日銀総裁のクロちゃんは9月5日に講演会をしました。その内容は8月のジャクソンホールでの彼の演説内容とほぼ同じだと言われています。それが9月に行われる日銀の「総括的検証」につながります。
私は今回のシリーズの1回目で以下のように書きました。
>総括的検証と言うからにはさらに多くの分析が示されると思いますが、私はそれらも基本的には自己弁護のための傍証の提示がメインで、これまでの路線を修正せずにさらに唯我独尊を強めるのではないかと懸念します。
今回の講演で彼は遂に現在の政策のマイナス面を何点か認めました。大いなる進歩です。市場の反応にはかなわん、と思ったに違いありません。ついでに「サプライズ戦術」の限界も悟ったに違いありません。きっとイエレンおばさんに、「あんたのサプライズはもう通用しないよ、おやめ!」といわれたのでしょう(笑)。
でも彼は金利政策も量的緩和策もその他の政策も、まだまだ余地はたくさん残っていると強弁しています。残っていることと、それを市場が支持することは別です。きっと今月の決定会合で何を決めても決めなくても、また市場は離反するに違いありません。
いったいこうした困ったクロちゃんを止められる人はいるのでしょうか。
アベチャン?
いいえ。答えは「市場だけ」です。市場の厳しい反応しか彼を止めることはできません。彼を選び、彼の手足となる理事を選んだアベチャン政府も、自己否定につながるような行動は取れっこありません。彼の政策に反対し続けたまっとうな理事達もすでにお払い箱にされてしまっています。
こうした暴走は、私に戦争中の軍部の暴走とそれを抑えられなかった政府を思い起こさせます。結局のところ、敗戦に行きつくまで、私がよく言う焼け野が原になるまで行くしかないことになります。
では本当にそうなるのか、このブログの真価を発揮すべく、数字でしっかり検証していきましょう。
私が懸念するシナリオは、このまま国債購入を拡大し続ければ日銀のバランスシートが膨らみ過ぎ、とてつもないリスクを背負うということです。
リスクの程度を計るには、金利上昇により350兆円にのぼる保有国債がどの程度価値を毀損するかをみることで計測できます。毀損が日銀の自己資本を大きく上回り債務超過になると、信用は一気に失われます。
保有国債の残存平均年限を計算する必要がありますが、日銀は保有銘柄を公表するだけで、残存年限の公表をしていません。それをいちいち計算するのは時間の無駄ですので、昨年アナリストが推定したものを使わせてもらいますと、平均では約7年半程度です。財務省が公表している残存日本国債の総平均年限は16年3月末で8年5か月。加重平均利率は1.08%です。最近は日銀の購入国債の年限がどんどん長くなっているので、財務省の公表数字とアナリスト推定結果の間をとって仮に8年としましょう。平均利率は1.08%をそのまま採用します。この二つがあれば、金利変動による価格変動の推計を出せます。
その前にみなさんに財務省発表の興味ある数字をお示しします。歴史的な利率(クーポン利率)推移です。年度末の残存国債の平均値です。
1975年度末 7.43%
1990年度末 6.10%
2000年度末 2.67%
2010年度末 1.29%
2015年度末 1.08%
やはり「金利は成長の証」でしたね。成長がピークを過ぎ、バブルが崩壊した以降の急激な利率低下が見て取れます。コメント欄のシーサイド親父さんの読まれた本には、95年以降はゼロ金利とみなす、とありましたが、とんでもございませんです。これは年度末の残存国債全体の加重平均利率ですので、その年の新規発行国債の利率ではありません。お間違いなく。
日銀の強引な政策により1.08%しかない利率を前提にすると、資金運用を日本国債に頼ることなどとてもできそうもないことがわかります。しかし地銀・ゆうちょ・かんぽをはじめ、このわずかな金利に頼る以外ありません。ゼロ金利による彼らの危機感は、想像以上のものがあるように思われます。
さて話を戻し、日銀保有国債を以下のように想定します。
保有残高350兆円、加重平均年限8年、同利率1.08%
日銀の保有国債の含み損益は公表されていません。従って我々ができるシミュレーションは、上記の保有国債全体を一つの債券であると想定し、金利変動による資産価値の変動をとらえることです。例えば1%につきいくら資産価値が動くかということを計算します。すると、
市場金利の1%上昇=価格の7.33%下落=26兆円の損失
同 2%上昇 14.08%下落=49兆円の損失
危険水域と言われる7% 35.79%下落=125兆円の損失
8年物の国債の利率がもともと1%程度しかないと、金利が1%上昇しただけで価格は7%も下落します。上昇が2%とすると14%の下落。そしてギリシャのように金利が7%に達すると債券価格は3分の1以上下落するのです。
では一方で日銀のバランスシート上の自己資本はいくらあるのでしょう。これは日銀のサイトで決算情報として簡単に見ることができます。
16年3月末 貸借対照表
総資産 405兆円(うち国債350兆円)
自己資本 3.5兆円
自己資本比率 0.88%
日銀の自己資本比率はわずか0.88%と1%もありません。金利がたった1%上昇しただけで自己資本の7倍もの損失が出る、きわめて異常な過小資本状態にあります。
リーマンが破たんした時に、自己資本比率がわずか3%しかなかったと批判されましたが、日銀はそのさらに3分の1しかないのです。自己資本と総資産を比べるいわゆるレバレッジ比率は100倍を超えています。FX取引の最悪のレバレッジでさえ50倍でした。
こうした簡単なシミュレーションすらまともにしているとは思えないほど、日銀の銀行としての運営はひどい状態にあること、このブログの読者のみなさんは十分に認識しておいてください。
9月下旬には「総括検証」が出されます。それはそれで結構ですが、しょせん自己による検証でしかないと私は思っています。
みなさんは舛添批判が華やかなりしころ、私がブログで「第3者委員会」という名の「内輪のインチキ」が最近はやっていると書いたのを覚えているでしょうか。
今回の検証は初めから自己検証と謳っているので、インチキではありません。しかし本当に「総括検証」をするのであれば、外の声もしっかり聞き、それも同時に示すべきです。でないとしょせん「検証という名の自己弁護」にすぎない「丸ドメ」と私に烙印を押されます(笑)。
(注)丸ドメとは、「まるでダメ男」にかけていて、まるっきりドメスティック、国内のみ、あるいは社内のみ、あるいは家庭内のみという意味あいです。
つづく