払うのはメキシコだ」と千回くらい叫んでいましたが、全く実現できていません。その後も壁を作るぞと吠え続けましたが、中間選挙の下院での敗北がその公約に予算面でノーを突き付けています。壁建設の予算案を議会が承認しそうもないのです。

  いや、まてよ。メキシコに払わせるのだから、中間選挙の敗北なんか関係ないはずだよね、トランプちゃん。

   そしてまた連邦予算を巡り、このたびはトランプサーカス劇場がオープンしました。「財政の崖歩きショー」が久々に始まったのです。オバマ政権時代の2011年夏ころから共和党のいやがらせで、財政の崖問題が頻繁に起こっていました。しかもその時の論点は国債の利払いができるか否かだったので、私の著書「米国債を買え」がもろに影響を受けました。最終稿を出し終わって旅行に出ていた私をダイヤモンド社はNYでつかまえ、私に「利払いができずにデフォルトしたらどうなるのかを書いてくれ」と依頼してきました。そこでしかたなく、「そんなデフォルトは政治ショーだから大丈夫。ボクシングで言えばスリップダウンだ」と書き送り、それが追加されました。

   今回は内容が異なり、議会は暫定予算を通過させたのですが、その中にメキシコの壁建設に十分な予算が充てられていないことにトランプが怒り、予算書にサインをしないというのです。サインなしだと連邦政府の予算執行に支障が出て、政府機関が閉鎖などに追い込まれます。それを人質にして壁予算を求めているというのが今回のトランプサーカスの演目です。

   政府機関の閉鎖をいとわず「暫定予算を承認しない」と吠えるトランプと反目する議会、どっちが勝つか見ものです。

  

  ではこのところ暴落を続ける株価をどう見るかに移ります。

  私ははっきり言ってここでの株式暴落はむしろアメリカと世界にとっては安心材料だと思っています。世の中のエコノミスト・アナリストのほとんどは投資銀行・証券・銀行系の人たちのため、株価の暴落を大いに嘆いています。でもそれは超近視眼的見方でしかありません。もし世界景気のスローダウン見通しに反して相場が上げ続けたら、将来の暴落の程度がひどくなるだけです。実に健全なるコレクションじゃありませんか。

 

  こうしてこうして政治と金融市場の状況を見ると、11月の中間選挙以降トランプがイライラをつのらせ吠え方が異常になっていることがわかります。この度を超えたイライラの理由は上記に加え、ロシア疑惑で追いつめられた大統領のフラストが頂点に達しつつあるからです。

  来年1月に始まる選挙後の新議会では下院多数派の民主党が圧力を強めるのが必定です。民主党はいよいよ弾劾のための外堀の埋め立て工事を始めると宣言しています。上院では否決されることが分かっていても、下院が弾劾を発議することが民主党にとっては大事なことなのです。要はトランプのレームダック化、ドナルドダック化を狙っているのです。

   トランプは自分の味方であるはずの政府内の枢要ポストのほぼすべての人材が去り、彼らが退任後は自伝で大統領府の混乱とトランプの錯乱ぶりを暴露することに毎日腹を立てています。さらに古くから自分の腹心の部下であったはずの顧問弁護士までが司法取引で裏切り、自分を追い詰めようとしている。こうした事態に夜も寝られない状態となっていて、いつ精神錯乱状態になってもおかしくない状態であると精神分析医らは診断しています。

   しかし彼は精神的にタフなので、精神分析医たちの予見を越えて吠え続けるだろうと私は思っています。

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3 コメント

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次々と… (陽子)
2018-12-23 08:39:43
林先生、皆様、おはようございます。

>私としては、今回の利上げでトランプの犬ではないパウエル氏の本当の姿がわかり、とても安心しました。

私も同意です。
トランプ氏の圧力に屈せずに、きちんと利上げされたので正直ホッとしました。
独立機関ですから、当然のことではありますが、一旦利上げ休止?と、ドキドキしてました。

トランプ氏のイライラも頂点に達したのでしょう。パウエルの解任検討のニュースも入りましたし、
この分では、まだまだ不安定な市場です。

次の債券投資は早くても数か月先になるのでしょうか。
林先生が仰っていた通り、超長期債はどっしり腰を据えて構えています。20年物などはFFレートとどれ位連動するかはわかりませんし。

皆さまはどうされているでしょうか?
因みに私は、10月頃コメントした時に3割強投資し終わったように書き込みましたが、その時に計算し忘れていた物もあり、現時点で4割強を投資し終わりました。

今はドル転の機をうかがっております。
円高、来~~~い、です。
返信する
円高、来~~~いme too! (用心棒)
2018-12-25 01:33:58
こんばんは。

同感です。円高来い!ですね。
通貨が強いのは良いことなのに経団連のじじいどもや政権は無理くり円建て資産を目減りさせようとしてますし、米国債投資家にはメチャクチャ迷惑です!

トランプのおじさんもFRBにいちゃもん付けるので、ビビりの投機家が右往左往し、こちらの望み通りに金利も上がらず、むしろ利回りが下がってしまい、迷惑ですね。

ぼくは貧乏なので、まだ1000万円程度しか米国債を所有出来ていませんが、年間で10%程度の範囲で上下しています。NY株式市場が下がると米国債の価格が上がってしまうので、痛し痒しです。

1937年物と1939年物を購入しようとしているのですが、金利は下がっている一方で、為替が円高に進んでいるので、結果としては購入費用は変わらないというなんだか不思議なことになっています。

時期とレベルというお話を林先生が以前されておられましたのでもう少し待って見ようかなあとも思いますが、一方で円ヘッジ目的かつ老後に毎年同額をドルベースで得ようというのが指針ですので、現役らしく(来年も同額を投資できるのですから)思い切り良く、スッキリしたいなあとも思います。

そのほうがストレスなく仕事に集中できます。

今後ともよろしくお願いいたします。

ちょっと早いですが、みなさま良いお年を!
返信する
用心棒さんへ (陽子)
2018-12-26 15:47:19
円高来ましたね~~~!
誰も応答してくれなくて寂しく思っていたので、コメント書いて下さり嬉しかったです。

>ぼくは貧乏なので、まだ1000万円程度しか米国債を所有出来ていませんが、

まだお若く現役で、まだまだ投資額を増やせます。全然貧乏ではありませんよぉ!

相場を見ていると神経使いますよね。
どうぞ本業に集中できるよう、ストレスにならないように、投資して下さいね。
私も、ばばばーっと全部投資し終わったら、
パソコンの前に座る日々から解放されるなぁと時々思います(笑)

今後ともよろしくお願いします。
良いお年をお迎えください。
返信する

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