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日銀に明日はあるか その2 平成の米騒動

2016年09月04日 | 日本の金融政策

  今日は朝早くからゴルフでした。午前中に終わってしまい、2時には家に帰りつきました。先週末、所属するゴルフ場のクラブチャンピオンの予選に通り、16人による決勝トーナメントに進んだのです。1回戦に勝てば2回戦を午後戦うはずだったのですが、1回戦ボーイに終わりました。なにせ相手は10歳年下で、すでにクラブチャンピオンに2回も輝いている強豪で、とてもはが立ちませんでした。

  そう、何年か前にも予選を通過し、1回戦は19歳の女の子との戦いだったと書いたことを思い出しました。彼女はその後プロテストに合格していますが、まだ本格ツアーには出られず、下部ツアーに出ています。

   がんばれアイリちゃん!

   

  さて、四面楚歌になりつつある日銀、そして行き場を失っても強気を崩さないクロちゃん、この先一体どうするつもりなんでしょうか。

   13年4月の2年、2倍、2%」の宣言は、絶対に短期決戦の戦略だったはずです。その証拠に彼は「政策は小出しにはしない。すべてを出し尽くした」と高らかに宣言していました。

   太平洋戦争も、真珠湾への奇襲攻撃により初戦で勝利を飾り、短期決戦で講和に持ち込む算段でした。時の連合艦隊司令長官山本五十六も、「半年や一年なら暴れて見せるが、2年3年となると確信は持てぬ」と語っていたのに、ずるずると長期戦になり、敗戦への道を歩んでしまいました。今の政府・日銀、そしてそれを支持するコアの経済団体などの鉄の三角形は、戦時体制と相似形です。

  しかも国民まで巻き込もうと、政府は「一億総活躍社会」などという標語を掲げ、全国民を同じ方向に向けようとやっきです。私にはどうしても「一億総玉砕」と聞こえてしまいます。

   だったら、オレは絶対に残りの2千7百万人の中に留まってやる!(笑)

  クロちゃんの異次元緩和も短期決戦だから許される国債の爆食だったはずです。2年も経てば家計や企業のマインドがインフレを期待するように変化し、その後は順調にデフレから脱却できるハズでした。

   ところがそれが功を奏さず、異次元緩和を超異次元緩和に拡大して長期化したら、政策自体が行き場を失うため失敗は明らかです。

   異次元緩和が導入された当時の私の指摘は、「銀行から国債を大量に買っても、そのおカネが世の中に出回る道筋が示されていない」と何度も言っていました。その結果が日銀の当座預金へのブタ積みです。

   どうしたら銀行は世の中におカネを回すことができるのでしょうか。それは唯一、企業や個人が資金ニーズを十分に持っていて銀行から借り入れることでしか実現しません。銀行が個人や企業におカネをただでバラマクことなど決してありません。じゃ、ローンを無理やり押し付けられるか。フォアグラじゃあるまいし、首根っこを押さえて口から押し入れることなど絶対にできっこないのです。

   一方クロちゃんは盛んに「期待に働きかける」のだと言います。デフレマインドをインフレマインドに変化させることができると信じたのです。

   確かに近い将来物価上昇が見えているとき、人々はマインドを大きく変化させることがあります。それは消費税値上げとその反動のドタバタを見れば明らかです。

   その様子がとてもよくわかるニュースを引用します。消費税値上げは14年4月で、その寸前の3月には巨額の駆け込み需要が発生しました。みなさん、何を買いだめしましたか。うちでは家内にこう言いました。「絶対に買いだめなどするな。そのうち売れなくなって3%以上のバーゲンになるさ」。

  その1年後の15年3月の家計消費の報道をサンケイニュースから引用します。

 引用

総務省が1日発表した3月の2人以上世帯の家計調査によると、1世帯当たりの実質消費支出は前年同月比10.6%減となった。消費税増税後の昨年4月から12カ月連続でのマイナスとなり、現在の形の統計となった2001年以降では最大の下げ幅となった。

引用終わり

   たった3%の消費税値上げでも、これほど人々のマインドは変化し、消費額を大きく変動させます。クロちゃんの思惑以上の反応をすることがあるのです。しかし重要なのは単にマインドだけ大きく変化させたところで、先立つものがなければ、その後1年間も家計消費はマイナスが続いてしまうのです。そう、

 先立つものが先なのです!

   じゃ、何故その日銀の異次元緩和がいけないのか。日銀が国債を爆食して何も悪いことが起こらなければ、そのままにしておいても問題はなさそうです。

   日銀はそもそも通貨の番人で信用がすべてですから、腐った資産を買い入れて自分の資産が劣化してはいけないのです。昔のように日銀が十分に金塊を保有していて、日銀券を持っていくとその分の「金」と交換してくれるわけではありません。日銀券は不換紙幣ですから、そのまま通用するか信用を失いカミクズ同然になるかは、文字通り紙一重なのです。戦争中や戦後の混乱時期の経験を持たない人がほとんどになって来ると、そうしたことは歴史上の出来事だくらいにしか思わなくなる。

   人の心、特に群集心理でパニックになりがちな日本人の恐ろしさは、いたるところで発揮されてきました。思い起こしてみましょう。

・73年10月の第1次オイルショック後のトイレットペーパー争奪戦

・その背景の中で起きた同13年12月の豊川信用金庫の取り付け騒ぎ

・93年に起こった平成の米騒動

・97年ころの金融危機で起こったやはり取り付け騒ぎ

・11年の東日本大震災後のミネラル・ウォーター争奪戦に端を発し、トイレットペーパーの争奪戦に至る騒動

   などなど、日本人は根拠が薄くてもすぐパニくる得意技を持っています。クロちゃんが期待に働きかけなくとも、資質は十分なのです(笑)。


   20世紀までと違い21世紀になっての最大の変化は、人々が抜群の性能を誇る「情報発信力」を持ったことです。それはいわば戦争中に政府が持てと言っていた竹槍を捨て、勝手に我々はミサイルに切り替えたのと同じほど大きな変化だと私は思っています。

   この変化を軽々しく考えてはいけない。

「アラブの春」がその怖さを見事に証明しました。豊川信金の口づてとは大違いなのです。

 つづく

 

コメント (7)
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