昨年11月8日の大統領選挙から1年がたち、トランプの1年を振り返る報道がたくさん流れました。その中で最大の話題だったのは、
トランプは何故支持され続けるのか?
という疑問でした。もちろん支持は4割前後しかないのですが、底割れはしていません。それに対して明確な回答が示された報道は見当たらなかった、というのが私の印象です。
多くの報道は大統領選挙で決定打となったアメリカ中西部のラストベルトのその後を取材。選挙から1年経ち、果たして投票者の支持に変化はないのかを探っていました。そして結論は、トランプがそこに暮らす白人労働者層の支持を依然として失っていないから、全体の支持率も下がっていない、という結論を述べていました。選挙中トランプは彼らの鬱積した不満を煽り、支持を得ました。「オレ様が石炭産業を復活させる」とか、鉄鋼業界で「海外に流失した雇用を取り戻す」という公約です。
しかし実はこうしたラストベルトに対する公約のほとんどは実現できていません。その他の内政問題・外交問題を問わず選挙公約のほとんどは、いまだに実行できていません。
TPPやパリ協定からの離脱はサイン一つなので、私は彼の実績のうちにカウントしません。単なる破壊行為です。支持者はそれも実績だと喜んでいるでしょうが、例えば予算の裏付けが必要な大幅減税などを実現しているなら評価してあげます。それは破壊ではなくある意味創造だからです。創造は全くできていません。
では就任以来の支持率の推移を簡単に見ておきましょう。各種の世論調査を時系列で並べて見ることのできるおまとめサイト、リアル・クリアー・ポリティックスによる移動平均の推移です。移動平均とは、個々の世論調査は偏りもあり変動も激しいので、最新の調査10件の移動平均を取り平準化した数字です。もちろん個々の調査を見ることもできます。以下は平均値の推移です。
1月27日 8月14日 9月24日 11月14日
不支持 44.3 57.4 52.4 56.8
支持 44.2 37.4 41.7 38.1
就任直後の1月には不支持と支持が拮抗してスタートしました。これは投票率でヒラリーがトランプを若干上回ったことと符合します。しかしその後は一貫して不支持が20ポイント近く上回っています。
8月14日は不支持が最高値57.4%に達しました。就任以来側近をどんどん首にし続けましたが、8月はあの首席戦略官バノンを首にした時で、政権内部の混乱がピークに達した時期です。
9月24日は逆に就任時点を除くと支持率が41.7%とピークを迎えました。その時期は北朝鮮の挑発が激しくなり、トランプもそれに対して吠えまくった時期です。独裁者政治の常とう手段、「敵を作って支持率を得る」を金正恩同様、トランプが実行していました。
そして現時点は支持率が38.1%と、最低の支持率に近い数字です。と言っても、実際には支持率はとても狭い範囲で動いており、彼が何をやっても支持率は低迷し続け、その逆で何をやっても不支持率は高位安定しています。推移のグラフを見たい方は以下のサイトで見ることができます。
https://www.realclearpolitics.com/epolls/other/president_trump_job_approval-6179.html
選挙後1年の報道で多くのメディアが焦点としたのは、トランプの支持率が4割を若干割り込むところから、何故それ以下に落ちないのか、という点でした。理由として挙げていたのは、結局選挙での支持層が依然として支持を続けているから、ということでした。
私にはその理由は理由になっていません。何故なら公約は全く実現できていませんから、失望があって当然。どの国の政権も公約を実現できなければ、時間の経過とともに支持率はじり貧になるからです。フランスのマクロンがいい例で、あの熱狂が覚めると支持率はまさにつるべ落としになっています。
報道だけでなく、アメリカ政治の専門家もトランプの支持率安定に様々な分析を提示しています。その内容は例えば、アメリカの地方に脈々と根付く保守層である農民やブルーカラーが、都会的でITを駆使する高所得者のリベラル層を常々苦々しく思っている。それを今回トランプが代弁し、生意気なリベラル層を蹴散らしてくれた、というような分析。また、本来ブルーカラーの代弁者は労働組合などの組織票を支持基盤とする民主党のはずだが、アメリカ・ファーストを掲げるトランプに低所得の労働者は切り崩され支持に回ってしまった、などの分析です。
しかしそうした分析は1年前の投票行動の分析であって、1年経った現在の支持率が低位ながらも安定している説明にはなりません。国内外のほとんどのマスコミが毎日のようにトランプの蛮行を非難し、国際社会からも批判されっぱなしなのに、何故支持率は激減しないのか。
公約をまったく実現できないトランプは今でも時々ラストベルトに行って、選挙期間中と同じ赤い帽子をかぶり、「アメリカ・ファースト」と吠えまくっています。これは支持層が離反しないためのメンテナンスであり、またホワイトハウス内やマスコミへのフラストの彼なりの解消法でもあります。アメリカ大陸の真ん中にいて海を見たこともない多くの中西部の人たちは、北朝鮮問題など全く関心がないし、米中関係など知ったことかなのです。
公約実現のできないトランプの支持率が何故落ちないのか、次回は私なりの分析をトライします。