ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

トランプでアメリカは大丈夫か12 貿易戦争 2

2018年06月23日 | トランプでアメリカは大丈夫か?

  今アメリカのマスコミを最も騒がしているのは、トランプの「不法移民親子引き離し政策」です。不法移民の親子を引き離し、子供を檻にいれて親から引き離した「ゼロ・トレランス=不寛容」政策に大批判が巻き起こり、遂にトランプはその悪魔の政策を取り下げました。

  その過程で明らかになったトランプの弱みは、「身内に弱い」です。今回の悲惨な状況にメラニア夫人は報道官を通じ、「子どもたちが家族と引き離されるのを見るのはつらい。与野党が協力し、最終的に移民政策の改革を達成することを願う」と、大統領夫人としてはきわめて異例ですが、反旗を翻しました。その後トランプの娘であり大統領補佐官のイヴァンカも夫人に同調し、それを受けてトランプは昨日政策を撤廃しました。イヴァンカは昨年のアメリカによるシリア爆撃のきっかけも作っています。アサド政権による化学兵器使用で苦しむ子供たちがかわいそうだ、というイヴァンカの一言が影響したといわれています。

「トランプを射んと欲すれば、まず母娘を射よ!」

 

  さて、前回に続き貿易戦争ですが、米中は5月以降3度にわたり閣僚級協議を開催。中国が米国製品の輸入拡大を提案するなど歩み寄る場面もありましたが、中国による知的財産権侵害などをめぐる対立が解けず、トランプ政権は対中制裁にかじを切り、報復合戦がはじまりました。

  その後米中双方が実行あるいは宣言した追加措置の脅しっこを簡単にまとめますと、

1.中国の対アメリカ輸出500億ドルにトランプが25%の追加関税措置 

2.中国が同額の報復関税を課すと発表

3.アメリカはその中国の報復に対抗し1,000億ドルの追加関税措を課すと宣言

4.中国もそれに追加報復を検討すると宣言

5.中国がさらに追加措置を実行するならアメリカはさらに2,000億ドルの追加関税検討と宣言

6.中国がさらに報復してきたら、さらに2,000億ドル追加すると追加宣言 

7.中国もアメリカに対して、もし追加措置があれば、さらに対抗措置とると宣言

  おバカなトランプちゃんに、中国がまともに応戦したため全面戦争のリスクが出てきています。報復に報復したら、報復し返す。まるで大リーグでよくある、二人から始まり最後は両チーム入り乱れ全員で殴り合う、あの喧嘩を彷彿とさせます。貿易戦争はこのままいくとかなりヤバイことになります。それを見越した株式相場は先々週からほとんど連日少しづつ下げっぱなしで、18日から東京、欧州、NYとかなりの下げ相場になっています。どの株式市場も今年の年初からの上昇分はすべて失っています。

  一方、欧州では米国のアルミ・鉄鋼への追加関税が世界貿易機関(WTO)の協定に違反すると判断し、アメリカの輸入制限の損害額と同規模の関税をかけることで損害を相殺する方針を決め、報復措置の実施がはじまっています。欧州委員会は22日対抗措置の手始めとして、28億ユーロ規模の米製品に対して報復関税を課し、その後さらに36億ユーロを追加します。それに対してトランプはツイッターで「欧州からアメリカへの自動車輸出に20%の関税をかけてやる。車はアメリカで作れ」と報復措置を投稿しました。

  中国同様、EUもアメリカとの貿易戦争に突入しました。ロイターによれば、EU側はかなり政治的インパクトを追求したターゲットを設定しています。それは、

「EUがWTOに提出したリストによると、報復関税の対象にはトウモロコシやオレンジジュース、ハーレーダビッドソンのオートバイ、バーボンウイスキーなど、米共和党の有力議員の地元産品がズラリと並ぶ。米政界で発言力の強い有力議員の地元を狙い撃ちすることで、トランプ政権がこれ以上、保護主義的な措置に走らないように揺さぶりをかける思惑がうかがえる。」

  では日本の対応はどうか。一応一昨日アメリカが日本など鉄鋼関税の一部取り下げを行いましたが、今後は自動車などへの関税25%を突き付けられています。いまのところWTOなどの国際機関への提訴以外、有効な手を打つ気配はありません。なんといっても安倍首相はいつも「トランプ大統領とは100%一致した」と言い続けているのですから、期待はできません。

  ところが中国政府はいつの間にか世界の自由貿易の旗手となっていて、アメリカの破壊的行動に対して、「我々は欧州とともにアメリカに対抗していくつもりだ」と宣言しています。アメリカに対抗するにはWTOだけでなく、自由貿易連合を組んで対抗すべきですが、そこに日本は入っていません。アメリカの手下だと思われているのでしょう。

  AP通信によれば「トランプが貿易戦争で口火を切って以来、世界の株式時価総額は約2.5兆ドル(約275兆円)減っている。」とのこと。貿易戦争が株安の原因のすべてとは限りませんが、ここまでの相場変動は、新たな制裁、報復措置が発表されるたびに下げているのは確かです。

  この問題はそもそもトランプが選挙公約としてラストベルト(アメリカ中西部)の労働者の雇用を守るとして鉄鋼・アルミへの関税を強化したのが始まりですが、そのおかげで世界の鉄鋼アルミ産業がアメリカに投資することを決定したなどというニュースは皆無ですし、雇用が大きく改善したなどということもありません。

  このような不安定極まりないトランプの率いるアメリカに、誰が投資などするものですか。長期的コミットの必要な巨額の投資決定をするにあたって政策の安定性は必須の条件です。

  貿易戦争の影に隠れてこのところ話題になっていないのがイギリスのEU離脱ですが、いよいよイギリスの尻に火が付き始めました。これも国際的投資にかかわることですので、参考までに情報を提供しておきます。

  世界の旅客機の2大メーカーの一つ、欧州連合が作っているエアバスに関してです。旅客機ではボーイングの独占に対抗するすべを持たなかった欧州は、連合体を組みボーイングに伍するメーカーを育て上げました。グローバリゼーションのアドバンテージを体現している企業です。数年前私はフランス旅行紀の中でツールーズのエアバス本社工場を見学したことを書きました。もともとはフランス、ドイツ、イギリス、スペインの連合で作られたエアバス社ですが、イギリスなど各国で部品を製造し、ツールーズに運んで組み立てています。しかしエアバス社はイギリスからの撤退を検討しているというニュースが昨日流れました。

 エアバスにとりイギリスは重要な製造拠点の一つで、28拠点、直接雇用1万4千人、間接雇用は11万人もいます。それがイギリスから撤退するというのですから、メイ首相にとっては頭の痛い問題です。工場のロケーションは長期のコミットですから、政治的安定性はきわめて重要で、免税をエンジョイしていた域内であったイギリスと欧州間に関税が必要となれば、サプライチェーンを保つことはできません。

  このように貿易問題で短期的攻防戦を戦っている最中に、一方では長期的決定がなされるため、貿易戦争の影響は非常に長引きかつ大きいものがあります。かつて自由貿易の旗手であった貿易立国日本が、旗手の座をいつの間にか中国に明け渡すなど、考えられないほど重大な政策ミスを犯しているのです。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« シネコックヒルズの思い出 | トップ | フリーキックの盲点をなくす法 »

コメントを投稿

トランプでアメリカは大丈夫か?」カテゴリの最新記事