「麻生三郎展」(2010年11月9日-12月19日,東京国立近代美術館)
麻生三郎(1913-2000)の作品はいろいろな機会に見ているけれど、こうしてまとめてみるのは初めてである。
かなりなじみになっている初期の自画像、家族の絵、この赤が多く使われた絵の一群、まぎれもなく近代の洋画だが、独りよがりなところがなく、この人はいつも自分の内面と外界とのつながりを掴み取っていて、それが絵を描くことによるものだとすれば、幸せなことである。
そういうところは見る者にもつたわってきて、この人の絵は長く見ていられる。
でも、だから凡庸ということはない。題材、テーマ設定は特に後期は抽象的だが、「仰向けの人」、「死者」といったところから始まる一連の作品は、この人の静かな訴えを発している。
これまでも靉光、松本竣介の絵が並んでいると、近くに必ず麻生三郎の絵があって、なぜかいいバランスになっていたものだ。
あと、その時その時で小さい特集を企画しながら続けられている所蔵作品展では今回、奇跡的に残っていて発見され、そして幸いにも困難な修復を終えた長谷川利行「カフェ・パウリスタ」を見ることが出来た(これも12月19日まで)。 この絵、まぎれもない天才の作である。