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グローバリゼーションについて語ろう

2016年11月21日 | ニュース・コメント

  最近サイバーサロンに私が投稿した文章を、少しだけアレンジしてこのブログにのせることにしました。ちょっと語り口がいつもと違いますが、本人の文章です(笑)。

 

  アメリカ大統領選挙やBREXITで大きな問題となったのは、移民問題とともに「グローバリゼーションの光と影」だ。それについて語ってみようと思う。

   ポピュリストたちに限らず頻繁に主張される影の部分の代表的標語は、

  「行き過ぎたグローバリゼーションが格差を生み出している」

という言葉だ。マスコミの報道でもこれが毎日のように表れる。私はそれを全面否定はしないが、単純にうのみにもしない。

   グローバリゼーションには人や文化の交流も含まれるが、象徴はなんといっても物や技術移転などを含めた交易だ。海外との活発な交易によって経済成長が促進されるのは歴史が語る不変の真実だ。

   日本も江戸時代の鎖国から開国して明治を迎え、爆発的に成長した。現代でもミャンマーのような半鎖国状態から開国すると、貿易だけでなく海外から投資を呼び込むことができ、技術も移転され爆発的に成長を始めることができる。


   一方、「行き過ぎたグローバル化によって淘汰される企業が出たり、失業者が出たり、経済格差が拡大したりする」と言われる。

    それを主張される方もグローバル化を否定まではしないと言う。グローバル化も程度問題だと言うのだ。

   ではそう主張をされる方に、「どこまでが許容範囲のグローバル化なのか」うかがいたい。許容範囲を決められるだろうか。

   50歩譲って、ほどよいグローバル化はこれくらいだ、という定義ができたとしよう。ではそれを程よくコントロールし続けられるだろうか。それも百歩譲って「できる」としよう。

   しかしよく考えてほしい。それをコントロールするということは、貿易を制限し、テクノロジーの移転を遅らせ、その結果競争力のない産業や企業を温存することになる。

  実のところどこの国でも、ある程度どころかかなりの制限をしている。TPPはそれを少しでも緩和しようということなので、現在でも全参加国が大いに制限していることは明らかだ。

   制限することによって、失業の発生はある程度の期間抑えることができるかもしれない。だがそれは長期的に見れば一国全体の成長を抑え、意図的に競争力を削ぐことにつながる。

 

  日本国内の過去を振り返ってみよう。グローバル化によってだけでなく、一国内の同一産業でも、競争に破れた企業の従業員は失業する。ある産業全体でも、不要になれば産業全体が衰退し、失業者が出る。日本で言えば石炭産業は壊滅したし、繊維産業や縫製業はかなりの程度衰退し、失業者はたくさん出た。

   石炭産業を防御するために石油の輸入を抑えたりしたら、エネルギー効率を悪化させ産業全体が競争力を失うことになる。中国やバングラデシュからの繊維製品の輸入を制限したりしたら、国民服ユニクロを着ることはできない。それでも制限することに意味はあるのか。

   それよりも石炭産業をあきらめ新興自動車産業の発展に賭け、人手を使う縫製は中国にまかせ、エレクトロニクス産業に賭けたことで日本は大発展を遂げた。

   では、日本に利用された中国はどうか。グローバリゼーションにより日本に吸い尽くされたか。

  閉じた共産主義の国から貿易立国へと大変身することで人々の所得は爆発的に増加し、天安門広場にあふれかえっていた自転車はすべて自動車にとってかわられた。所得が増えたことで高品質・高価格の日本製品が売れ、中国人旅行客が来日して日本のデパートで爆買いし、ホテルが儲かり観光地にカネが落ちた。結局、日本にまで大きな恩恵をもたらした。

   利用する側もされる側も、グローバル化の恩恵に浴したのだ。

   ある企業が倒産したり、特定産業で数多くの倒産や失業者が出たりしたくらいで、行き過ぎたグローバル化をやめろとの主張に結びつけるべきではない。失業者は失業手当で保護すればよい。そして職業訓練により仕事の転換をはかるべきだ。ゾンビ企業の温存をしてはいけない。

   グローバル化のプレッシャーの中で、産業のダイナミックな転換を行うことこそが国の繁栄につながる。

   トランプに騙されたアメリカでも同様だ。ラストベルトの鉄鋼業は衰退したが、世界に冠たるIT産業が勃興し、世界を制覇している。


   グローバル化の抑制を要求する側に立つ人も、経済全体のパイを大きくすべきだという議論に反対はしないであろう。であれば、まずパイを大きくして、分配の工夫で格差の調整をすべきである。

   グローバル化をおおいに促進してパイを大きくし、所得格差は税制・社会保障制度などで補完すればよいのだ。経済発展を抑えることなど、絶対にしてはいけない。世界から取り残されるだけだ。

 「行き過ぎたグローバル化反対」とは、「経済のパイは大きくしなくてもいい」と言っているのと同じだ。


  アメリカの現在の失業率は4.9%と、日本の3%とならび世界でも最低レベルにある。もうほとんど完全雇用状態で、改善の余地は少ない。つまりアメリカ全体は失業者であふれてもいないし不幸でもない。不幸だと言っているのは、少なくなったがまだいる失業者だろう。さもなくば、トランプのプロパガンダをうのみにしている人たちだ。

  彼のターゲットであった州の失業率を見てみよう。ラストベルトの代表であるミシガン州の失業率は4.7%、オハイオ州は4.9%と全米の平均並みだ。ミシガン州のデトロイトはビッグスリーが本社を構えているし、オハイオにはホンダをはじめ日本の自動車メーカー・部品メーカーが数多く進出している。錆びついたラストベルトなんかではない。

   トランプが廃棄のターゲットにしているNAFTA、アメリカ、メキシコとカナダとの北米自由貿易協定の実績を見てみる。94年の発効以来、アメリカからメキシコへの輸出額は6倍に増加した。20年で6倍というのは、年率9.3%にも達するのだ。自動車産業向け部品がアメリカからメキシコに輸出されている分も大きいが、メキシコはそれをもとに付加価値を付け、アメリカへ輸出しているのだ。つまり技術移転もしっかりと行われ、自動車産業がメキシコ人の雇用を吸収しているのだ。


   一方、アメリカの一人当たりGDPは年56,000ドル、日本は32,000ドル。アメリカ人は平均で日本人より7割も多く収入を得ている。これでアメリカ人の大多数が不幸だと言えるだろうか。グローバル化によって所得を増加させているのは、アメリカではないだろうか。アメリカの選挙民も日本のマスコミも、「行き過ぎたグローバル化によって・・・」というプロパガンダにまんまと乗せられているのだ。

 

  それでも上を見るとトランプを始め、とてつもない金持ちが数多くいることは確かだ。アメリカ人の所得上位1%が全体の所得の18%の収入を占めている。だから、格差社会だという。

   格差解消への処方箋も、グローバル化の抑制による成長の抑制などではなく「所得の再配分」だ。グローバル化を大いに推進してパイを増やし、大きくなったパイを適切に再配分することだ。

   トランプの掲げている所得税減税は金持ちほど減税率が大きい。これまたまんまと有権者を騙している。やるべきことは全く逆だ。ひところよりだいぶフラット化した累進課税を、昔のように金持ちに厳しい累進課税に戻すべきだ。そしてパナマ文書が象徴している彼らの租税回避の抜け道をふさぐことだ。

 

  「格差解消のためのグローバル化抑制は、全くのお門違いだ」

 

以上

コメント (14)
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