世田谷市民大学の「アメリカ政治のゆくえ」という授業を受講されている方から、講座で使用した講義ノートを見せていただきました。講師は西川賢津田塾大学教授で、アメリカ政治の専門家です。現在進行中の当シリーズ、「トランプは何故支持され続けるのか?」にもかかわる面白い内容なので、みなさんにも要点部分を見ていただこうと思います。
その第6回目の講義のタイトルは「トランプ支持の理由」で、まさにこのシリーズ記事にぴったりの内容です。その中からアメリカ人の専門家の意見などを引用させていただきます。
まず「トランプは何故支持されているのか」に関する西川氏の主張です。
トランプが支持されている理由=人種・宗教・ジェンダー・学歴・年齢などの社会的アイデンティティー、あるいは権威主義的態度などによる集団帰属意識に基づき、共和党に強い帰属意識・同調傾向を持つ有権者が単に共和党の候補者であるトランプ候補を選んだから、ということになるだろう。
ちょっと難解な言葉が並ぶ政治学者らしい学術的見解です。要は共和党支持者が共和党にふさわしい候補を選んだということでしょう。
しかし日本人の私たちには「何故選ばれたのがトランプなのか」の疑問に対しズバリとは答えていない部分があるように思えます。氏は別のアメリカの政治学者の見解も引用されていますので、それらを見てみましょう。
プリンストン大学教授エイケンらの説=
トランプ大統領を支持する有権者の政治的洗練性は極めて低く、それら有権者は政策争点に関して限定的かつ散漫な知識・理解しか持たない非合理的存在。「無知で非合理的な有権者」である彼らは争点同士を関連させる明確な軸を持たず、首尾一貫した政治的信念体系を有していない。トランプ大統領の方も有権者の事情を考慮して政治目標を設定しない。彼の決定は共和党に近い利益集団や活動家の影響を受けたものになると予測される。
かなり手厳しい言葉で決めつけているようですが、私にはこちらの説が具体的でよりピンとくる気がします。
ウィスコンシン大学教授 キャサリン・クレーマーの説=
トランプ候補が支持されたのは彼の政策やイデオロギーが支持されたからではない。彼を支持する人々にとって、政策やイデオロギーなどは二の次なのである。トランプ候補に熱狂する支持者が欲して止まないのは「物語」なのだ。それが真実に基づくものであれ、全くの虚構であれ、トランプ候補の支持者は自らのアイデンティティーに合致し、それを補強してくれるような「物語」を与えてくれる政治家に見返りとして支持・承認を与えるのである。
トランプ候補は自らの支持者に向けて次のようなメッセージを送ることで彼らが待望する指導者としてのイメージを作り出すことに成功したのである。
「あなたたちは正しい。あなたたちは人生の努力の代価に見合ったものを正当に受け取っていない。あなたが怒るのも分かる。あなたたちは一生懸命働き、報われて当然なのに、受け取るべきものを受け取っていない。一方で、エスタブリッシュメントの政治家やメディアのような今この国を動かしている奴らは、移民やマイノリティ、イスラム教徒など、受け取る資格もないような奴らに何かを与え続けている。私を当選させてくれ。そうすれば、この国を再び偉大にして見せよう。あなたの人生の代価にふさわしいものを与えよう、あなたが欲して止まない人生をあなたに与えよう。」
私にはかなり説得力がある説です。みなさんはいかがでしょう。
このキャサリン・クレーマー教授の説を長々と引用したのは、私が考えているトランプの支持理由の有力なサポート材料だと思われるからです。ただしクレーマー教授の説はどちらかと言えば「トランプは何故当選したのか」であって、「何故いまだに支持され続けるのか」への明確な回答ではありません。
私の今回のシリーズのタイトルをもう一度掲げますと、「トランプは何故支持され続けるのか?」です。実績らしい実績もなく、相変わらずウソをつきまくり、疑惑の渦中にいる。もっと言ってしまえば、最近アメリカでは過去のセクハラ疑惑で上院議員や映画のプロデュサーなどの有名人が続々とやり玉にあがり、社会的地位を失っている中で、セクハラでは誰にも負けない数と実績を誇る(笑)トランプの非を問う声がほとんど上がっていない。
支持され続ける理由のキーワードは「ツイッター」です。
なんだ、と思われる方も多いかもしれませんが、彼の支持者の数と内訳が変化していないのは、機関銃のような弾の量を誇る彼のツイッター攻撃によります。
それがどれほどかは次のサイトで見ることができます。
https://www.trackalytics.com/twitter/profile/realdonaldtrump/
このサイトの最初のページをスクロールしていくと、いくつかのグラフのあとに「Summary」という表が出てきます。中身は、
Donald J. Trump's Twitter Profile Summary
とあって、毎日のツブヤキの量的把握ができます。
11月のツブヤキ数を累計から計算して見てみますと、
10月31日までの累計; 36,240回
11月24日までの累計; 36,442回
その差202回 ÷ 24日 = 約9回
ヒマ人ですね。いや、超ヒマ人です(笑)。
11月はアジア歴訪中で、各地で公式行事が目白押しでした。その合間を縫って毎日いやほぼ毎時、なんと日に9回のツブヤキとは恐れ入った回数です。
キャサリン・クレーマー教授は、トランプは「物語を与えてくれる」ので支持されていると主張しています。そのとおりだと思います。
そして私は、
「トランプは選挙戦で物語を語り支持を取り付け、毎日のツブヤキにより支持者をマインドコントロールし続けているのだ」
と思っています。