メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

レ・ミゼラブル

2014-01-12 09:30:21 | 映画

レ・ミゼラブル (Les Miserables、2012英、158分)

監督:トム・フーバー、原作:ヴィクトル・ユーゴー

作曲:クロード・ミシェル・シェーンベルク

ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アン・ハサウェイ、アマンダ・セイフライド、エディ・レッドメイン、ヘレナ・ボナム=カーター、サシャ・バロン・コーエン、サマンサ・バークス

 

大ヒットしたミュージカルを映画化したもので、この映画自体も評判となり、いくつかの賞もとった。

ミュージカルを実際に見れば、感銘を受けたと思われる。ただ、映画にしてしまうと、いろんなところがリアルに見えない、というかもっとうまくだましてほしいのだが、2時間半ちかく使っても、話が飛びすぎるなど、とまどうところが多かった。

 

とはいえ、歌唱自体は優れたもので、ヒュー・ジャックマンもラッセル・クロウも初めて聴く歌だが、演技にマッチしたものだった。もっともジャックマンの風貌は、歳とった場面でもスマートすぎる。

 

ラッセル・クロウのジャベールはぴったり。アン・ハサウェイ、いいけれど多くの賞でノミネートされるほどの出番量ではないようだが。

コゼットのアマンダ・セイフライドは、歌もそれなりにうまいということもあってか「マンマ・ミーア」の娘役に抜擢され、その後多くに起用されているけれど、どうもあの風貌が苦手である。マンマ・ミーアでもこの作品でも、もっと可憐なタイプの方がよかったのではないか。

 

そこにいくと、コゼットにマリウスを取られる割の悪いエポニーヌを演じるサマンサ・バークスの歌唱が目立つ。

また、ずるがしこい女役ヘレナ・ボナム=カーター、おさまりがいい。

 

ここで思い出すのがTV放送用に作られた5時間近くのドラマ(2000年)で、あれはなにしろジャンバルジャンがジェラール・ドパルデュー、ジャベールがジョン・マルコヴィッチ、フォンテーヌ(コゼットの母、映画ではアン・ハサウェイ)がシャルロット・ゲンズブール、修道院長がジャンヌ・モロー。フランスで名作をTVドラマにするときはよくこういう豪華な配役にすることがあるけれど、それにしてももう一度NHKでやってくれないかと思う。このストーリーにはそのくらいの密度が必要である。

 


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バレエに生きる~パリ・オペラ座のふたり~

2014-01-11 10:24:59 | 映画

バレエに生きる~パリ・オペラ座のふたり~

( Une Vie De Ballets、2011年仏、99分)

監督:マレーネ・イヨネスコ

ピエール・ラコット、ギレーヌ・テスマー

バレエの振付師ピエール・ラコットとオペラ座のエトワール ギレーヌ・テスマー夫婦の半生を描いたドキュメンタリー映画である。この世界にうとい私にとってははじめて目にする名前である。

数十年の間にかかわった多くの著名ダンサー、代表的な公演の映像が多く、参考になる。

 

ラコットはロマンティック・バレエの古典で、当時途絶えていた振付を復元し多くの成功をおさめたようだ。その中でギレーヌのダンスは、これまでに見た他のダンサーより優雅で、それでいてスピード感を欠いていない。その姿のせいもあるだろう。

 

またちょうど一時代を極めたと想像するヌレエフが何度も出てくるが、これはやはり別格かなと私でも思う。

 

2000年代のものには、来日したときのBunkamura公演の映像もある。

 

ところで今回気がついたことは。デジタル放送の録画で見ていて、ときどき必要があって一時停止をするのだが、その時のショットがまるで飛びきりのワン・ショットのようだ、ということである。それも絵葉書で売ってもいいくらい。

 

ああそういうことなのか、と今ごろになってようやく理解した。ダンス特に高度なバレエというのはどの瞬間で切り取っても最高のかたちになっている、それが時間とともに推移していくということなのだろう。

そのためにあの基礎的なポーズなどのトレーニングが毎日繰り返されるのか、と考える。


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ワーグナー「神々のたそがれ」(ミラノ・スカラ座)

2014-01-05 22:27:35 | 音楽一般

ワーグナー:楽劇「神々のたそがれ」

指揮:ダニエル・バレンボイム、演出:ギー・カシアス

ランス・ライアン(ジークフリート)、イレーネ・テオリン(ブリュンヒルデ)、ゲルト・グロホウスキ(グンター)、ミハイル・ペトレンコ(ハーゲン)、ヨハネス・マルティン・クレンツレ(アルベリヒ)、アンナ・サムイル(グートルーネ/第三のノルン)、ヴァルトラウト・マイア(ワルトラウテ/第二のノルン)、マルガリーテ・ネクラソワ(第一のノルン)

2013年6月 ミラノ・スカラ座     2013年12月 NHK  BS Pre

 

2010年に始まったスカラの「指輪」もいよいよ最後になった。メトロポリタンの少し後に重なって続いたが、これは生誕200年ならばこそのぜいたくだろう。

 

メトロポリタンはジェームズ・レヴァインが体を悪くし、後半の二つはファビオ・ルイージになったが、スカラはバレンボイムで通すことができた。

 

演出はこれまでと同じギー・カシアス、これまでは比較的間口の小さな装置で、現代風に、登場人物およびその相互関係を細かく見せていたような記憶があるが、今回は舞台を広く使い、あまり策を弄さない。その代り照明というか、裏側からのプロジェクションなのだろうか、光が効果的だ。

隠れ兜(頭巾)を数人のダンサーの動きで表現したのはこれまでと同じで、面白いやり方である。

 

ジークフリートは前作と同じだがブリュンヒルデはニナ・シュテンメからイレーネ・テオリンにかわっている。後者の方が歌唱はしっくりとくる感じがある。ただジークフリートを比べてあの体躯が立派すぎるが。

 

ジークフリートのライアンは歌唱は良いが、前半は表情が硬く、また姿勢、態度がからみてこれはハーゲンにやられるなということが視覚的にも見えてしまっていた。終幕はそうでもなかったけれど。

 

それにしても、前にも書いたと思うが、この作品はあまり好きでない。前の三作からするとこれはいわば人間界に来てしまった物語で、これまでの神々のいろんな由来と距離ができてしまっているのに、生臭い醜いドラマであるからだ。ジークフリートがこれまでの話を壊してしまうのも媚薬を飲まされたせいで、それは「トリスタンとイゾルデ」の媚薬とは違い、安易な仕掛けにも思える。

 

そのなかで救われるのは、前半と後半に出てくるヴァルトラウテやラインの乙女たちで、彼女たちが語る神々の話が、直前に三作を見たわけでないこちらに示唆を与えてくれるし、この物語にうまい味付けになっている。

特にヴァルトラウト・マイアはメトロポリタンでもこの役をやっており、長くワーグナーをやっているだけのことはある。素敵な歌手だ。

 

演出の細かいところでちょっと疑問なのは、殺されたジークフリートからハーゲンが指輪を取ろうとしたときにジークフリートの手が動きそれを阻止するしぐさ、これに故人の意志(遺志?)を感じさせる強さがない。それから指輪を持って火につつまれたラインに入っていったブリュンヒルデを追っていったハーゲンが、ただ入っていったように見え、「指輪に近づくな」という悲鳴が聞こえなかったような気がする。

 

ここで文句なしなのは、やはりバレンボイムの指揮とスカラのオーケストラで、迫力ある音質と流麗な表現力、いずれも素晴らしい。ワーグナー特に「指輪」では、メトロポリタン(特にレヴァインが指揮したときの)と双璧ではないだろうか。 

 

ところで、終わってのカーテンコール、歌手たちとダンサーが二回くらい出て、後ろの幕が上がると、そこにはバレンボイムを真ん中にオーケストラの奏者たちが楽器を持って並んでいた。団員をたたえてということだろうが、これはめずらしい。 

 

そういえば元旦のウィーンフィル・ニューイヤーコンサート、今年はバレンモイムの指揮で、最後は恒例の「ラデツキー行進曲」、このときバレンボイムは全く指揮をせずにオーケストラの中をひとりひとり握手してまわっていた。指揮をしなくてもこの曲は演奏できるということはわかっていても、こういう演出はにくい。

 

「指輪」の最後から続いているのだろうか。


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紅白歌合戦におけるパブリック・ドメイン

2014-01-03 09:34:49 | 雑・一般

年末のNHK紅白歌合戦、今年はもうあまり「合戦」の雰囲気がなく、製作側がやりたいようにやっていて、それなりに楽しめるものになっていた。

 

さて、今回は歌そのもののほか、応援やにぎやかしで登場したものも含めて、昨今の著作権事情の典型的な事例を見ることができた。つまり、この権利にぴりぴりしているネットワーク全盛時代において、むしろ権利をオープンにし、パブリック・ドメインを広げていくことによって、よりエンターテイメントの世界を広げていく、面白くしていく、ということである。

 

まずは公認ゆるキャラの「くまモン」、これの利用は申請があれば無料である。

 

芸人の「鉄拳」、この人のパラパラ漫画「振り子」はたいへん評判になったが、バックの音楽は彼がMUSE(英)の曲を無断で使用。ところが「振り子」のYou Tubeアップを見た当のMUSEが感激してこれを許可したどころか、自身の新アルバムのPVでの使用を鉄拳に依頼した。

紅白では、ちょっと出て時間切れでニュースになってしまい残念だったが。

 

そして「AKB48」の「恋するフォーチュンクッキー」、多くの団体、企業がそのふりをまねたパーフォーマンス映像を勝手にアップし、連帯感やイメージのアップを狙っている。AKBはこれを放任しており、さらに公式サイトで紹介までしている。

 

これにクリエイティブ・コモンズ の使用を宣言している「初音ミク」が入ると、さらにいい事例陳列になるのだが。もうそろそろボーカロイドが紅白に入ってくる時代のはず。

なおNHKは初音ミクをずいぶん取り上げてはいる。

 

パブリック・ドメインとはちがうけれども、デジタルアーカイブの観点で目新しいのはPerfumeの場面で使われたプロジェクション・マッピング。改装なった東京駅のイルミネーションなどで話題になっているこの技術は静止している凹凸がある建物などに効果を発揮している。一方Perfumeに使われているものは、彼女たち3人の動きをセンシングして、それに対応するプログラム・マッピングになっている。おそらく世界最先端のはず。

 

これ、見方を変えると、動体のモーション・キャプチャー、つまり無形文化財の記録に将来使えると考えられる。身体のいくつかのポイントにセンサーをつけてモーションを記録することは、すでに格闘技を題材にしたゲーム映像製作などで盛んで、むしろそれで文化財記録がある程度できるところにまで来ていることを考えると、エンターテイメント領域の技術開発は、今後も注目の価値がありそうだ。

 

 


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