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メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

本郷和人 「日本史のツボ」

2018-05-01 20:44:59 | 本と雑誌
日本史のツボ
本郷和人 著 2018年1月 文春新書
日本史全体を概観するにあたり、天皇、宗教、土地、軍事、地域、女性、経済の七つの視点をツボとして著したものである。著者は東京大学史料編纂所教授で、私が毎週見ているNHKBS「英雄たちの選択」にはよく出てきている。この番組は進行役が磯田道史で、近年発見された資料を読み込み、これまでの史観にとらわれない議論が進められるが、著者もその役割を担うことが多いと思う。
 
本書では、上記七つについて、現代のものと比べてどうだったのかということを外していないから、これらの観点から時代の移り変わりも納得いく形で読み取ることができる。
特に土地、地域、経済と見ていくと、古代から近代まで、交通、情報がなかなか進歩しない中で、これらがどうだったのか、その状態からして権力の支配、軍事など、必ずしもこれまで受け取られていたようなものではないことがわかる。
女性についても、エマニエル・トッドの家族論も下敷きにしているから、これまでの固定観念とは違うことも理解される。それは渡辺京二「逝きし世の面影」とも符合する。
 
そして支配者として、土地、軍事、経済などの観点で、特出しているのは源頼朝、織田信長だったようだ。また、外国との交易、貨幣が何時から本格的に出回ったのか、それらが日本国内の支配地域の大きさ、支配の程度を決めているようだ。
 
本書は新書で、このタイトル、しかしまともな本である。私が大人になるまでの日本史の教科書、参考書などは、戦後の時代を反映し、主として支配者と被支配者関係の変遷であり、イデオロギッシュなものであった。途中で辟易としてきたが、無理してでも通観するためにはそういう方法も必要とされたのだろう。もう今後は、それぞれの時代のいくつかの面でどうだったのか、新しい資料をもとに冷静に多面的に見ていくべきである。