メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

ディア・ドクター

2009-07-13 21:33:47 | 映画
「ディア・ドクター」(2009年、127分)
原作・脚本・監督:西川美和
笑福亭鶴瓶、瑛太、余貴美子、八千草薫、井川遥、香川照之、松重豊、岩松了、笹野高史、中村勘三郎
 
ゆれる」でその豪腕に感心した西川美和、本格的な作品はそれ以来。
これは「ゆれる」とは違って、起伏はあってもそんなに大きくなることはなく、淡々と進行していく。
  
田舎の診療所でたった一人の医者として村の人たちとうまくやっている男(鶴瓶)、そこに典型的な2代目の研修医(瑛太)が来たところから話は始まる。この医者が一人暮らしの老女(八千草薫)の病気についてどうしたものかと考え、彼女の娘(やはり医者、井川遥)にどう伝えたものか、その過程と、その後の彼の失踪から彼の素性が疑われ追求されていく過程、その二つが交互に平行して描かれていく。多少ははらはらさせるが、それも悲劇にはならない。
 
人間そんなに考えつめなくても、正しさも結論もどうなっても、なんとか生きていけるという、本質的にはコメディになっているのが、一見拍子抜けの最後もあわせて、心地よい。
 
鶴瓶の姿、顔は、最後には慣れたとはいえ、苦手ではあるけれど、適役だろう。結末のシーンを、見るものに一瞬早く推測させてしまう八千草薫の表情には、思わずうなる。
 
西川は、おそらくこの達者な役者たちに、自然な演技が出るまでとことんやらせたのだろう。そういういい仕上がりになっているが、いくつかの場面が長すぎて間延びした感を出してしまってもいる。欠点はそれだけで、冒頭の暗い田園風景の中を自転車の灯がふらふら近づいてくるところから始まって、「ゆれる」より力が抜けているけれどもやはり随所にうまいところがある。いい「絵」を見たという思いにさせる。
 
みんななんとか生きていける、という映画を作るのは並大抵なことではない。

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