メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

チャイコフスキー「イオランタ」/バルトーク「青ひげ公の城」(メトロポリタン)

2016-08-05 08:52:29 | 音楽一般
チャイコフスキー:歌劇「イオランタ」
アンナ・ネトレプコ(イオランタ)、ピョートル・ベチャワ(ヴォデモン)、アレクセイ・マルコフ(ロベルト)、イリヤ・バーニク(レネ王)、イルヒン・アズィソフ(医者)
バルトーク:歌劇「青ひげ公の城」
ナディア・ミカエル(ユディット)、ミハイル・ペトレンコ(青ひげ公)
指揮:ワレリー・ゲルギエフ、演出:マリウシュ・トレリンスキ
2015年2月14日 ニューヨーク・メトロポリタン 2016年7月 WOWOW
  
上演時間が短いことから2演目となっているが、同じ演出者で、テーマ解釈、舞台演出ともに共通、統一感がある。両方とも童話をもとにしている。
青ひげはブーレーズの録音をきいたことがあるけれども、イオランタはその存在もしらなかった。1882年、チャイコフスキー最後のオペラだそうだ。
 
イオランタはとても優れた作品。生まれつき盲目の王女が王によって隔離して育てられ、自分が他人と違うということも知らずに育てられ、王は医者に治癒を願うが、医者は王女が盲目であることを自ら知らなければ治らない、と言われてしまう。そこへ、貴族の若者が二人あらわれ、一人が王女に恋い焦がれ、彼女が盲目であることに一度は絶望するが、それもあって王女は自分のことに気づいてしまう。王は結局それを受け入れ、二人は結ばれる。
 
演出は立方体の枠組みを回転させ、それに照明を加えて効果を出している。これは盲目の主人公に集中させることも含め、成功していると言える。
 
なんといってもネトレプコのイオランタが素晴らしい。王女の清らかさと、常人を寄せつけない強さがあり、母国語ロシア語の歌唱はやはり自然で聴きやすかった。ベチャワはこれまであまり好きになれない派手なテノールだったが、今回は役に合っていたと思う。
チャイコフスキーの音楽は、意外にも世紀末の雰囲気を持っており、ゲルギエフの指揮は期待通り見事なものだった。
 
なおこの話には、最後の最後まで父である王がイオランタを自分の手の中に置いておきたいというところがあるのだが、最後の幕のところでそれをあまりにもわかりやすく演出したのはちょっと安っぽかった。
 
青ひげはプロジェクトマッピングを多用した演出で、それは場面への対応の柔軟性は優れていたが、各部屋の対照が明確にならないところもあった。
 
この作品、今回気がついたのは、各部屋への好奇心からユディットが開けてくれというケースと、青ひげが見ろというところ、両方がある。結局最後は、男の支配欲、それの誇示、それは弱さでもあるのだが、それが女にふりかかる悲劇で終わる。
 
ユディットのナディア・ミカエルは、女の好奇心で突き進んでいくところ、場面によって見せる驚きを弱さ、その演技力と歌唱は、はまり役である。エロティックな衣装と動きも慣れているのだろう。ただ、好みから言えば、もう少し少女というか未熟な女性のイメージで演出ということもありうるのではないか。
また青ひげのエゴを弱さを考えたときに、この最後の見せ方はちょっと弱い感じがした。

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