メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

洲之内徹と現代画廊 展

2013-11-28 22:29:12 | 美術

洲之内徹と現代画廊 昭和を生きた目と精神

2013年11月2日(土)-12月23日(月)  宮城県美術館

 

洲之内徹(1913-1987)が藝術新潮に連載した「気まぐれ美術館」の一部が新潮文庫で出た1996年にこの人のことを初めて知り、その後文庫で出た2冊を合わせて、ずいぶん多くの日本の画家を知った。ほとんど洋画で、たとえば松本竣介、佐藤哲三。

 

画廊主として、惚れ込んだ絵や画家に入れ込むといってもよい関心、付き合いがあったことは、その著作からもわかる。最後まで所有していたコレクション、それがここ宮城県美術館にまとめて収蔵され、その一部は常設展として、あるいは極めて小規模な企画展として公開されていたが、今回のようにそのほぼ全体と、洲之内と縁が深い絵を全国から集め、一堂に見せるというのは初めてだろう。洲之内の生誕100年ということだそうだ。

これからまた見られるかどうかわからないから、仙台まで日帰りで見に行ってきた。

 

洲之内にとって、絵はあくまで絵であるわけだから、ここにある絵について説明はなくてもとにかく見れば、その絵の持つものは何か感じられてくる、まさにそういう絵がほとんどで、しかもこれまで著作の中に写真が出ていたもの、画家の名前を知って出かけたいくつもの回顧展などで見たものもかなりあって、長時間それらの世界に浸ることができた。

 

これらの中には、ずいぶん有名で、おそらくいろんな展覧会に貸し出されるものもかなりある。たとえば長谷川潾二郎「猫」、海老原喜之助「ポアソニエール」、松本竣介「ニコライ堂」「婦人像」、中村彜「自画像」、萬鐵五郎「自画像」、靉光「鳥」、村山槐多「自画像」、野田英夫「メリーゴーラウンド」、林武「星女嬢」など。先日回顧展を見に行った松田正平も洲之内との付き合いなしには語れない。

 

吉岡憲、小野幸吉などの絵は、あまり見る機会がないから、今回じっくりと楽しんだ。 

 

直に初めて見たもので一つだけ挙げれば、重松鶴之助(1903-1938)の「閑々亭肖像」。左翼運動で検挙され獄中で謎の死を遂げた人の絵にしては、それは勝手な言い方だが、描く人物としてはなんとも不思議な下駄屋の主人(だそうだ)、洲之内の著作で小さな写真を見てそのどこが、と思っていた。だが、実物をじっくり見て、なるほど、このちょっと気持ちの悪い現実感はなんだろう。忘れられないものとなった。

 

なお、以前やはりこの美術館で小規模な展示を見た時は、常設展の一部という扱いだったのだろうか、ミュージアムショップにも薄い小冊子しかなく、コレクションの全貌を収めたものがほしかった。今回は期待どおり、とても親切で丁寧な図録が作られており、いつでも自宅で参照できる状態になった。図録の常として、こんなに立派なものでも2,200円、いずれレアになるだろう。

 

それにしても「気まぐれ美術館」シリーズ3冊が新潮文庫で長く絶版であり、4冊目も出ていない。どうしてか。

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