地元の旧家に保存されていた古い教科書の中に、大正時代の兵庫県立農学校で実際に使われた教科書『改訂新撰實業讀本巻三』(文学博士佐々政一編、明治書院、大正6年発行)がありました。教科書の余白、行間には、教科書の持ち主のご先祖の書き込みがありました。熱心に勉強しておられたことが伝わってきます。
県立農学校は、現在の兵庫県立農業高校の前身で、明治30年に創立され、明治34年には県立農学校と改称しています。
さて、讀本ですから、どんな読み物が取り上げられているかと目次を見てみると、明治天皇御製、如何にして国家を愛すべきか、南洲遺訓、武士道と實業、服従と独立、乃木兄弟の水盃、黄色人種の自覚といった、国家を担って立つ職業人の自覚に関するものが多く、また、歴史、文化の教養を高める読み物も多く取り上げられていました。
「黄色人種の自覚」では、明治三十七八年戦役(※日露戦争のこと)が世界に及ぼした影響として、白人種を優等人種とし、黄色人種を劣等人種とする世界の常識を変え、人種の平等をもたらす傾向が出てきたことを述べています。国際連盟において、人種平等を訴えたのも日本でした。
西郷南洲の「敬天愛人」の遺訓を引いて、「事大小となく正道を踏み、至誠を推し、一事の詐謀を用ふべからず」と説いています。こうした先人の遺訓を讀本を通じて学び、精神と行動を確立していったんですねえ。県農は郷土の先覚者と仰がれる指導者を多く輩出しています。行間の書き込みから、当時の校風が偲ばれます。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます