ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

トヨタよ、おまえもか

2024年06月12日 | ニュース・コメント

 私は22年9月に「日本には世界に冠たる製造業がある」ってか?というタイトルで、おちょくった内容の投稿をしました。それは同9月に日本の自動車産業をめぐる不正問題が発覚したのを受けてのことでした。

 その時にお示ししたのは、我々がその名をよく知る大企業の不正リストでした。お忘れの方も多いと思いますので、その一部を引用します。

主に単独企業の事件

 この中で東芝は上場廃止にまで追い込まれています。

 そして今回はまたしても世界に冠たるハズの自動車業界の不正です。しかもつい年初にトヨタの子会社であるダイハツ工業が不正をして操業停止に追い込まれた直後のことです。このため24年1-3月期の日本のGDPはマイナス1.8%という結果に終わりました。もちろん能登半島の震災などの影響もありますので、ダイハツだけがマイナスの原因ではありませんが原因の一つだと分析されています。

 

 ダイハツ工業認証試験不正問題とは、23年4月にダイハツ工業が内部通報によって国内向け及び海外向けの車両で衝突試験や排出ガスや燃費の不正が発覚した問題のことです。

 今回はそのダイハツの親会社であるトヨタを含む自動車大手による同様な不正問題の発覚です。トヨタはダイハツの不正を親会社としてどう見ていたのでしょうか?「対岸の火事」としてしか見ていなかったとしか思えません。

 トヨタの経営者であれば少なくとも同じ問題が自社内にないかを23年から調査してしかるべきです。しかもトヨタだけでなく今回はホンダ、マツダ、ヤマハ、スズキまで、5社もが一度に挙げられました。

 

 かつてトヨタはいち早くコーポレートガバナンス体制を変革し、取締役10人中4人も社外取締役を置きました。彼らは高い報酬をもらいながら、いったい何を取り締まっていたのでしょうか。私が株主なら当然「役員報酬を返還せよ」との株主代表訴訟を起こします。アメリカであればその上、「株価下落分の損失補償をせよ」となるでしょう。

 

 私は2021年に「ファンド資本主義が日本を救う」というシリーズを投稿していました。最近になってやっとモノ言う株主の提案を積極的に受け入れることで本格的に経営を改革しようという動きがでてきていますが、いまだ十分にワークしているとは言えないようです。現在、自動車産業は日本の輸出産業の唯一と言っていいほどの存在ですが、それがこの体たらくでは、いったい日本はどうなるのか本当に心配です。

 

 日本の貿易構造は実に単純ですので、ここでちょっと振り返ってみましょう。90年代までは自動車輸出が毎年7~8兆円前後、家電を中心とする電気機器も同じ額程度輸出をしていました。両者で15兆円前後の輸出額で、石油などエネルギー輸入額の7~8兆円を凌駕して貿易収支はその分が黒字となっていました。

 しかしその後2000年代には電気機器は競争力を失い輸出額はほぼゼロとなり、現在の輸出は自動車の一本足打法になっています。そのため2010年台になってエネルギー価格が2倍にも上昇し石油などの輸入額が20兆円近くにも及び、自動車輸出が15兆円程度あるにもかかわらず、貿易赤字が定着してしまっているのが現在の姿です。その他の輸出額は取るに足らない額です。

 その一本足打法の自動車が不祥事にまみれてしまっている。そもそも世界は日本製品の品質の良さと安全性を評価し、多少高くとも日本ブランドを買ってきました。その信頼が裏切られたのが今回の不祥事です。

 しかも現在の政府の産業支援は自動車産業、中でもEV化に向けられているのですが、EV(電気自動車)は300社にも及ぶ中国メーカーが作り過ぎていて、野ざらしの新車在庫が何百万台も朽ち果てているのが実態なのです。

 日本全体の自動車製造台数は23年年間でおよそ900万台。中国は3,000万台ですが、能力的には4,000万台と推定されています。新興メーカーのほとんどはEV車を作っていますので、高コスト体質の日本がEVにより輸出振興を図るのは現実的ではありません。

 さてどうする日本の製造業?

 私には残念ながら答えが見つかりません。

 

 

コメント (5)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« マイコス米へのコメント | トップ | 農林中金巨額損失のおろかさ解説 »

5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (米国債年金生活目指して)
2024-06-15 20:30:28
林先生殿
先生の著書、ブログからいつも学ばせて頂いております。ありがとうございます。
先生おっしゃる通り、今回の自動車会社の不祥事にはがっかりです。1980年代から、主に日本製品の輸出を手掛けてきていますが、80年代半ばからの円高で、多くの企業の製品が輸出不可能となり。自分が手掛けた仕事も$¥140円ぐらいを境に無くなりました。今のRATEで150円台であれば、多くの仕事が残り伸びていたかもです。確かに、今回の認証問題はひどいですが、日本の自動車部品(エンジン)や米国小型航空機の認証も自分の仕事の範囲でありました。米国航空機メーカーでも欧州自動車メーカーでも同様もしくは、もっと悪意ある経営幹部含めた認証問題が起きています。これは個々の企業の問題もありますが、役所が製品の専門性が上がることに付いてゆけず、結局メーカーまかせとなってることが遠因と感じます。日本にはかなり減りましたが、まだまだ物作り、材料に強い、部品製造等に強い企業があります。米国が日本狙い撃ちで円高誘導、先端技術締め出しから、今では対中国対立で、日本の円安要因、国賓待遇と手のひら返しの中で、輸出立国取り戻すべく地道にやるしかないと思います。今度こそ、米国の思惑に左右されない、したたかさをもって産業育成してゆく必要あると考えます。
返信する
Unknown (小豆)
2024-06-15 21:42:45
全てアベノミクス以降の弊害です。
自動車以外にも多数ありました。特に建築業界の免震ダンパーの性能偽装は衝撃でした。

低金利、円安、補助金で企業はぬるま湯状態で、競争力が無くなりました。
省エネ家電補助金、省エネ自動車等、企業が努力しなくても物が売れ、人件費を抑えて手持ち資金の中だけの設備投資では良いもの造れません。
返信する
Unknown (KHAM)
2024-06-19 00:26:30
林先生

ご無沙汰しております。
最近農林中金が米国債などを売却し、赤字が1.5兆円
というネットの記事をみました。
低金利の時代に30年程度の米国債を買っていたのでは
と推測しているのですが、本文のほうでコメントを
いただけないでしょうか。
宜しくお願いいたします。
返信する
KHAMさんへ (林 敬一)
2024-06-19 11:42:37
お久しぶりです。コメント欄への質問、ありがとうございます。

農林中金の外債投資損失ですが、本文で解説するには損失内容の開示がないためちょっと無理があります。

私が想像していることを一言で言えば、生保の外債投資による巨額損失で解説したのと同じで、ヘッジ倒れです。

米国債投資で私が主張しているとおり米ドル建てのまま持ち切り投資をしていれば損失のしようがありません。

ところが日本の機関投資家は生保・農中・銀行・債券投信を含め、愚かにもドルのリスクをヘッジするため、ドルがこんなにも上昇しているのにその為替差益を逃しているのです。

外国債券投資の為替ヘッジを簡単に解説すれば、米国債10年物ドル金利が3%で、日本の国債金利が0.5%だった時、その差2.5%だけを得ようとしてコストを払って米国債を実質円建てにしてしまうのです。

理論的にはヘッジコストはその差である2.5%程度かかるはず。すると利益はなくなります。つまりドルの為替差益を放棄して投資を続けた結果、米国金利上昇のための債券価格低下分にプラスして、為替でも損してしまう。

私の主張であるヘッジなどせず、償還まで持ち切れば、今の為替レートで損失などありえませんし、価格の損失も購入価格と償還の100の差だけのハズ。

シロウト投資家は長期の為替ヘッジなどできないため、みんなでドル高をエンジョイしています。金利上昇による価格低下も最後まで持ち切れば必ず100で返ってくるので、損失などほとんどありません。

ただし、農中などの機関投資家は単純に米国債投資をするだけでなく、それこそ原晋監督のようにキワモノに手を出し、さらにCLOのような仕組債にも手を出す可能性があるため、何んで損を出したのか、本当のところはわかりません。

追伸;米国投資銀行の債券部門では、キワモノを売れば売るほど巨額の利益が出るため、農中や生保、債券投信などは実にオイシイ顧客でした(笑)。その上ヘッジコストまで払って、追い銭までくれました。

彼らは今、「損失を補填するためのキワモノ債券はいかがですか」とセールスしているに違いない(爆笑)。
返信する
小豆さん、米国債年金生活めざしてさんへ (林 敬一)
2024-06-19 12:22:30
コメントをいただき、ありがとうございます。

お二人のご意見、おおむね賛成します。

みなさんのコメントが私の励みにもなり、様々なご意見があることを勉強させていただくことにもつながります。

今後も是非積極的にコメント欄への書き込みをお願いします。
返信する

コメントを投稿

ニュース・コメント」カテゴリの最新記事