くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「正しいパンツのたたみ方」

2015-01-17 18:38:19 | 工業・家庭
 スカイランタンに参加しました。朝井リョウさんの作品「世界地図の下書き」で読んでから、ずっと気になっていたんですよね。
 会場は結構混んでいて、受付もずいぶん並んでいました。初めはただ見るだけのつもりだったのですが、打ち上げ開始直後でふわふわ浮かび上がっていくランタンが幻想的で、つい飛ばしてみたくなりまして。
 ランタンは下部にひもでくくったダンボールがついている感じ。ただライター持って行かなかったので困っていたら、ボランティアスタッフさんが手伝ってくれました。
 風が強くてなかなか膨らまず、いったん手を離してみたら地面すれすれにしか動かない。(だから、結構危険なんです)
 低い位置で押さえる方が膨らみやすいと教えてもらって、なんとか飛ばせましたー。
 その後風がまた強くなって一時中断してましたが。
 
 で、この日の夜ご飯は、作っておいたカレーと春巻きの皮ピザ。トッピングは子どもたちにしてもらいました。
 なんとなーくでも、小学生あたりから食事づくりにかかわることは必要と思うので時々参加型調理にはしてます。本当にちょっとなんですけど。

 で、わたしはというと、家庭科は大の苦手でした。通知票の評価なんて惨憺たるものです。まあ、パジャマのボタンホール逆につけたりしたので仕方ないんですが……。
 でも、大人になると手芸も料理もそれなりにはできるようになりました。その下地は、やはり家庭科の授業にあると思います。実技教科大切ですよ。

 ということで、岩波ジュニア新書「正しいパンツのたたみ方 新しい家庭科勉強法」です。著者は、大阪で家庭科教師をされている南野忠晴先生。
 このタイトル、結構気になりますよね。でも、岩波ジュニアではかなり上位のベストセラーなのです。

 南野先生の同僚が、洗濯物をたたむと、奥さんからパンツのたたみ方が違うと文句を言われるそうなんです。
 ずぼらなわたしからいえば、別にどんなたたみ方でも、ちゃんとしてくれるんだからいいじゃない? と思うんですが、結構こういうことでしこりになるカップルもいるんでしょうね。
 南野先生がこの本で語る授業テーマは、家族です。
 家族について学びながら、コミュニケーションツールを学びます。
 家族は、小さな社会。同じ教室にいながら、求めるものはずいぶん違うはず。
 
 授業はグループワークを行ったりして、すごくおもしろいです。
 ランキングが楽しそう! 多数決をしない、納得いくまで話し合うって、コミュニケーションでは大事ですよね。
 わたしも道徳などに活用してみます。

「迷宮ヶ丘六丁目」日本児童文学者協会・編

2015-01-17 05:05:14 | YA・児童書
 児童向けの怖い話「迷宮ヶ丘」シリーズ(偕成社)。六丁目は「不自然な街」。
 濱野京子「しあわせな家族」は、通学路の途中にある空き家に惹かれる女の子の物語です。姉はアキナ、妹はハルナ、真ん中の自分だけミユウ。外見も二人とは違う美優は、がさつな家族が嫌だと感じています。ピアノも習いたいのに反対されて、不満を溜め込んでいるのです。
 ふと空き家に行ってみたら、いつの間にか素敵な家族が住んでいて……。
 伏線がしっかりしていて、「兄」である拓哉の悔恨が伝わってくるのがいい。家族のことを思い切ったはずなのに、四年経ってそのような思いをさせたくはないと思ったのでしょう。

 伊藤美香「不自然な街」。カバーには電車のシートに坐る市松人形が描かれます。目が青く澄んで、ガラス玉なのだろうと予想するのですが、中を開くと彼女の目に瞳がある。
 人形は、電車で試合に向かっているはずの耕也に語りかけてきますが……。
 救いがないのが、怖い。
 お好み焼きを作る人形が楽しそうであっけらかんとしているのがまた怖い。

 如月かずさ「教科書の精」は、読み聞かせで盛り上がりそうな話ですよね。教科書に落書きをしたものが、次の日には消えている。ムキムキの紫式部もサングラスの聖徳太子も、きれいに消されています。
 意地になってボールペンで書いてみると、なんと「呪うぞ」と書かれ……。
 実はこの教科書、ミラクルな力があったのです。
 明るいエンディングにふふっと笑ってしまいます。

 次郎丸忍「奇跡の子」。これ、好きです。他の人からの視線や囁きにつらい思いをしている「わたし」。何度となく危険な状況を回避していることから「奇跡の子」と噂されるのです。
 窓から落ちてきた花瓶や、ガラスに当たったボール、登校中靴ひもを結んでいるうちに突っ込んできたワンボックスカー……。
 彼女を守っているものとは? 夢で車の運転をしている理由は? 何かが起こりそうだけれど友人を守りたいと思う「わたし」は社会科見学に参加します。
 少女のひたむきさが素敵です。

 そして!
 眉村卓「決めるのは本人だ」。ベテランの味です。すごくドキドキします。大御所なのに、今の子どもたちにも近い世界を描き出せるのはすごい。
 苦手な同級生の言葉に苛立った一輝は、シャープペンを彼の背中に突き立てます。怒った彼が出したナイフが、胸に刺さったとき、異星人のテレパシーが聞こえてきます。
 危険に遭遇した生物個体の考えを知るために、今から様々な世界に放り込む。どの世界にいるのを選ぶのか。決めるのは本人だ。
 まず、「ボエーボエー」とほえるバズラに追いかけられるスリンになる世界。
 バズラにしてもスリンにしても、説明がほとんどないのに伝わってくる。
 次は二重太陽の世界で、砂漠に放置されたエルルミオン族の男が、自分が処刑されるきっかけとなった第一王女のことを思います。
 とにかくすごいイメージ喚起力。このドラマをちゃんとした短編で読みたいよ! (子どもたちならゲームですかね)
 観念的な部分もありますが、さすがと唸りました。

 スカイエマさんの挿絵に惹かれて借りてきたんです。満足いたしました。
 でもエマさん、バズラの絵まで描いちゃうのは驚きでした。こちらも、さすがです!

「あん」ドリアン助川

2015-01-16 04:44:20 | 文芸・エンターテイメント
 昨年の読書感想画コンクール課題図書、でした。
 でも、購入して即美術科に回したため、読んでいません。
 ところが、感想文コンクールの審査会に行ったら、この作品の主要モチーフがハンセン病と判明。読んでみることにしました。
 ドリアン助川「あん」(ポプラ社)。
 「どら春」というどら焼き屋をしている千太郎。ドラッグの不法所持で前科があります。
 あるとき、アルバイトをさせてほしいと現れた徳江というおばあさん。彼女の作るあんこが非常においしく、どら焼きの売り上げが見る間に上がります。
 徳江の指が少し曲がっていることが気になりはしましたが、そこは深く追及しないことに。
 しかし、徳江がハンセン病の元患者ではないかという噂が客の間に流れ、売り上げは激減。家主からも徳江を辞めさせるようにと迫られます。
 
 物語が集結しても、千太郎は無職だし、何か明るい話題があるわけではないんです。
 でも、これまで療養所の比較的近くにいながら、ハンセン病にまるで関心がなかった千太郎が、彼らの境遇を知って憤る、その姿が読者の心を打つのではないでしょうか。
 柊の垣根で覆われた療養所。モデルは、多摩全生園ですね。
 そこで菓子づくりをしていた徳江。その技術であんこを煮ていくれたのです。豆の声を聞く、というその想いが伝わってきます。
 本名を奪われ、家族と別れ、母が縫ってくれたブラウスも捨てられ。
 結婚した夫の断種。ハンセン病の名誉が回復したはずなのに、それを認めない世の中。
 知らないまま生きている人も少なくはないように思います。
 
 昨年、わたしがハンセン病を知るきっかけとなった谺雄二さんが亡くなられました。
 病気で外見に影響があっても、死に至る病ではない。特効薬が開発されて、現在では完全に治る病気である。
 しかし、世間では正しい知識が流通しているとは言えません。
 谺さんたちが戦ってきたことを、少しずつでも生徒たちに伝えたいと思い、道徳で紹介するようにはしています。
 ハンセン病を「過去の病」として目を向けないわけにはいきません。いわれない「差別」の現実を、未来に引き継いでいくことは大切だと思います。
 知らなかったあなたへ、手渡したい一冊です。

「洗脳」Toshl

2015-01-15 03:07:05 | 芸術・芸能・スポーツ
 洗脳に興味があるのです。
 なんていうと、誤解されそうですが、カルトに振り回される人々の行動とか、マインドコントロールから覚めたときの状況とかが気になります。
 Toshl「洗脳 地獄の12年からの生還」(講談社)。
 だから、この本もすごく読みたかったんですが、ずっと貸し出し中。
 この本の読者層は、どの要素に引かれているのでしょうね。わたしのように洗脳に興味があるという理由はそれほど多くはないでしょう。もともと筆者のファンだったという人がメインですか?

 X JAPAN というと、どんなイメージを思い浮かべるでしょう。わたしは「rain」という曲と、「豹変したヴォーカル」かな。
 ビジュアル系バンドの草分けでありながら、セミナーに傾倒したメンバーがいて解散、という印象が強いですね。
 数年前、藤野美奈子のまんがに観客としてライブを見たことが書いてありました。服装も全く変わって、トークも宗教的になっていたとか。
 で、その傾倒したメンバーTOSHI(本文が改名前の表記になっているため、同様にしておきます)が、教祖MASAYAにどのようなことをされたのかを書いたのがこの本なんです。
 TOSHIは、舞台の共演で知り合った守谷という女優と結婚します。守谷がMASAYAのセミナーのことを聞きつけて、自分も参加したいと誘う。彼女の巧みな誘導により、TOSHIはX Japanから脱退。繰り返される罵倒と暴力によって、考える力を奪われていきます。
 単独でストアライブ(MASAYAの曲を歌う)を行い、売り上げは全て守谷や世話役の女性に渡す。TOSHI自身には何も残らず、生活のために消費者金融をまわったりX時代の衣装を売ったり。
 MASAYAたちはホームオブハートという団体を運営しているのですが、自宅や本部はからにゴージャスでプールまである。外車も何台も。それでも足りないと責め立てるのだそうです。

 この守谷という女性、いろいろと傷心しているTOSHIを慰めて妻になるのですが、結婚して数ヶ月でホームオブハートの本部に行ったまま戻らなくなります。のちに被害者の方と話していて、誘い方があまりにも自分とよく似ているため、「仕組まれていたのでは」と考える場面もあります。
 でもね、TOSHIさん純情すぎる……。守谷から「五七五の俳句調のメッセージを書いた百枚を超える短冊をプレゼント」されて、涙が止まらなくなったというんですよ! 
「死ぬときは 手と手をつなぎ 逝きましょう」
 …………。
 まじですかっ?
 
 さらに、MASAYAに出会った当時は、彼が洟をすするのと痰を吐くのが気になって仕方なかったようなのに、後半には全くそういうシーンがなくなっています。
 癖なんてそう簡単には治りませんよね。その行動も、見えなくなっていたのではないでしょうか。

 ことあるごとに守谷や幹部たちから殴られ蹴られ、次第にぬけがらのようになるTOSHIのもとに、X Japanを再結成しないかという話が舞い込みます。
 TOSHIとYOSHIKIは幼なじみで、二人の間にはやはり余人が踏み込めない領域があるように思いました。
 YOSHIKIはロサンゼルスに住んでいるので、TOSHIがそちらを訪ねることもあり、またバンドについてMASAYAからの説明にしても矛盾を感じるようになり、逃亡を決意。
 ある人からの助けを受けて、潜伏先を用意してもらいます。この家のご主人の人格に触れることで、彼は改めて目を覚まします。
 
 宗教にしてもそうですが、女性がのめり込んでしまうとそのパートナーまでが引きずられてしまうことが多いのではないでしょうか。
 TOSHI自身、なんだかおかしいと思う場面はずいぶんあったようです。もちろん、洗脳から覚めてからの発言なので、そのときとはまた違った見解も入っているとは思いますが。
 ところで、この本部、那須にあったそうです。テディベアミュージアムの近くだって。うーん、何度か足を運んだものですが、よく覚えてないです。

「金色のキャベツ」堀米薫

2015-01-14 05:46:16 | YA・児童書
 堀米薫さんの新刊です! 「金色のキャベツ」(そうえん社)。
 小学五年生の風香は、塾やピアノなどスケジュールがびっしり詰まった生活をしています。ストレスのたまる毎日、そこに叔父の仁からキャベツが届いて。
「遊びにこい! いつでも待ってる」の手紙を見て、風香は彼の住む鹿狼村に行くことを決めます。
 とりあえず、ママには内緒。風香は電車に乗り、三時間かけて村にたどり着くのでした。

 風香を迎えにきたのは、仁の妻穂波の父親の重さんでした。
 重さんのダンプに乗せられた風香は、キャベツ畑で働いていた拓也と出会います。
 拓也は風香と同じ五年生。不慮の事故で親を亡くし、重さんの家に一緒に住んでいるのでした。彼の作るコールスローのおいしいこと。そして、同じような境遇で風香の家に住んでいた仁のことなどを考えさせられます。
 家に帰る日の朝、風香はお願いして三時に起こしてもらいます。
 キャベツの収穫がその時間から始まるのです。朝日に輝いて光るキャベツ!

 わたしも農家出身なので、キャベツ畑や作業のことは知っています。(三時収穫はしなかったけど)
 都会育ちの女の子が、土に触れて変わっていく姿が、頼もしいですね。
 主人公の名前が、わたしの教え子と同姓同名だったのも親近感がありました。
 今晩はコールスローを作ろうかな?(巻末にレシピついてます!)

「四月一日亭ものがたり」加藤元

2015-01-13 20:13:29 | 文芸・エンターテイメント
 東京では台場に泊まっていました。ディズニーランドまで乗り換え一回で行けます。
 娘が水族館に行きたいというので、葛西臨海公園へ。開場前に着いてしまい、散策していると水上バスの船着場がありました。残念ながら夕方の発着。
 水族園は思ったより広くて、ペンギンが回遊する姿がチャーミングでした。
 お昼は浅草。そして、そこから水上バスが出ていたので、乗ってみました。水位が高いということで、もうすぐ運休になるとガイドさん。橋の下をくぐれませんからね。
 あとは東京駅に戻って、お土産を買って帰宅です。
 帰りの新幹線で読んだのが、加藤元「四月一日亭ものがたり」(ポプラ文庫)。「四月一日」は「わたぬき」と読みます。
 大正の末、銀座から裏通りに入ったところにある洋食屋「四月一日亭」が舞台。「チキンカットレット」「アイスクリーム」「ホワイトライス」「オムレット」の四編。わたしは食べ物に関わる話が大好きなので、買ってみました。
 あやめという遊女に恋をした初年兵が、二人でこの洋食屋に行ったその思い出から語られます。初年兵は先輩の西岡からこの店を紹介されたのですが、そういうと店主は驚いたような顔をする。
 この物語は、「くず哲」こと、西岡哲郎の人生が描かれます。
 スリを働いたり、女宿の使い走りをしたり、兵役でも風紀違反で持て余される。父親には捨てられ、母親が目の前で自殺したことで、屈折した思いを抱いています。四月一日亭の娘の桐子に執着しますが、彼女は大阪に旅立ってしまう。
 桐子は、ともに育った従兄の雄策が好きなのですが、素直にはなれない。幼なじみのセリの純粋さに憧れてもいます。
 セリの想いを描いた「アイスクリーム」が好きです。雄策が誤解しているあたりがまた何とも言えません。
 関東大震災で、四月一日亭はかなりの打撃を受けます。
 そこから立ち上がっていく姿が、イメージできるエンディングですが、そこに西岡はいないのです。
 欲をいえば、初年兵の彼があやめを探しあてる部分も読みたかったような気がしますが、これはこれでおもしろく読みました。

 ところで、帰ってから歯医者に行ったら、新しい漫画が増えていて、つい読み始めたのが「大川端探偵事務所」です。五巻まで一気に読めました。
 なんと、隅田川の水上バスで見えるところに事務所があるんですね!
 アサヒビールのオブジェや、川ぞいのビルなども見たばかりだったので馴染みがありました。
 化学調味料どっぷりの中華とか、体育館の天井裏に住む先輩とか、バントの名人の話が印象に残っています。

「私を知らないで」白河三兎

2015-01-13 05:32:51 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 読んでみたかった一冊。文庫カバーの中島梨絵さんのイラストが実にいいんです。
 白河三兎「私を知らないで」(集英社文庫)。
 中学二年生の夏、転校してきた「僕」(黒田慎平)は、クラス一の美少女新藤ひかりが「キヨコ」と呼ばれて全体から浮いていることを知ります。
 彼女の両親は失踪。おばあさんと二人暮らしで、家には洗濯機も電話もない。お弁当は必ずおにぎりが二個(このことから山下清をイメージして「キヨコ」と呼ばれるのだそう)と「暗黒茶」と呼ばれる真っ黒いお茶です。
 しかし、貧乏なはずのキヨコは、ブランドもののバッグやコートで外出するのです。
 冬に転校してきた高野三四郎が、キヨコの外出を尾行しようと言い出します。
 その日から彼女と親しくなった黒田でしたが、キヨコは高野と付き合うことに。

 わたしはこの話と「ひだまりの詩」が重なります。
 黒田はなぜか片親家庭に育った人と親しくなる傾向があり、彼らのタフなところに魅力を感じると語ります。独特の陰りがあるのだそうです。
 キヨコは両親がいないし、高野の家では再婚(継母が中国人)。
 黒田の趣味が「親孝行」というのも、後半で理由がわかります。様々な伏線が絡み合い、非常にスリリング。
 キヨコが秘密にしていることは、まあ、中盤あたりには察しがつくんですけど、でも、彼女を救おうとする黒田と高野の懸命さが胸を打ちます。
 序章と終章があることが、この作品をさらに深めているように思います。「タイムトラベル」もキーワードのひとつですが、もう、中学時代には戻れないということですね。
 黒田自身が気づかずにいたこと、周囲は間違いなくわかっていたこと、それはキヨコへの想いですね。
 中学生としての純真さ。学校や地域の閉塞感。そんなものも感じました。坊主のあたりがすごくおもしろかった。
 黒田父がかっこいいですよー。

「張り込み姫」垣根涼介

2015-01-12 18:51:32 | 文芸・エンターテイメント
 「君たちに明日はない」の三冊目「張り込み姫」(新潮社)です。真潮社という出版社も登場します(笑)。
 でも、初めの方はなんとなくルーティンな感じがして読みづらかったのです。英会話教師、能力は高いのにやる気を感じさせない旅行社の社員、ディーラーのメカニック、写真週刊誌の記者が今回のお仕事です。
 三話「みんなの力」あたりからおもしろくなってきました。
 車にこだわりをもつ人々が絶大な信頼を寄せるメカニック宅間の物語です。
 彼の勤める店が閉鎖されることになり、村上も面接官として登場します。でも、今回は友人山下がなんとか宅間の仕事を、彼の望む通りに続けさせたいと尽力する話だと思いました。
 昔からの職人気質で、会社の求めるような効率化はできない宅間。彼の技術こそ自分たちの車になくてはならないと思う顧客たち。
 会話に「カキさん」なる作家まで出てきますよ。わたし、垣根涼介初読みなので他の傾向はわからないんですが、このシリーズだけでも相当車やらバイクにこだわりのある人だろうと推察できます。実際に同じような立場のメカニックさんと懇意なのかな? と思ってしまいますよね。
 「張り込み姫」、スピーディーな展開でおもしろかった。センセーショナルな写真週刊誌記者は、真潮社の他部署に移っても馴染めないまま辞めてしまうことが多い。新卒からこの編集部でやってきた恵はどのような選択をすべきか。
 はじめは仕事に反対したお父さんが、「どんな仕事でも、真面目に取り組んでさえいれば、やがては自分だけの何かが見えてくるものだ」といった場面が、心に残ります。

 で、四冊目「勝ち逃げの女王」。
借りに行った図書館にはここまでしかなかったのですよね。で、もう一軒行って探したのですが、そこも同じ。でも、以前書店で見かけたのは「永遠のディーバ」という本だったので、ここから先どうなるのかと思ったのです。
 いや、単に文庫化してタイトル変えたそうで。この巻で終わりです。
 キャビンアテンダント、証券会社、音楽業界、ファミリーレストラン。
 最終巻といっても、特にエンディングを迎えわけでもなく。淡々と物語は進行。
 「永遠のディーバ」がやっぱり良かった。ハヤマのロッコンで準優勝したものの、バンドを続けることなくハヤマに入社した正樹。
 圧倒的な才能の前に打ちひしがれてプロになるのをあきらめたのです。
 が、少子化のあおりを受けて部署は縮小。リストラの対象になってしまう。
 村上は、自分もプロのライダーを目指していたことを語ります。
 また、正樹自身が知人から、サッカー選手の才能を思い知らされた話を聞き、続けていく人たちのことも考える。
 正樹たちの年に優勝したのはR&Bを歌った龍造寺みすづという女性でした。その後、デビューしたものの、事務所の戦略は彼女の望むものではなく……。
 時が経ち、音楽はテクニックではないと感じるようになった正樹が見つけた新しい仕事は……。
 再び夢を見ることを始めた姿が清々しいです。

 ところで、これで終わりとなると、ちょこちょこ伏線みたいに出てきた陽子と高橋の関わりとか、アシスタントの美代子の恋愛関連とか、そういうのは特に重要ではないんですね。
 そのあたりがちょっと腑に落ちない気持ちです。

「天国からの道」星新一

2015-01-11 20:17:39 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 息子に星新一を勧めようと思って、東京に持っていく荷物に一冊入れました。
 待ち時間のあるディズニーランドで読もうと、一時間半待ちの「プーさんのハニーハント」で読み始めたのですが……。
 愕然としました。正直にいえば、これから読ませても星作品を愛読はできないのではないかと思ったからです。
 わたしが星新一を読んだのは中学生のころ。「未来いそっぷ」が最初だと思います。寓話をアレンジしていて、ちょっと毒があるのに思想はまっすぐなところがおもしろくて、「悪魔のいる天国」とか「午後の恐竜」とか読みました。
 「進化した猿たち」も良かった。星さんのおもしろがり方のような感じが好きで、学校図書館にもショートショートセレクションは入れるようにしてきました。
 朝読書で星さんの本を勧められた男子生徒が、「おもしろい」と言っていたのも印象的でした。(あんまり勉強好きな子ではなかったのですが、作品に魅力を感じたのがよくわかりました)
 ところが。
 「天国からの道」(新潮文庫)は、星さんの切れ味がなんだか物足りないのです……。冒頭作品がショートショートではないから? 天国に迎える魂をめぐって天使たちが競争する話なんですが、次々エスカレートしていく様子にうんざりしてきてしまうというか……。
 あれ? なんだか、わたしが星さんに求めているものとは違う……。
 ショートショートになればまた印象が変わるかもしれないと思ったのですが、どうもスカッとしないまま次を読んでしまうのです。
 ディテールはおもしろい。ただ、全体的にクローズアップされているものがわたしの好みではないのでしょう。
 同人誌に発表されたというデビュー前の作品「狐のためいき」まで読んで、いったん本をしまいました。自分の経歴からは大学院まで学んだことは削っているというあたりがなんだか、よくつかめないんですが、これはジェンダー的にどうなの? と思わされてしまって。

 ディズニーランド、そのあとは「スターツアーズ」に初めて入ったのですが、視覚的仕掛けが効いていて素晴らしいです。もうちょっと長かったら酔いそうなので手頃でしたね。
 あとは「モンスターズインク」のと、「カリブの海賊」「ジャングルクルーズ」「マークトゥエイン号」、「ダンボ」「」回転木馬とコーヒーカップにも乗りました。
 星さんの本を読んだからか、「未来のテクノロジー」の印象を強く感じます。
 作品世界で珍しく年代が書いてあるものがあり(2060年です)、テレビ電話、惑星の所有、物質分解薬、メーキャップ技術の高度化などが描かれていました。
 わたしが中学生の頃にSFがイメージしていた未来は、二十一世紀を迎えて実現したものもあり、そうでないものもあります。道路のかわりに透明なチューブの中を行き来したりはしないし、服装もメタリックじゃないですもんね(笑)
 ただ、こういうイマジネーションは天才的ですよね。後半、単行本未収録作品「おでん」が非常におもしろかったのですが、食事は蛇口から液体が出てくる世界。料理研究をテーマにしている博士から留守中にロボットを預かります。でも、決して命令をしてはいけない。どういうこと?
 鮮やかなオチでした。
 「ジャングルクルーズ」、リニューアルしたのですが、先住民への偏見が影を落としているように思いました。
 同じように、星作品も、中心になるのは常に男性のような気になってしまう。
 他の作品も、読み直してみます。

「TRUST!」井上正治

2015-01-10 19:52:23 | コミック
 えっ! 三巻で終わりなんですか!
 蒼野たち筑摩大学が箱根を走るのを楽しみにしていたのに! 予選会で終わりなんて……。これからじゃないですかー。残念です。
 井上正治「TRUST!」(双葉社)。書店でたまたま一巻を買って、続きを楽しみにしていたまんがです。
 名門校の監督である父親とエースの兄。自分も一緒に駅伝を走りたいと願った蒼野颯は、中学生の大会で全国的に活躍する黒崎という選手に競い勝ちます。春からは自分のチームに来るように父親に言われ、意欲を高めた蒼野でしたが、突然の事故で父親は亡くなり、兄は選手生命を奪われました。
 高校では長距離を続けられなかったものの、周囲の応援で筑摩大学に入学。しかし、駅伝部にはやる気のない選手ばかり。
 そんななか、合宿を行うことになりますが……。
 ひたむきな蒼野と、彼を支える仲間たちがとてもいいのです。
 もっと、読みたかったなあ。今年は青山学院が優勝して、箱根も盛り上がったのですけどね。でも、こういうまんがと出会えて良かったと思います。

 この本は東京で買いました。西武デパートの書籍館。
 娘の希望でアニメイト、それから築地でお寿司を食べて、台場の科学未来館、大江戸温泉物語のコースでした。
 西武では、似鳥鶏さんの影響でフロマージュを買っちゃいましたよ。