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日銀に明日はあるか その5 金融機関の悲鳴

2016年09月17日 | 日本の金融政策

  昨日9月16日金曜日、3連休を控え秋のマンション大売出しのチラシが新聞に一番たくさん入るハズの日です。うちは東京の世田谷にあるため、毎週金曜日に東急線・小田急線・京王線などの沿線のマンションのちらしが、多い時には10数枚、すくなくても7・8枚入っているのが普通です。

   それが昨日はなんとたったの1枚だけという異常さでした。本日土曜日は一戸建て広告の日なのですが、それも複数枚あるとはいえ寂しいかぎりです。首都圏のマンション販売戸数は、このところ壊滅的に減少しています。一昨日、9月14日の日経ニュースを引用しますと、

「不動産経済研究所が14日発表した8月のマンション市場動向調査によると、首都圏の新築マンション発売戸数は前年同月比24.7%減の1966戸だった。減少は9カ月連続。契約戸数は1310戸で、月間の契約率は7.7ポイント低下の66.6%だった。」

   戸数も減り、契約率もかなり少なくなっています。都心、それも湾岸地域の高層マンションに飛びついていた人たちの需要も、ついに一巡したのでしょうか。価格の高騰もありますが、郊外から相続税対策と喧伝され乗せられていた人たちのタワーマンション需要が異変を起こしています。買ってすぐに相続が起こった場合、課税回避行為として税務署から低価格評価を否認されるケースも出ていると聞きます。

   しかしなんといっても一番の原因は、少子高齢化で需要が減っていること。いくら金利がただのように安くても、需要が金利に反応しなくなっているのです。

   このことを金融機関側から裏付けるニュースが、出ています。金融機関による日銀への猛反発です。

   銀行界からの反発は、すでにお知らせしていた三菱UFJ銀行のプライマリー・ディーラー返上に加え、この一両日で一気に湧き上がっています。来週の日銀の政策決定会合に対し、「ものもうす」なのですが、お上の意向には絶対服従であった銀行界が、これほどまでに反発するのを私は見たことがありません。

 その1.全銀協会長による日銀非難声明・・・一昨日の日経ニュース

全国銀行協会の国部毅会長(三井住友銀行頭取)は15日の記者会見で、従来よりも強めのトーンで日銀のマイナス金利政策に否定的な見解を示した。

「景況感の向上は感じられない。そもそも金利水準が低く、これ以上下がっても景気や資金需要への影響は乏しい」。マイナス金利導入後も「企業の前向きな動きは出ておらず、資金需要は盛り上がりを欠いているというのが営業現場の実感だ」と言い切った。ほかにも、金利低下が個人や企業の運用収益の減少を招き、退職給付債務の増加が企業財務にも悪影響を及ぼすと指摘。「マイナス金利の深掘りはコストがベネフィットを上回りかねない」と指摘。現時点の深掘りは理屈に合わないとの認識を示している。

 

その2.三菱UFJ銀行頭取非難声明  9月16日付ブルームバーグから引用

三菱東京UFJ銀行の小山田隆頭取は、日本銀行が来週の政策決定会合で、マイナス金利の副作用について考慮してほしいと述べ、同政策が融資の利ざやを圧迫し続けると訴えた。同頭取はインタビューで、マイナス金利と厳しい競争環境によって利ざやが圧縮される状態が続いているとし、従って全体としての純金利収入が増える公算は小さく、増加するとは考えにくいと語った。中銀のマイナス金利政策への対応として個人や企業顧客の預金に金利を課すのは難しいとして、預金者の理解を得る必要があると述べた。

次は金融庁のレポートですが、その中に地銀の悲鳴が聞こえました。

その3.金融庁の「金融レポート」、9月15日公表  ・・・ロイターを引用

金融庁は、15日に公表した「金融リポート」で、2025年3月期には6割超の地銀が顧客向けサービスで赤字に陥るとの試算を紹介し、人口減で資金需要が減退する中、顧客のニーズに合ったビジネスモデルの構築を急ぐよう求めた。金融庁は2025年時 点の人口予測などを基に、貸し出しや投信販売といった地銀の顧客向けサービスから得られる利益が預金残高に占める割合を推計。その結果、2015年3月期 は4割の地銀の利益率がマイナスとなったのに対し、2025年3月期には利益率がマイナスになる地銀が6割を超えた。貸し出しを単純に積み増すことで収益拡大を狙うのは困難だと指摘、顧客のニーズに沿ったビジネスモデルを構築するよう再度求めた。

   これまで国債からの金利収入にかなり依存していた地銀ですが、国債の枯渇とマイナス金利でそれがままならなくなっています。2025年はあまりにも先の話ですが、20153月期に4割の地銀の利益率がマイナスになった」点がポイントです。その上、本業中の本業である貸出での収益確保も難しくなると金融庁が指摘しています。

   ついでに損保業界からも。

その4.損保協会会長からも日銀非難声明  日経ニュース

日本損害保険協会の北沢利文会長(東京海上日動火災保険社長)は15日、日銀が今後マイナス金利の深掘りを進めた場合の影響について「超長期の金利が低下すれば貯蓄性保険の販売をさらに抑えざるをえない会社が出てくる」と指摘した。日銀が超長期の国債買い入れを抑えて1年以下の短い期間の金利を中心に下げた場合でも、「損保会社の運用がさらに制約を受ける可能性がある」と影響を懸念した。

  銀行業界も損保業界も日銀の決定会合寸前のタイミングを見計らって、大きな声をあげています。こんなことはかつてなかったことで、異例中の異例です。

  さてクロちゃん、それでもマイナス金利の深堀をしますか?

 

  一方、金利低下に対してポジティブは反応を示したのは借り手側の「借り換え」です。低利と思って住宅長期のローンを借りていた人が、まさかの超低金利を目の前にして更なる金利低下のメリットを取りに行っています。

  そして企業は長期の設備投資資金やM&A資金の借り換え、もしくは将来の金利上昇に備えた先取りをしています。

 じゃ、マイナス金利はいいことなんじゃないの?

   こう言いたくなるのですが、そうは問屋が卸しません。金融機関は借り換えにより金利収入を減らしますし、もっと重大な問題を抱えることになります。

  貸し手の金融機関にとって一番こわいのは、調達金利上昇リスクです。そもそも銀行は短期の低い金利で調達し、それを長期の高い金利でまわし、利ザヤを稼いでいます。前回の「イールドカーブが立ってきた」というのは、利ザヤが増えたことを示します。

   長く続く日銀のゼロ金利政策の対象はもともと、オーバーナイトと呼ばれる超短期の金利です。それにつられて3か月物や1年物もかなり低い金利で調達できます。しかしこれらはごく短期の調達資金で、あくまで変動金利なのです。一方、長期あるいは超長期で貸し出す住宅ローンや設備投資の資金は固定金利です。

   景気や経済環境により短期の変動金利は大きく上昇する可能性があります。すると銀行の利ザヤは逆ザヤとなり、収益はマイナスになる危険性をはらんでいるのです。

   こうしてみれば、そもそも「異次元緩和とは、成功して景気が上昇しても金融システム全体がおかしくなるリスクを持ったまま運営されている」のです。

   「異次元だ、低金利だ」などと言って喜んでいると、内在する矛盾に後で泣くことになります。

つづく

コメント (1)
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