ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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劣等生さんへの回答 その2.米国債か社債か(長文です)

2014年09月18日 | 2014年の資産運用
読者のみなさんへ

 前回の記事にたくさんのコメントをいただいています。ありがとうございます。まずは前回に引き続き、劣等生さんの質問に回答させていただき、その後にみなさんへのコメントを書かせていただきますので、しばしお待ちを。

劣等生さん

 私からの質問に回答いただき、ありがとうございます。それと買った時の考え方も説明いただき、だいぶクリアーになりました。ありがとうございます。

 今回の社債・金融債への投資はこれまでの豊富な投資経験や、様々なリスクの認識もお持ちの上の投資なので、さほど大きなコメントはありませんが、きっと他の方にも参考になると思いますので、私の考えを回答させていただきます。

 まず、劣等生さんのおっしゃるとおり償還までの持ち切り投資であれば、あとはクレジット・リスク(信用の多寡)と為替のリスクだけですが、それを飲み込む覚悟の元に投資されているので、それはそれで私は反対はしません。せっかくですので、ここではクレジット・リスクについてだけ詳しくコメントします。

 債券の専門家としては個別の社債などではなく、やはり米国債をお薦めします。理由の第一は、我々が個別株式の将来を予測できないように、会社・銀行などの個別会社の債券の安全性も予想は難しいからです。これについては後ほどもう少し詳しく解説します。プロの見方も参考になると思います。

第二は、社債に付与されている条件は極めて個別性が高く、シロウトの方が債券の内容を理解するのはほぼ不可能だからです。一応簡単にご説明します。

劣等生さんの保有されている社債は以下のように書かれています。

>銀行や生命保険の発行した社債です。投資適格債です。私の購入債券は金融機関の普通の債権と劣後債、両方があります。劣後債コーラブルで、ファーストコールまで10年程度です。社債の中では比較的安全な金融機関の債権にしました。リーマンを見ろと言われるかもしれませんが、リーマンがあったからこそ金融機関はより安全な投資先になったと思っています。トゥービッグトゥーフェイルだと思っています。甘いでしょうか。


 まず債券の条件ですが、コールが10年だとしてそのままコールされない場合、償還は何年先になるのでしょう。とてもつなく長いと、その間に世の中がどうなるかわかりませんよね。高いと思った金利がとてつもなく低いことになっているかもしれない。これは長期の米国債でも同じだと思われるかもしれませんが、コールをするかしないかの権利を相手に渡してしまっているリスクはとてつもなく大きいのです。コールなしの債券は、発行体と保有者の権利義務は同等です。コールのリスクの理論的大きさは、実際にはオプション理論で計算可能ですが、われわれは計算もなにもできませんから、言い値で買わざるをえません。

 この際なのでみなさんにもお知らせしますが、債券の発行体は実はコールの権利行使権限を債券の発行を仲介した投資銀行に売って、なにがしかの利益を得ています。その分、債券投資家は損しています。ところが、投資銀行などの債券の仲介者にとって、世の中でオプションほどオイシイ商売はないのです。説明はとても難しいのですが、スワップ契約を発行体と結び、発行体のコールの権利を買って、実は巨大なリスクを相手に被せるのです。発行体もそのリスクの大きさを計量する技量は持ち合わせませんので、大きなリスクを背負わされているとは思っていません。ましてや債券の投資家はオプション理論などちんぷんかんぷんですから、投資銀行はオイシサ一人占めなのです。コールのオプションには実はかなりの価値があってそれを投資銀行だけが享受するということです。

 わかりづらいですよね。でもなんとなく煙に巻かれていそうだということは理解できると思います。

 次にクレジット・リスクについてです。

 私の感覚では、クレジット・リスクについてはかなり甘いとおもいます。理由は、たとえばさほど遠くない将来、ネット銀行以外は無用になるかも、といったことがあります。

 より現実的には、リーマンショックで巨大銀行を救ったのは、救わないとシステミック・リスク(金融恐慌になり国が立ち行かなくなる)が大きすぎるからで、単独銀行のデフォルトで済むと思ったら、FRBは潰すことは大いにあると思います。例えば投資銀行だけの破綻は、一般の人にはあまり迷惑がかかりませんので、リーマンは破綻させました。

 アメリカの投資に関する基本的思想は、「自己責任」です。例えばある一行が隠ぺい工作をした上でとんでもないリスクを取っていたのがバレ、巨額損失を出したらお取りつぶしでしょう。預金者も預金保険の10万ドルを超える部分はなにも保証されないと思います。

 たとえTOO BIG TO FAIL銀行であっても、様々な処理の仕方があります。わかりやすいようにJALの例で言いますと、大事な交通インフラなので破綻になっても運行をストップはさせなかった。しかしリスクを取って投資している株主や社債保有者などの債権者はすべてゼロでリターンはなし。しかし運行できる体制は維持させる。

 納税者に負担を強いるには、その前に少なくとも株主と社債権者からはすべてを吐き出させないと説明責任を果たせないからで、そのやり方は日本よりアメリカのほうが一般的にはシビアです。預金者の10万ドルは法的にそこまでは保護する約束をあらかじめしています。そして巨大銀行であれば、決済インフラがなくなると困るのでJALの運行確保同様、通常業務は継続できるようにする。しかし株主・劣後債保有者、金融債保有者はロハ。大いにありえると思います。

 ちょっと脅かしすぎかもしれませんが、可能性はあります。

 次に、投資適格債のデフォルトについてです。

 投資適格債の長期のデフォルト率に関して、ネットで見つけることができたのは、フィッチ・レーティングスの事業会社のデフォルト統計だけでしたので以下にそれを示します。一般的にアメリカの場合、金融機関のデフォルト率も事業会社同様に高いので、当たらずしも遠からずと思われます。

<1990年から2013年末までの累計>

格付け付与から        5年以内デフォルト率   10年以内デフォルト率

投資適格債             1.17%            2.27%
投資不適格債(ハイイールド)  10.70%           13.38%


 上の表の見方は「この23年間の累計では、たとえ投資適格債でも、格付けを付与してから10年以内に2.27%の企業はデフォルトした」と読みます。今大人気のハイイールド債では、10.7%の企業が5年以内にデフォルトしています。

 2%にぶつかってしまえば、すでに自覚されているようにほぼ100%を失います。投資の考え方としては、保有されている金融機関債の利率が同年限の米国債と比べてどれくらいスプレッド(上乗せ)があるかで、リスクとの見合いを判断することになります。金融機関の格付けとスプレッドは見合っているでしょうか?

 とまあ、こうしたことを見ていくのがプロの見方です。すいぶんときびしいことを書きましたが、私の率直な意見です。今後の参考にしてください。

別件の債券計算ですが、

>米国債を買っておけば「3年間で30年債だと8割の儲け、10年債でも5割の儲けがある」とあります。データと式でご説明いただければと思います。

これはこのブログでも何度か説明をさせていただいていますが、四則演算で簡単には示せません。HP17というイールド計算機か、エクセルのイールド計算機能を使います。その計算機のインプットの仕方と計算原理を説明するだけで、本が一冊になるくらいです。原理的にはまず将来償還される元本額と将来に渡るすべての支払いクーポン金利額を現在価値に引き直すという計算をしますが、それを次に市場金利を動かしながら債券価格の変動を率で計算していくのです。

わかりづらいですよね。私の著書(P.171)にもそのあたりの基礎が書いてありますので、参考までに見ておいてください。

以上です。

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劣等生さんからの質問への回答、その1

2014年09月16日 | 2014年の資産運用
 劣等生さんから債券投資に関する質問をいただきました。

 「劣等生さん」とか、「○○おっちょこちょいさん」というお名前をそのまま書くのは、読者の方の失礼にあたりそうで気が引けるのですが、それ以外に方法がないので、このまま失礼いたします(笑)。

 質問の主題は「米国債よりちょっとリスクのある社債なども投資対象になるのでは?」という部分だと思いますが、勝手ながらご質問をいくつかに分解させていただき、回答させていただきます。

劣等生さん;株だとかFXだとかリスキーな投資の本はいくらでもある。
債券の本はほんのわずか。


この理由を、私が本を出版する時に編集者と交わした会話の一問一答形式で記しておきます。まずは債券の本がない理由から。

 私も何故債券の本がないのかという質問を出版社にぶつけました。その答えは「債券の本は売れたためしがないからです」とのこと。

 「じゃ何故私の原稿を出版しようと思ったんですか?」と聞いたところ回答は「原稿を読んだ編集局の人はみんな米国債を買おうと思ったから」というものでした。「説得力抜群で、これでは買わざるをえないでしょう」とも言っていました。

 それともう一つ言っていたことは「投資の本はあまたあっても、『次はこの銘柄が上がる』などと具体的銘柄が書いてある本は最初から大外れか、ちょっと経てば賞味期限が切れる。一方、投資の一般論が書いてある本はポートフォリオがどうしたとか書いてあっても、具体的にこれを買えという回答は書いてない。あなたの原稿には投資の基礎プラスこれだという解決編が書いてある」ということでした。

 それでもきっと編集部の方で実際に米国債を買った方がいるかはかなり疑問です。このたった3年間で30年債だと8割の儲け、10年債でも5割の儲けがあると知れば、きっと「買っときゃよかった」と思うでしょう(笑)。もっとも私のブログを読んでいないでしょうから、この事実も知らないでしょう。

劣等生さん;われわれ素人は債券投資に資金を割くべきだと思います。
そうですね、証券会社、銀行、ファイナンシャル・アドバイザーの方々が本当に投資家の立場に立つ人であれば、きっとそれを薦めるでしょうが、彼らの関心事は手数料を稼ぐことなので、「米国債を売らないなら口座を引き上げる」とでも言わない限り(笑)、絶対に薦めないのです。1億円を米国債に投資してもらっても、年間収益は3千円の口座管理料だけです。それでは証券会社は自己否定することになります。その分でもし米国債の投信を買ってもらえば、0.9%として年間100万円近く手数料が入るでしょう。オイシサ300倍です。

では、何故株だとかFXだとかリスキーな本はいくらでもあるのか。

 理由はもちろん「売れるから」なのですが、それだけでは答えとしておもしろくありませんので、私なりの見解をお示しします。

 本屋さんに行くと、投資と限らず○○攻略本があまた並んでいます。株式投資やFXの本の大半はこの攻略本のたぐいだと思います。パチンコか競馬かはたまた宝くじか。リターンの期待値からして勝てっこない賭けごとでも勝つための攻略法を見つけようとする。このブログの読者の方からすれば「アホらしい」の一言で片づけることができますが、のめり込んでいる人は真剣に勉強して勝とうとしているのです。そしてこうした攻略本の多さは、参加者の人数が多いことも影響していると思います。株やFXの本の大半もこの攻略本のたぐいだと思います。

 一方、攻略本とは一線を画す投資本もたくさんあります。そうした本の著者は大学の教授もいれば大手投資会社のアナリストや著名な投資家、中にはちょっと怪しげな株式アナリストもいます。内容的には投資に必要な経済の基礎知識、世界各国の情勢から業界や企業の分析などファンダメンタルズ教えるものから、投資の歴史、成功した投資家のノウハウや投資のABCなど実に様々な本が出版されています。

 こうした内容の本は「投資はバクチではない、科学だ」という標語のもとに、知的好奇心の旺盛な方、勉強好きな方を惹きつけます。刻一刻と変化するファンダメンタルズや相場のテーマを追うため、本屋の本棚もあふれかえることになります。

 そしてここが肝心ですが、私に言わせれば「本の数が多いのは『これが極意だ』という必勝法などないことの証拠」なのです(笑)。必勝法があれば本は一冊で足ります。そんなベストセラーは聞いたことがありません。そして投資の場合はみんなが同じことをしてしまうと、儲からなくなるという自己矛盾を抱えています。ということは、必勝法はあったとすれば誰にも教えないのです。

 最近、HFT(ハイ・フリークエンシ―・トレーディング)という超高速コンピューターを駆使した投資法がはやり、大きな利益を出すヘッジファンドが話題になっていますが、これとてそのうちみんなでやりすぎて儲からなくなるし、規制も入るでしょう。かつて私のいたソロモン・ブラザーズが債券を中心としたアービトラージ(裁定取引)で大儲けをしていましたが、やりかたを他社が学習したら儲けがなくなってしまったのと同じです。


 出版社は常に「売れそうな本を売る」という使命を負っています。ですので、必勝法という理想郷を求めて出版し続けることが使命であり自己防衛の方策なのです。

 債券投資、特に私の提唱する「持ち切り投資法」は必勝法が存在しいて、しかも方法は一つなので一冊でおしまいです(笑)。

 債券投信がやるような、ポートフォリオの入れ替えをしながら債券に投資する方法は、理屈が難しい割に結局株式投資と変わず、相場に翻弄されることになりますので、私はお薦めしません。

 以上がご質問の前段にあった疑問などへの回答です。


劣等生さんの次の質問は

劣等生さん;投資対象は米国債なのでしょうか。リスキーな投資の対極として米国債はわかります。しかしそれよりちょっとリスクのある社債も投資対象になるのではないでしょうか。私の投資内容に対する評価と合わせてご意見を伺えれば幸いです。

これがご質問の本質部分ですね。回答は長くなりますので、次回にさせていただきますが、一つだけ質問があります。保有債券は銀行・保険などの金融機関債とありますが、その債券は劣後債ですか、それとも通常のシニア債ですか。お答えいただけると、回答しやすくなります。不明の場合は不本意な株屋さんに聞いてみてください。よろしくおねがいします。



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日銀クロちゃんの通信簿、その3 「円安はマイナスです!」

2014年09月14日 | 2014年の資産運用
 円安が昂進し続けています。クロちゃんの「今の円安は日本経済にはマイナスではない」という発言が市場をサポートしているように見えます。この発言、本当にそうなのでしょうか。クロちゃんの通信簿を付けながらちょっと考えてみましょう。

 円安により物価が先行して上昇しそれに収入が追い付かず、実質賃金が減る一方の庶民にとっては不幸の連鎖以外のなにものでもありません。年金収入に頼る私も円安は自分の円建て資産が大きく減少し、海外旅行もしづらくなり、とても高額商品を買う気にはなれません。ますます財布のひもを固くする一方です。


 円安のメリットとは、輸出が増え輸出企業の業績が向上し、設備投資が増え、賃金上昇につながり、成長につながることが一番なのですが、実際には輸出数量は増えていません。最大の理由は日本の製造業が競争力を失っているからだと私は説明してきましたが、それをあるエコノミストが生産の側面から数字で示してくれましたので、紹介します。それは製品別の国内生産量の変化です。

日本の輸出の花形であった電気製品の生産量を2010年を100として14年7月と比較しています。

テレビ      3.7 (37ではありません、3点7です)
ビデオ      4.5
カメラ      20.8
携帯電話   20.6


 たった4年です。あまりの減少に私は声を失いました。テレビやビデオなどは日本での販売量が落ちているのではありません。日本ブランドであってもほとんどが輸入なのです。これらの製品は生産すら回復の望みがなくなりつつあるので、ましてや円安による輸出増などは今後ありえません。

 シャープが00年代後半に「世界の亀山モデル」の液晶テレビでわが世の春を謳歌し、その勢いで堺に巨大工場の建設をしていたのは07年から08年くらいです。ところがきちんと建ちあがらないうちにシャープ製品は競争力を失い会社の屋台骨が傾き、ほとんどまともな生産をしないうちに工場の売却をしました。それもさんざん買い叩かれ、思惑通りにはいかなかったのを思い出します。
  
 もちろん日本の製造業の中にはまだ十分に競争力を持っている自動車のような製品もあります。ところがそうした製品も現地生産が進んでいるため、メーカーはこの2年近い円安局面でも輸出数量を増やすことはありませんでした。

 アベノミクスを支えている応援団・経済学者等はこうした現実を突きつけられてもいまだ強気の姿勢を崩さず、政策を見直すことはしていません。その最たる例がクロちゃんです。就任時の言葉は、

「政策は小出しにはしない。できることはすべてやる」でした。

 しかしすでに先週の会見では今後の追加緩和に関して言及し当初の宣言は実質的に取り下げています。しかも記者の「もうやれることはないのでは?」という質問に対して返答は、「日本には買える金融資産はいくらでもある」でした。

 アメリカには巨大な不動産証券化商品や事業会社の社債市場があります。日本にはそうしたものはほとんどありません。この先まともに買えるのはREITを含め株式のETFくらいです。

 我らの大事な年金を運用するGPIFを政策実現の手段に使うことすら言語道断なのに、自分の主義主張を実現するために日銀が株式を買うなど、正気の沙汰ではない!

 政府から独立した存在であるべき中央銀行がこうしたことをするのは先進国では当たり前のようになっていますが、これは間違いなく「中銀バブル」です。今後はどこかで破裂がはじまり、後になって「なんであんなバカなことをしたのか」という反省が始まるにちがいありません。


  抜けるが勝ち!

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日銀クロちゃんの通信簿、その2

2014年09月10日 | 2014年の資産運用
 ドル高が恐ろしいほど昂進しています。このままどんどん行かないことを祈りますが、行かない保証はありませんね。

 さて、前回のクロちゃんの通信簿その1では、デフレ克服の最大の眼目である物価の上昇率を見てみました。おさらいします。物価は消費税増税分を除いた分で示し、それと東大発表の日次統計を比較しました。すると、

総務省指数最近値(2014年07月)     1.14%の上昇  (ただしコア指数は0.3%程度)
東大指数最近値(2014年09月03日)    0.97%の下落

 一応1%を超える上昇率を達成したかに見えますが、いわゆるコア指数は0.3%程度の上昇にすぎず、しかも先行指標と考えられる東大日次指数がマイナス領域に入っているため、2年で2%の目標は実現が困難になってきている、という指摘をしました。


 では経済活性化、そしてデフレ克服を目指して世の中に供給するオカネを増やす日銀の異次元緩和政策がどうなっているかを見てみます。それはマネタリーベースという日銀の統計を見るとわかります。

 このブログでは半年前にクロちゃん就任1周年で通信簿をつけました。その時の数字も並べてみましょう。数字は前年からの増減です。日銀のサイトでみることができます。

                         14年4月  14年8月
マネタリ―ベース、1年の増加額;   +74兆円  +71兆円
日銀当座預金のブタ積み、増加額;  +71兆円  +67兆円


 8月末までの1年にクロちゃんが国債をメチャ買いして供給したオカネは71兆円ですが、そのうちのほとんどである67兆円が日銀当座預金にブタ積みされている様子がわかります。4月も同様でした。

 でも、これだけではちょっとわかりずらいので、世の中の貨幣流通量も並べてみます。この数値は増加分ではなく、実際に世の中にある貨幣の流通高です。

            13年8月    14年8月     前年比
貨幣流通高    45.7兆円   46.0兆円     +0.3兆円


  世の中の貨幣流通高は1年でたった0.3兆円増えただけで、これは誤差です。

 クロちゃんは毎月国債を銀行から7兆円も買って、その代金が銀行から貸し出しなどに回ることを期待していました。しかし実際にはそれらはブタ積みばかりで、流通している貨幣量は去年も今年も46兆円ほどでほとんど増えていません。

 もう一つ大事なのは国債を売却した銀行が、そのオカネで貸し出しを増やしているかどうかですが、ほとんどを日銀の当座預金にブタ積みしているので、もちろんわずかにしか増えていません。
 全国銀行貸出残高の前年比増加率は2%です。しかも都銀はわずか0.4%で、地銀が増やしているので2%になっています。数字は以下のサイトでみることができます。
http://www.zenginkyo.or.jp/stats/month1_01/details/20140905150000.html

  こうしてみると異次元緩和の名の元にバズーカ砲を打ったはずのクロちゃんですが、どうやらバズーカの弾は真上に打ったので、自分に返ってきて自爆しているようです(笑)。それがここまで1年半の異次元緩和の実態です。
 
 ではあと半年で何ができるか。バズーカをテポドンに変えてメチャ打ちするかもしれません。例えば株式市場で株を買いまくり、外債を買いまくって円相場をさらに安くもっていくなどです。しかしそれでも懐具合の改善していない消費者は無駄な買い物などできず、物価は下落するかもしれないし、経済成長率はどんどん低下するかもしれません。

 そしてクロちゃんは自ら、消費税は再値上げしないと国債の信認が危うくなる可能性が大きいというニュアンスの言葉をすでに発してしまいました。

 ということは、彼はアベチャンと一体ですから消費税は何が何でも上げるのでしょう。8%でも庶民の懐はたいへんなのに、10%になったらどうなるのか、とても心配です。
 かく言う私も10%にはいずれせざるを得ない、いや先々はもっともっと上げなくてはいけないと思っています。キリギリス生活をしたつけは、キリギリスが払うべきで、アリん子に払わせることはできません。

「その前にやることがあるだろう!」などという議論は、自民党にしても無駄です。


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日銀クロちゃんの通信簿

2014年09月06日 | 2014年の資産運用
 Owlsさん、いつもコメントをいただき、ありがとうございます。大変重要な点に関する鋭いコメントですので、私からもコメントを差し上げたいと思います。Owlsさんのコメントを引用しながら反応をお返しします。
先日の日銀の政策決定会合後の記者会見での発言をOwlsさんが引用しています。

>消費税アップをしなかった場合への対処は難しい

私のほうで黒田氏の発言をそのまま引用しますと、

>政府の財政健全化の意思、努力が市場から疑念を持たれることになると、確率は低いとは思うが、そういった事態が起きると、政府・日銀としても対応しようがない

 市場が、日本の財政赤字はコントロールが出来ず膨張したままになると判断すれば、日銀が追加緩和で国債などの資産購入額を大幅に増やしても長期金利の上昇と円安が昂進し、最悪のシナリオになるということをはっきりと発言してしまったのです。いくら仮定の話でも、今までだったら「仮定の話はしません」でかわしていましたが、今回は違いました。これは大きな変化としてノートしておきましょう。

Owlsさんは、以下のように続けています。

>首相はともかく、黒田総裁は異次元緩和は博打と認識しているのではないでしょうか?

 黒田氏は大蔵省にいた90年代末から超緩和論者でした。それは日銀総裁になった辺りの私のブログで彼の10数年前の発言を引用し、お示しました。

 しかしクロちゃんはとてもおりこうさんなので、Owlsさんのおっしゃる通りこの緩和策が博打であってしかもこれ以外に手の打ちようがないこともわかっているのでしょう。

>立場上言えないでしょうが、博打は失敗と内心は思っているような気がします。政治家は脳天気だが、黒田総裁は脳天気でもなさそうです。


 いやまだ結論までは出していないのではないでしょうか。何故ならアベノミクスというよりは、アベノマジックに国民のほとんどはまだかかっていると思われる証拠があたくさんあるからで、その限りにおいては一縷の望みは捨てていないでしょう。

>戦争には反対だったものの、真珠湾攻撃の立案をした山本五十六と同じ立場なのかもしれません。

 その説に賛成です。先月BSで放送された山本五十六の特集番組では、新たに発見された彼の書簡集で彼がアメリカには勝てっこないと思っていた証拠を提示しましたね。黒田氏はまさに同じ心境なのでしょう。
 少し違う点は、彼の超緩和策はその先を見据えているに違いない。つまりいずれ国債償還に行き詰るのが見えているので、そうなる前に徐々にインフレを起こし人々を慣れさせようとしていることです。山本五十六の場合も先手で勝利したうちに和平交渉入りという先を見据えてはいたのですが、真珠湾で先手を打ったとたんに逆に勝利間違いなしと軍部も政治も国民も錯覚してしまい、シナリオが狂いました。

 黒田氏はみんなが錯覚してうまく踊ってくれればそれに越したことはない。踊らなければインフレで事を収束させる。つまり、私が著書を含めて何度か申し上げているように、国債は一気に元利払い停止という破綻は絶対にさせられないので、インフレからあるいはハイパーインフレ一歩手前くらいで収めたいのです。ハイパーインフレ一歩手前でも国民は強烈なインパクトを受けますが、ショック死には至らずに済むでしょう。どんな強いショックでも時間さえ稼げれば、慣れる、あるいはこなせるものです。

 では折角ですのでクロちゃんの通信簿をつけておきましょう。2%のインフレとマネー・ストック増加の2つが大命題ですが、今回は物価についてです。

大命題;2年で2%のインフレ

 就任からすでに1年半がたち、あと残された時間は半年に迫りました。2%の物価目標はもちろん消費増税分抜きで2%にもっていくという目標です。直近の消費者物価指数をみておきます。4月以降増税は3%ですが、税金がかからないものがあるため消費者物価に反映される増税分は約2%で、それを差し引いた数字も示します。

             

         5月  6月  7月
総合指数    3.7  3.6  3.4
除く増税分   1.7   1.6   1.4


 8月末に発表された7月の総合物価指数では増税除きで1.4%になっています。ここまでは一見うまくいっているように見えます。

                       5月  6月  7月
食料・エネルギーを除くコア指数   2.2  2.3  2.3
除く増税分                 0.2  0.3  0.3


 しかし変動の激しい食料・エネルギーを除くコア指数では、わずかに0.3%の上昇率に過ぎません。大本営の発表ではいつも天候不順などの言い訳が入っています。ここでもそうした撹乱要素を除いて本質的なトレンドつまりコア指数は0.3%の上昇と見てあげましょう(笑)。プラスにはなっていますが、実は誤差に毛の生えた程度のプラスです。先行きはどうか。

 先日このブログでも紹介した東大の発表するバーゲン品を含んだ実態に近い全国日次物価指数は、トレンドがすでに明らかに下向きになりつつあります。実質賃金がマイナスのため、みなさんますますバーゲン品に頼るので、物価は対前年でマイナス・ゾーンに入りました。こちらの方が実態を反映していると思われます。
 前回の消費増税時でも東大物価が一足先に下降トレンドに入り、総務省発表の数字がそれを追いかけています。東大サイトを引用します。増税インパクトを厳しく見ているため、すこし数字が違います。
http://www.cmdlab.co.jp/price_u-tokyo/

総務省指数最近値(2014年07月)     1.14%の上昇
東大指数最近値(2014年09月03日)    0.97%の下落


 さて、このマイナス0.97%をあと半年でプラスの2%にもっていけるか?

いくらバズーカ・クロちゃんでもそれはとても無理そうです。ということはいよいよミサイルを準備かもしれません。

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