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地政学上のリスク 4 講演会内容;アメリカのリスク

2016年11月15日 | 地政学上のリスク

  週末に講演会は終えたのですが討論時間が足りず、いまだにメールで質問が多く寄せられています。主催者の方からは、タイミングのよさも手伝い多くの好ましい反響があったとの連絡をいただきました。

  出席者の方々からの質問への対応でブログがお留守になってしまいました。読者のみなさんには大変失礼しました。

  ブログのコメント欄にも私からのお願いに応え、多くのコメントをいただきましたこと、感謝いたします。すべてのコメントに対応はできませんが、今後私なりに重要だと思われるコメントにしっかりと対応させていただくつもりです。

 

  講演会の予定概要と内容の一部はすでにみなさんにお伝えしていましたが、実際には2時間の講演・質疑応答と、その後の2時間の懇親会でも議論はアメリカ大統領選挙の結果と今後の見通しの話題で沸騰していました。それだけ参加者の方の関心が大きかったのだと思います。

   講演内容で多くの方が関心を示されたのは、主に以下の3点です。

1. 人間の尊厳や、普遍的な価値を否定する大統領出が出てきたことは、アメリカ人の心を引き裂き、心の基盤を壊してしまった

2. ポピュリスト指導者という地政学上のリスクが、アメリカにまで生じた

3.アメリカは株高・金利高・ドル高が進んだが、果たして今後経済や財政に大きな問題が生じないだろうか

という点です。このことはブログのコメント欄にも同様なコメントをいただきました。読者のみなさんも一番懸念されている点だと思いますので、今後しっかりと回答するつもりです。

  ただ、一言だけ先に申し上げますと、

   「その懸念は単なる杞憂です」


  ではまず1.について私が講演したことを記します。

  選挙後アメリカの小・中・高校では白人の生徒が黒人やヒスパニックのマイノリティに対して罵詈雑言を浴びせ暴力を振るうなど、分断が実際に始まってしまいました。子供たちの中には、怖くて学校に行けなくなった子が大勢います。

  トランプの個々の政策は重要ではあっても、彼のリップサービス・ハッタリ・ウソ・意図的忘却により正反対に動いたりしますので、いま議論してもあまり意味はないと私は思っています。

  例えば日本や韓国に対して、「核武装すればいい」との発言も、すでに「そんなことを言った覚えはない」と前言を翻しています。メキシコ国境の万里の長城についても、「一部はフェンスでもいい」とか、不法移民1,200万人を追放すると言っていたのに、「2・300万人の犯罪者は追放だ」と後退。いちいちコメントするのもばかばかしいありさまです。

  しかし「人間の尊厳や普遍的価値の否定」は子供たちやデモ参加者やツイッターでのヘイトスピーチで戦闘が開始されてしまいました。絶対に開けてはいけないパンドラの箱をトランプは開けてしまったのです。

  日本の会社員は私を含めアメリカへの赴任が決まると、「駐在員の心得」教育を受けます。私の場合は80年代後半でしたがすでにその時の内容は、人種差別、宗教差別、女性差別禁止にとどまらず、パワハラ・セクハラを絶対にしてはいけないということが含まれていました。そのことで警察に捕まったり、訴訟を受けても会社は社員を守れない。秘書を雇うインタビューで住所を聞いてはいけない。人種、貧富の差や宗教などが推定できるためです。秘書の雇用後は住所を登録するのでもちろん問題ありません。そして駐在中も毎年会社のアメリカ人担当者から同じ教育を受け続けました。

  アメリカという国は、そうしたことを日々継続することで成り立っている国です。学校では毎朝アメリカ国旗に向かって「誓いの言葉」を全員で唱和し、スポーツイベントでも国家を斉唱します。

  心の中で差別的信条を持っていても、口には出さないのが不文律だし普遍的価値の維持には絶対必要です。気の毒なのはこれまで隠れトランプだったのに、トランプが勝ったことでカミングアウトしてしまった白人でしょう。庭にトランプ支持のプラカードを新たに掲げたりしています。トランプが4年後にどうなっているでしょう。その人たちは大いに後悔するかもしれません。

  普遍的価値の一つである人種差別撤廃はリンカーンによる奴隷解放の時から始まり、60年代に荒れ狂った公民権運動を経て築きあげました。それをトランプは正面切って破壊したのです。本日のニュースでは、日系人に対して「日本へ帰れ」という落書きが学校にあると報道されていました。決して他人事ではありません。

  日本の報道はすでに大統領府の人事や閣僚人事、そして政策内容に移ってしまい、反トランプデモ以外のそうした報道がほとんどありません。しかし政策と同じウェイトで重要なのは、アメリカにおける人心の分断です。

  安倍首相はトランプ当選後の「オメデトウ」コメントでそれに関して一言も言及していません。しかしフランスのオランド大統領やドイツのメルケル首相はオメデトウとともにはっきりと人間の尊厳を否定するトランプに対し、「苦言」を呈しています。

  当のトランプは大統領選挙後、13日に初めてCBSによる60分に及ぶインタビューに応じました。その関連部分をニュースサイトから引用します。

引用

トランプ氏は、13日のインタビューで「支持者のマイノリティーに対する暴言・暴力を聞いて非常に嫌悪感を感じる」と話していました。

そして、「私が見た限りは1つか2つのSNSで見た...それはごく一部だと思う」と、SNSで情報を知ったことを述べていました。

インタビュアー「あなたはその人(暴言を吐く人)に何か言いたいですか?」

トランプ氏「それを聞いてとても悲しいね。もし私が言って役に立つならカメラに向かってこう言いたい『止めなさい』と」

引用終わり

   トランプには自分がその暴言を吐き続けたことが原因だとか、それがパンドラの箱を開けてしまったことの自覚がありません。そんなのは一部だと自分を慰めています。

  こうした彼のヘイトスピーチは就任以前からアメリカを分断し、一般人にまでヘイトスピーチを蔓延させています。そして私が見たCNNのニュース内容にみなさん驚いていました。それは、黒人二人が逆切れして白人のトランプ支持者一人に殴る蹴るの乱暴を働いている投稿映像が流れていた、ということです。

   その映像はまるで公民権運動時代の白黒映像を見ているようでした。国内がさらなる混乱に至らないことを私は心の底から祈ります。選挙後の反トランプ運動を見て私が思うのは、彼をいまさら認めないと言っても遅すぎる、それが民主主義というものだ、ということです。

   しかし講演会でさらに申し上げたのは、「今後学校内暴力の問題に対処するには、トランプを反面教師にする以外ない。つまり生徒に、『あの大統領のようにだけは絶対になるな』」と指導すべきだ、ということでした。

   このことは日本企業の教育担当にも言っておきます。駐在員には「絶対にトランプのような言動をしてはいけない。日本、そして世界の恥だ」と教育すべきです。

   

   最後に現在のNY市場に一言コメントを付けます。私はこのままNYで株高、金利高、ドル高が一方的に昂進するとは思っていません。今の株高などは、日本株を含め、どう変節するかもわからないトランプノミクスのいいとこ取りにすぎないと思っています。それに関しては3つ目の項目で詳しく述べることにします。

コメント (5)
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