くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「四月一日亭ものがたり」加藤元

2015-01-13 20:13:29 | 文芸・エンターテイメント
 東京では台場に泊まっていました。ディズニーランドまで乗り換え一回で行けます。
 娘が水族館に行きたいというので、葛西臨海公園へ。開場前に着いてしまい、散策していると水上バスの船着場がありました。残念ながら夕方の発着。
 水族園は思ったより広くて、ペンギンが回遊する姿がチャーミングでした。
 お昼は浅草。そして、そこから水上バスが出ていたので、乗ってみました。水位が高いということで、もうすぐ運休になるとガイドさん。橋の下をくぐれませんからね。
 あとは東京駅に戻って、お土産を買って帰宅です。
 帰りの新幹線で読んだのが、加藤元「四月一日亭ものがたり」(ポプラ文庫)。「四月一日」は「わたぬき」と読みます。
 大正の末、銀座から裏通りに入ったところにある洋食屋「四月一日亭」が舞台。「チキンカットレット」「アイスクリーム」「ホワイトライス」「オムレット」の四編。わたしは食べ物に関わる話が大好きなので、買ってみました。
 あやめという遊女に恋をした初年兵が、二人でこの洋食屋に行ったその思い出から語られます。初年兵は先輩の西岡からこの店を紹介されたのですが、そういうと店主は驚いたような顔をする。
 この物語は、「くず哲」こと、西岡哲郎の人生が描かれます。
 スリを働いたり、女宿の使い走りをしたり、兵役でも風紀違反で持て余される。父親には捨てられ、母親が目の前で自殺したことで、屈折した思いを抱いています。四月一日亭の娘の桐子に執着しますが、彼女は大阪に旅立ってしまう。
 桐子は、ともに育った従兄の雄策が好きなのですが、素直にはなれない。幼なじみのセリの純粋さに憧れてもいます。
 セリの想いを描いた「アイスクリーム」が好きです。雄策が誤解しているあたりがまた何とも言えません。
 関東大震災で、四月一日亭はかなりの打撃を受けます。
 そこから立ち上がっていく姿が、イメージできるエンディングですが、そこに西岡はいないのです。
 欲をいえば、初年兵の彼があやめを探しあてる部分も読みたかったような気がしますが、これはこれでおもしろく読みました。

 ところで、帰ってから歯医者に行ったら、新しい漫画が増えていて、つい読み始めたのが「大川端探偵事務所」です。五巻まで一気に読めました。
 なんと、隅田川の水上バスで見えるところに事務所があるんですね!
 アサヒビールのオブジェや、川ぞいのビルなども見たばかりだったので馴染みがありました。
 化学調味料どっぷりの中華とか、体育館の天井裏に住む先輩とか、バントの名人の話が印象に残っています。

「私を知らないで」白河三兎

2015-01-13 05:32:51 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 読んでみたかった一冊。文庫カバーの中島梨絵さんのイラストが実にいいんです。
 白河三兎「私を知らないで」(集英社文庫)。
 中学二年生の夏、転校してきた「僕」(黒田慎平)は、クラス一の美少女新藤ひかりが「キヨコ」と呼ばれて全体から浮いていることを知ります。
 彼女の両親は失踪。おばあさんと二人暮らしで、家には洗濯機も電話もない。お弁当は必ずおにぎりが二個(このことから山下清をイメージして「キヨコ」と呼ばれるのだそう)と「暗黒茶」と呼ばれる真っ黒いお茶です。
 しかし、貧乏なはずのキヨコは、ブランドもののバッグやコートで外出するのです。
 冬に転校してきた高野三四郎が、キヨコの外出を尾行しようと言い出します。
 その日から彼女と親しくなった黒田でしたが、キヨコは高野と付き合うことに。

 わたしはこの話と「ひだまりの詩」が重なります。
 黒田はなぜか片親家庭に育った人と親しくなる傾向があり、彼らのタフなところに魅力を感じると語ります。独特の陰りがあるのだそうです。
 キヨコは両親がいないし、高野の家では再婚(継母が中国人)。
 黒田の趣味が「親孝行」というのも、後半で理由がわかります。様々な伏線が絡み合い、非常にスリリング。
 キヨコが秘密にしていることは、まあ、中盤あたりには察しがつくんですけど、でも、彼女を救おうとする黒田と高野の懸命さが胸を打ちます。
 序章と終章があることが、この作品をさらに深めているように思います。「タイムトラベル」もキーワードのひとつですが、もう、中学時代には戻れないということですね。
 黒田自身が気づかずにいたこと、周囲は間違いなくわかっていたこと、それはキヨコへの想いですね。
 中学生としての純真さ。学校や地域の閉塞感。そんなものも感じました。坊主のあたりがすごくおもしろかった。
 黒田父がかっこいいですよー。