ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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円高・デフレのトラップに嵌まり込む日本  29.じゃ、どうしたらいいの  その⑬

2012年04月07日 | 資産運用 
バブルの匂いを嗅ぎわける その2


  前回はアップルの株価を例にとり、PERがバブルを判断する基準の一つだ、というお話をさし上げました。そして私が企業を買収した時の基準はPERで5-8倍というとても低い基準だったと申し上げました。上場企業の一般的判断基準は15倍程度が居心地の良いレベルの定説で、実際の株価もそれに近いところで推移しています。

  それで言えば80年末の日本の株価はPERが60倍もしていたので、バブル間違いなしです。現在の株価はピークの4分の1で、PERも現在は15倍程度で、4分の1になり、理屈に合っています。

  日本のバブル時代でも世界の投資家は基準を15倍に置いていますから、だれも4倍もする日本株は買いませんでした。今は買えるレベルなので買っています。

「じゃ、なんでナスダックはバブったの?」

  いい質問ですね。2000年前後のナスダックのITバブルでは、「ITの作り出す新たな世界は投資価値基準も革命的に変化するのだ」というような屁理屈がこねられ、それに乗った人が大損しました。

  それは日本のバブル時代も同じで、「日本株は持ち合い株があるから国際基準とは違う」とか、いくつかの屁理屈をこねてみんなで大損したのです。
そう見るとPERに加えて、もう一つのバブル基準が見えてきます。
それは、「新しい投資基準」という屁理屈が出てきたら、そこらでバブルは崩壊する(笑)、という基準です。

  さて、今回はPERからもう一歩踏み込んだ解説をしようとおもったのですが、その前に林の投資基準の5-8倍と、上場株式の世界基準の15倍の差について説明する必要がありますね。簡単に説明しておきます。
上場会社と非上場会社の差は何か?

  それは言うまでもなく、「透明性」です。上場会社は有価証券報告書などで会社の経営内容を開示していますが、非上場会社は開示をしていません。開示と言うのは簡単なことではなく、第三者によるチェックが入ります。第三者とは例えば監査法人や取引所、そして規制当局である財務省などです。そうした基準・チェックをクリアーしているため、その分のプレミアムだけ価格は高くて当然となります。それを「上場プレミアム」と呼びます。

  もちろん最近オリンパスや大王製紙のような事件がありましたが、それらはあくまで例外で、一般的には上場会社の透明性は担保されているとみなされ、その分価格が高くてもしょうがないと判断されています。逆に言えば、非上場企業の買収はリスクが大きいので、その分価格はディスカウントされるのです。しかし買う側はそのリスクをすこしでも少なくするため、開示されていない企業内容を徹底的に精査します。

  そして企業の買収は一般の投資と違い、投下した資金を回収する前提で付けている価格です。ですので資金回収に15年もかけてはいられないので、安い価格の対象を狙うという計算をするのです。安いものにはキズがありがちですが、キズは経営努力で直していくのです。

  さてここまで、「バブルの判断はPERでするのが簡便な方法だ」と説明しました。そしてその世界標準は15倍程度だと申し上げました。それが60倍まで買われていたら、明らかにバブルだろうと判断できますが、果たしてアップルのように20倍くらいだと必ずバブルかとなると、必ずしもそうはいいきれません。
  
  例えば私の尊敬する投資家、ウォーレン・バフェットの経営するバークシャーハサウェーは常に20倍近くを付けています。15倍からすれば割高領域です。しかしバークシャー株をバブっているという人はあまりいないのです。何故か?

  それはその会社のトラックレコード、つまり長い歴史がバブルでないことを証明しているからです。40年以上にわたって毎年の平均リターンが20%という驚異的実績が裏付けとなっているから、バブルとは誰も言わないのです。

  しかし株価は、厳密には過去の実績でなく、将来の収益性を見て付けられています。バークシャーの過去の実績は、将来を保証するものではありません。明日はバフェットが死ぬかもしれませんし、会社で不祥事が発生するかもしれません。それでも投資家は、バークシャーにはそうした困難を乗り越える力があると判断して高い株価を付けています。

つづく
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7 コメント

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PER、上場会社と非上場会社の違い (U3)
2012-04-08 23:16:00
なるほど、と思いました。

東証1部の全銘柄の予想株価収益率は21倍のようで
若干割高な感じですかね・・・
http://www.nikkei.com/markets/kabu/index.aspx

次はいよいよ債券のバブルの匂いについてでしょうか。楽しみにしています。

本稿と直接関わりがなくてすみませんが
1ドル81円で米国債20年残存年数、利回り3%を今から20年保有するのと
1年待って1ドル100円で米国債19年残存年数、利回り4%を今から19年保有するのと
2年待って1ドル120円で米国債18年残存年数、利回り5%を今から18年保有するのとでは
20年後にどれほどの差がつくものでしょうか。
それほど差がつかないようなら3%の現在から
分散して買っていこうかと思っています。


返信する
追記 (U3)
2012-04-08 23:43:33
20年後の為替は1ドル150円と仮定して
当初100万円分買い付けた米国債は
以下のような感じでしょうか。
(かなり無茶苦茶ですね・・・本当はゼロクーポン債で考えてみたいのですが
不勉強で適正な価格が出せません。
利付債を複利で考えてるのも?でしょうか・・・
クーポンに係る税金のことも全然考慮していません・・・)

1ドル81円で米国債20年残存年数、利回り3%を今から20年保有する

12345ドルx1.81倍(20年、3%複利)=22344ドル
(1ドル150円として335万円)

1年待って1ドル100円で米国債19年残存年数、利回り4%を今から19年保有する

10000ドルx2.11倍(19年、4%複利)=21100ドル
(1ドル150円として316万円)

2年待って1ドル120円で米国債18年残存年数、利回り5%を今から18年保有する

8333ドルx2.41倍(18年、5%複利)=20082ドル
(1ドル150円として301万円)
返信する
U3さんへ (林 敬一)
2012-04-09 18:30:51
債券の複利計算でもってこいのサイトをご紹介します。元本、金利、年数を入れれば元利合計を計算してくれます。

http://www.jabankosaka.or.jp/pb/pb/kinyukeisan/HUKU1.asp

ゼロクーポン債は基本的に複利計算ですから、このサイトで複利計算すれば結果を求めることができます。○カ月複利、の欄は6カ月としておけば大丈夫です。

ちなみに、金利クーポンの付いた普通の利付き債を複利で運用するのはほぼ不可能です。クーポン再投資の利回りがその都度変化してしまうからです。

そして、ゼロクーポン債をドル建てで計算した結果に、適当な円ドルレートで換算すれば、円での最終元利合計が計算できます。

いかがでしょう?
返信する
ありがとうございます。 (U3)
2012-04-09 21:35:02
林さん、複利計算のサイト教えて頂きありがとうございます。
私が参考にしたのは以下のサイトの複利計算早見表でした。
http://bizmakoto.jp/bizid/articles/0702/23/news016.html

ゼロクーポン債の値を求めるには林さんの著作で紹介されているフェデリティの以下のサイトになりますでしょうか?
用語がイマイチ分からないのですが**Yield-to-Maturityor Yield-to-Call:*
にはどういう数字を持ってくればよいでしょうか?

https://powertools.fidelity.com/fixedincome/startPrice.do

以下のサイトも良さそうですが、理解できるところまで行っていません・・・

http://www.h6.dion.ne.jp/~yadon/bonds/110315_02.html

相場観など持つべきではないのですが、近い将来の円安が思い浮かんでしまい取り乱してしまいました。
利付債で複利運用などできませんよね・・・
頭では為替レートより利回り重視で債券を買うタイミングを図るように、と思い
実際にドル建てMMFを積み立てているのですが
1ドル130円とか150円というものが近い将来
やってくるとイメージすると
満期まで持つのであれば20年、3%でも動くべきかなぁと思ってしまいました。
返信する
追記(よく考えたら今はドル買いで良さそうでした・・・) (U3)
2012-04-09 21:52:06
昨日の追記で書いた計算例で1ドル120円の際に100万円分のドルを調達したら8333ドルしか手に入りませんが
今から100万円分ドルを手配しておけば1ドル120円であろうと12345ドル分(1ドル81円で)が
手の内にあり
例え2年間3%の複利を放棄しても18年5%で運用できれば余裕で
追いつくどころか、凌駕できそうです。
ということで、地道にドルを買っていきたいと思います。
債券の計算についてもこれから学んでいきたいと思います!
返信する
U3さんへ (林 敬一)
2012-04-10 10:22:49
ドルを買い持ちして金利上昇を待つか、現在の金利でもとりあえず投資に踏み切るか、勉強の意味もありいろいろ計算してみるとよいと思います。

フィデリティのサイトの**Yield-to-Maturity or Yield-to-Call:* についてです。

Yield-to-Maturity は、満期までの金利、つまり最終利回りです。

Yield-to-Call は、みなさんが投資される債券はCallable、つまり期限前償還されない債券ですので、通常は関係なしです。いずれにしろ償還までの利回りです。


ゼロクーポン債への投資でこの欄に入れる数値は、証券会社の提示する「販売利回り」もしくは「最終利回り」です。クーポン金利、もしくは表面金利ではありません。

そしてAnnual Coupon Rateはゼロを入れます。

ちなみに、証券会社の提示しているゼロクーポン債の、価格と最終利回りがちゃんと合っているか確認してみてください。

返信する
ありがとうございます!早速入力してみました! (U3)
2012-04-10 20:58:16
基本的にドルを買持ちして、勉強のために最小単位ゼロクーポン債を保有してみるかもしれません。

Yield-to-MaturityとAnnual Coupon Rateを教えていただいた通り入力し
大手証券会社提示のゼロクーポン債の所与の数字を入力したところ、証券会社の提示するゼロクーポン債の価格とほぼ一致しました。
違う時期のものを調べて、どれも25銭ほど証券会社のほうが割高だったので
これが証券会社の取り分なのかもしれません。
あるいは、ここにプラスαスプレッドが入るのかは約定してみないと分かりませんね。

とにかく色々入力して試してみます。
ありがとうございました!


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