この1・2か月の間に、コメント欄にどなたかから「アメリカは長期的に見て大丈夫か、見解を聞かせて欲しい」との要望がありました。それがいつどなただったかを確認できずにいましたが、とりあえず私の長期展望をお伝えすることにします。
経済はまずまずでもトランプによる政治的混乱に不安を覚える方も多いと思いますが、何も心配することはありません。端的に言うとトランプの政策は「アメリカ・ファースト」だからです。
矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、アメリカを第一に考えることはアメリカにとって悪いことではありません。ただしトランプのそれは実に近視眼的考えです。でも近視の視野がせいぜい数年であれば、次の大統領はトランプに対する強烈な巻き返しをするでしょうから、大丈夫なのです。減税を中心とした財政上のバラマキも、トランプは下院を失ったためこれ以上の無茶はできません。
では長期展望をした場合はどうでしょう。私はもちろんアメリカは大丈夫だと思っています。いったいアメリカの力の源泉、強さの本当の秘密はどこにあるのでしょうか。私の見方をお知らせします。
みなさん意外に思われると思いますが、私の考えるアメリカの力の源泉は増加する人口や豊富な資源などの経済指標は単なる付け足しで、実はダイバーシティ、「多様性を飲み込む包容力」だと思っています。
生物学的にも雑種強勢、純粋種は弱く雑種は強いというのが定説です。アメリカは国の成り立ちからして人種、性別、国籍、宗教などを問わず、世界から人材を集める工夫をしていて、多様性を力の源泉としています。
スポーツの世界を見ればとてもよくわかります。日本の野球選手で最も素晴らしいと思われる選手はみなアメリカのメジャーリーグに行きます。メジャーリーグの強さはアメリカの選手に加え日本人選手や、日本以外のアジアの一流選手、そして最も大きな供給源である中南米の強豪選手たちを実質的に無制限に飲み込んでいくからです。
元々のアメリカの選手と言っても、当然様々な人種のルツボでから人種を越えて交じり合った人たちです。日本の相撲や野球のように外人枠と言う名の厳しい制限を設けることは、ムラ社会を象徴する排他主義であって、私には弱さをキープするための制度にしか見えません。
スポーツだけでなく対局にある学問の世界も同じです。アメリカの大学や研究機関では世界中に門戸を開き、様々な国から研究者やアイデアを集める工夫がなされています。日本人のノーベル賞受賞者の多くがアメリカで学んだり研究したりしています。
世界をリードする産業分野での強さを象徴するのがシリコンバレーという巨大なハイテク集積地です。カリフォルニア州サノゼ近くのスタンフォード大学を中心に発展を遂げたシリコンバレーは、地域全体が世界一のハイテク集積地であり、IT関連産業の起業装置です。テクノロジーだけでなく、企業に必要な資金を提供するベンチャー・キャピタルが集まるリスクマネーの集積地でもあります。もちろん実際の巨大IT関連企業の本社はシリコンバレーだけでなく、西海岸全体に広がりを見せています。
そこで働く人間の約半数はアメリカ人ですが、あとの半数は海外から来たIT技術者や学者たちです。一時は中国人が半数近くを占めると言われていましたが、その後はインド人がとって変わりました。日本人はほとんどいません。そうした人種=頭脳の多様性を受け入れることが、最初に述べた「多様性を飲み込む包容力」で、シリコンバレーでも力の源泉となっています。
では、これまでは成功したアメリカですが、反移民を掲げるトランプが出てきた今後の見通しはどうでしょうか。私は「多様性を飲み込む包容力」さえ保てば世界をリードし続けるとみています。今後の世界の産業変革はほとんどすべてがITの力にかかっています。巨大産業である自動車産業はもとより、すべてのモノつくりのカナメ、新技術、新基盤はIT技術がベースにくると思われます。GAFAと言われるグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンに代表される大企業も、ITという基盤を利用した新機軸を開発し、世界に冠たる企業に成長しました。そのプラットフォームと呼ばれる基盤を創作し続けるのは、シリコンバレーです。
私は、例えばアップルが永続する企業であるとは全く思っていません。彼らはPCのシェアーを失った後にiPodという新機軸を打ち出しウォークマンを駆逐しました。しかし本当の強さはiPodというハード機器ではなく、PCとiPodを利用した新たな音楽配信プラットフォームの構築でした。同様にiPhoneもハードではありますが、単なるハードではありません。すでに構築した音楽配信や映画配信を載せ、その上で無限の展開可能性を秘めた様々なアプリをアップルストアからダウンロードさせ利用料をとり続けるという、全く新しい課金システムを持ったプラットフォームなのです。しかしiPhoneがシェアーを失う事態になれば、プラットフォーマーとしてのシェアーも失う可能性は無きにしも非ずです。
それに対し日本の電子機器メーカーは残念ながらハードという枠からはみ出す発想がなく負け続け、遂に市場から駆逐される寸前まで来てしまっています。なさけないことに、かつて得意だった家電でも掃除機・扇風機・ドライヤーというコモディティ製品まで、ダイソンの新機軸によって駆逐されつつあります。今後IOTという部分でうまくすれば居場所を見つけるかもしれませんが、果たして新機軸を有するプラットフォームを打ち出せるかはかなり疑問です。
今一つ心配なのは日本の自動車メーカーです。今や輸出産業の中では最重要部門で、唯一競争力を維持している業種です。ところが世界の先端は、いわば箱物でしかない車から脱し、新たなITのプラットフォーム上で動く車を作り上げる段階に差しかかっているように思えます。果たして日本の自動車メーカーが、全く新たなプラットフォームを開発し、その上で動く新しい車社会を構築できるでしょうか。そうした柔軟な発想による技術が、ハードメーカーの純粋培養で育った自動車技術者から出てくるとは思えないのです。
このことはアメリカのメーカーもドイツのメーカーも同じように直面している問題です。ハードという殻を打ち破る発想を、果たしてどこが一番乗りで創出するか、私にはどうも自動車メーカーではない柔軟な発想を持つ新規参入者が創出しそうに思えるのです。
鎖国時代の日本は、発展から背を向けた世界の果ての後進国でした。それが外に向けて門戸を開放したとたんに、大発展しています。日本人も世界に向かって出て行った時代もありました。しかし現在の日本は国として内向きで、若い人たちも世界に出て行こうとしない閉じこもりのような状態です。
学卒で直接外資系、それも世界的なIT企業に入ろうとか、若いうちに海外に出ようという学生はほとんどいません。国という単位で見ても、人手不足が続いているのに外国人労働者の流入はかなり制限しています。政府は移民という単語を新政策に盛り込むことはしません。
最初に申し上げた通り、雑種強勢の世界で純粋種を保つ日本に自分の資産のすべてを置いておく気には全くなれません。アメリカが自身の国の在り方を閉じた国にしてしまわない限り、強さが損なわれることはないと思いますし、そんなことをすることはないでしょう。
以上、アメリカの長期展望、そして強さの秘密でした。
私が質問したと思います。
ご見解、ありがとうございます。
米国の強さは多様性を受け入れられるところにあるとの事、理解致しました。
歴史を含めた考察が理解しやすかったです。
米国への投資を続ける意欲も高まってきましたが、情勢も注意深く見守りたいと感じました。
私も先日まで、スマホ部品の製造業に携わっておりましたので、日本企業の栄枯盛衰を感じる事ができました。
次第に携帯電話製造から撤退していく日本メーカーに寂しさを感じました。
米国の多様性、ご指摘のように日本も見習う部分も必要かもしれません。
専門家の見解を聞けて勉強になりました。
ありがとうございました。
団塊の世代の私が若いころは、日本人の民族としての同質性こそが日本人の優秀さの原動力と思われていたようなのですがねえ。教育水準が高くて識字率が高いことや意思の疎通が速いこと、色々なことにムラがないこと。何かが根本的に変わってしまったと理解します。
おはようございます。
先生の見解に納得です!
日本人は勤勉ですが、横並び。山ちゃんさんが仰る事と通じますが、昔も今も人と同じことをしていたら安心!な民族です。
逆に個性的な人は排除されますし、特に女子は群れます。この二点、私の大嫌いなことです。
若者が外へ出ていかなくなったのは英語教育の失敗にあると私は思っています。会話ができないと行く気も起きません(これ、私もです)。
これから先も日本だけ置いてけぼり?
ちょっと悲しいけれど、あまり期待できそうにありません。
衆愚制って要するにポピュリストの政治家を選んで国のかじ取りを任せてしまうということのようですね。ローマ人の物語を書き終えた塩野七生さんが今度はギリシャ人の物語を書きましたね。上中下と全三巻ですがその中がアテネの黄金時代とその没落を描いています。全ギリシャ世界を現代の世界に置き換えるとアテネはまさにアメリカ合衆国でしょう。誰も今のアメリカが急速に没落するなんて考えてはいないでしょうけれど、ギリシャ世界ではアテネの没落が起こってしまいました。単純にポピュリスト指導者の愚かさ故でした。ペロぽネス戦争でアテネとスパルタが争うのですが、双方の指導者とも本気で戦っているように国内向けに見せねばならないのですが、お互いの急所も痛いところも突かず、どうでもいいところを荒らしまわって時間を潰すことに徹していました。それがアテネの優秀な政治家ペリクレスが死ぬや否やポピュリストが指導者になり、やらなくてもいい戦争や作戦をおっぱじめ、敗戦が直接国家の没落につながってしまう。と、細部は塩野さんの著作をよんでいただくとして、要するに愚かな指導者をいただいてしまうともう何が起きるかはわからない。トランプの次もやはりポピュリストの酷い指導者が登場する可能性が低いわけではありません。アメリカという国家が、大統領の権限に制約を掛ける歯止めを何重にも持っているのでしょうが、一つ一つ崩れていけば、それこそ何が起きるか分からない。原爆テロがマンハッタンやワシントンを襲うかもしれない。一寸先は闇というべきでしょうか。
このご質問は、初心者Aさんでしたか。
>私も先日まで、スマホ部品の製造業に携わっておりましたので、日本企業の栄枯盛衰を感じる事ができました。次第に携帯電話製造から撤退していく日本メーカーに寂しさを感じました。
そうですね。でも栄枯盛衰は一般論で言うと日本全体で見れば悪いことではないと思います。
スクラップ・アンド・ビルドは必要です。その産業に働く人にとっては大変でしょうが。
ただ日本では、数ある携帯メーカーや数ある電気メーカーが同じ方向に向かうだけで、新機軸が生まれなかったことが大問題なんでしょうね。
山ちゃんへ
>日本人の民族としての同質性こそが日本人の優秀さの原動力と思われていたようなのですがねえ。教育水準が高くて識字率が高いことや意思の疎通が速いこと、色々なことにムラがないこと。
そうでしたね。
でもレベルの高さなどは今後も必要ですよ。特に高品質のモノづくりには。
きっとそれに加えて、出る杭を叩かずに伸ばす工夫が必要なんだと思います。出る杭が新機軸を産む原動力だと思いますので。
先日大きな問題になっていた産業革新機構の役員辞任問題も、メンバーを見ると政府の諮問委員会のようにアガったおじさん達の集まりだし、つまらん問題でもめるなど、核心からはずれまくりです。
陽子さんへ
私の話にご理解をいただき、ありがとうございます。
>昔も今も人と同じことをしていたら安心!な民族です。逆に個性的な人は排除されますし、特に女子は群れます。この二点、私の大嫌いなことです。
女子が群れる、男子でも女子ほどではないですが、群れますよ。
私も陽子さん同様群れるのが嫌いで、はぐれ狼でした(笑)。
みんながやることに同調しなかったことが、きっとバブルにもまみれず、冷静にいられた要因だと思います。