くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「あん」ドリアン助川

2015-01-16 04:44:20 | 文芸・エンターテイメント
 昨年の読書感想画コンクール課題図書、でした。
 でも、購入して即美術科に回したため、読んでいません。
 ところが、感想文コンクールの審査会に行ったら、この作品の主要モチーフがハンセン病と判明。読んでみることにしました。
 ドリアン助川「あん」(ポプラ社)。
 「どら春」というどら焼き屋をしている千太郎。ドラッグの不法所持で前科があります。
 あるとき、アルバイトをさせてほしいと現れた徳江というおばあさん。彼女の作るあんこが非常においしく、どら焼きの売り上げが見る間に上がります。
 徳江の指が少し曲がっていることが気になりはしましたが、そこは深く追及しないことに。
 しかし、徳江がハンセン病の元患者ではないかという噂が客の間に流れ、売り上げは激減。家主からも徳江を辞めさせるようにと迫られます。
 
 物語が集結しても、千太郎は無職だし、何か明るい話題があるわけではないんです。
 でも、これまで療養所の比較的近くにいながら、ハンセン病にまるで関心がなかった千太郎が、彼らの境遇を知って憤る、その姿が読者の心を打つのではないでしょうか。
 柊の垣根で覆われた療養所。モデルは、多摩全生園ですね。
 そこで菓子づくりをしていた徳江。その技術であんこを煮ていくれたのです。豆の声を聞く、というその想いが伝わってきます。
 本名を奪われ、家族と別れ、母が縫ってくれたブラウスも捨てられ。
 結婚した夫の断種。ハンセン病の名誉が回復したはずなのに、それを認めない世の中。
 知らないまま生きている人も少なくはないように思います。
 
 昨年、わたしがハンセン病を知るきっかけとなった谺雄二さんが亡くなられました。
 病気で外見に影響があっても、死に至る病ではない。特効薬が開発されて、現在では完全に治る病気である。
 しかし、世間では正しい知識が流通しているとは言えません。
 谺さんたちが戦ってきたことを、少しずつでも生徒たちに伝えたいと思い、道徳で紹介するようにはしています。
 ハンセン病を「過去の病」として目を向けないわけにはいきません。いわれない「差別」の現実を、未来に引き継いでいくことは大切だと思います。
 知らなかったあなたへ、手渡したい一冊です。