6春がきたぞ
しばらくして、白い雪の中にピンク色のものがみえました。むちゅうで雪をはらいのけると、ダチョウのたまごのようなものがでてきました。
「あった、春風のたまごだ」
たくやはコツコツとからをたたきました。
「春風さん、起きて。出てきてよ」
たくやが呼んでもたまごはぴくりとも動きません。
「凍っているんだ。あたためなくちゃ」
たくやは、たまごをごしごしこすりました。
目をさませ、目をさませ、春風。
生まれろよ、生まれろよ、春風。
みんなが、待ってるよ、春風。
母さんも、待っていたんだ春風。
いっしょうけんめいこすっていると、ねむくなってだんだん頭がぼおっとしてきました。たくやは、たまごにおおいかぶさるようにたおれ、眠ってしまいました。
しばらくして目をさますと、とてもあたたかです。そばにバレリーナのいしょうを着た女の子が立っていました。
「わたしは春風のメイ。助けてくれてありがとう」
メイはスカートを広げておじぎをしました。
雪はすっかりとけて、緑やうすべに色のたまごが土の上にころがっています。たまごはわれずにからのすきまにあいた小さい穴からけむりをだして、そのけむりが女の子のすがたになりました。
「春よ、春よ、春ですよ」
春風たちは歌いながら、たくやの体を持ち上げてとび、つくば山をおりていきました。
つむじが追いかけてきて、
「春だぞー、少し遅れたけど、春がきたぞー」
と大声でどなりながら追い越していきました。
その日、町の人たちはびっくりしました。だって、嵐が起こったかと思うと急にあたたかくなって、桜がいっぺんにさいたのですから。
「たくや、ぼくは北の国へいくよ。またこんどの冬にあおうね」
遠くでリムの声がしました。
それからまもなく、たくやのお母さんがすっかりよくなって退院してきました。たくやは、お母さんに抱きついていいました。
「お母さん、すごいでしょう。ぼく、春風のたまごを発見したんだよ」
おわり
12年ぐらい前に書いた作品です。今回教会で子供たちにパネルシアターとしてお話するのに書き直しました。
追記
童話を書き始めたころ、動物国シリーズで短編をいくつか書いた後、風シリーズで風の童話を5つ書きました。
テーマは聖書の2つのみ言葉からきています。
あなたの目は胎児の私を見られ、(詩編139-16)
胎内にいるときからになわれており、生まれる前から運ばれた者よ。あなたがたが年をとっても、わたしは同じようにする。あなたがたがしらがになっても、わたしは背負う。わたしはそうしてきたのだ。なお、わたしは運ぼう。わたしは背負って、救い出そう。 (イザヤ46:3-4)
胎児であったときから見て下さっている神さまの存在を伝えたくて書きましたが、北風リムのセリフではなく、ストーリーの中でそのことが伝えられるように書けたらよかったのにと思っています。
感想を聞かせて下さると嬉しいです。