メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

プッチーニ「修道女アンジェリカ」

2022-12-29 17:04:33 | 音楽一般
プッチーニ:歌劇「修道女アンジェリカ」
アスミク・グリゴリアン(アンジェリカ)、カリタ・マッティラ(公爵夫人)、ハンナ・シュヴァルツ(修道院長)
 
さて三番目、最後は「修道女アンジェリカ」である。
アンジェリカは修道女のなかではかなりいいところから来た、薬草にくわしい人と思われているが、信心深く院長の信頼もある。
 
そこに彼女の叔母である公爵夫人があらわれる。アンジェリカは7年待ったという。アンジェリカの両親は20年ほど前に亡くなり、その遺産は公爵夫人の管理となっていた。アンジェリカには妹がいてこの度嫁ぐことになり、そのために遺産相続の権利を放棄してほしいというが、アンジェリカは拒否する。実は彼女には結婚に至らずに生んだ男の子がおり、7年前に引き離されているのだが、その子はどうなったかと問い詰めると、亡くなったという。
 
その瞬間、アンジェリカは髪をふりほどき、僧衣を脱いで狂乱のまま薬草を飲んで自殺しようとするが、自殺は神にそむくことと悩んでいると、わが子(幻影)が現れ、喜びと苦痛の混じった恍惚の中でアンジェリカは息絶える。
 
この作品だけは修道院のなからしいものと予想していたが、終盤にきて、これはわが子に対する罪の意識、叔母に代表される世間との闘い、その中でいかに生きるか、というドラマの場所が修道院ということだろう。
 
そこは世間の中で生きていく女性をプッチーニがいかに描いたかである。
容易に想像できるのは、叔母がアンジェリカに妹が結婚するからと諭すのは「椿姫」(ヴェルディ)のアルフレードの父親を連想させるし、最後の男の子(ぼうや)を抱いて死に至るまでの激しく美しい歌唱はまさにプッチーニ自身の傑作「蝶々夫人」である。
 
今回この順番で本作が最後になったのは、女の一生のいくつかの側面を年齢とともに並べるとこうなるのかと思われるが、「外套」とはどちらが年上かは微妙なところ。

三作を続けて上演するのが原則だが、各ヒロインは別の人が演じるところ、今回アスミク・グリゴリアンが通して演じたのはたしかにたいへんなことだろう。体力的にもそうだが、役柄がまるで違うわけだから、想像を絶するというか想像してしまうところも醍醐味かもしれない。

とにかくたいへんな人である、歌唱力、演技力、そして魅力を感じてしまう人間力というか。リトアニアの出身らしいが、このところバルト地方からは優れた才能が続々と出てくる。
 
修道院長のハンナ・シュヴァルツ、バイロイトによく名前が出ていたが、今年79歳、こういうところに居るのはいい。

 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする