生かされて

乳癌闘病記、エッセイ、詩、童話、小説を通して生かされている喜びを綴っていきます。 by土筆文香(つくしふみか)

宝物のような時間

2013-11-28 21:34:41 | 日記
風邪をひかないようにと注意していたのにひいてしまいました。

わたしの風邪はたいてい喉からきます。子どものころから扁桃腺肥大症なので常に腫れています。
喉がちょっとおかしいなと思ったら鏡で喉を見ます。赤い色でだいたい判断できます。赤味がうすいときは葛根湯。少し濃いときは市販の風邪薬、ひどく赤いときは病院で処方してもらった薬。それ以上になってからでは、薬の効き目がなく、熱が出てきます。

今回は2段階の赤さだったのですが、病院からの薬を飲みました。
土曜日、日曜日は、はずせない用事があるからです。幸い喉の炎症がおさまってきたのでほっとしていますが、しょうが湯を飲んで濡れマスクをし、今日も早く寝ることにします。夜、濡れマスクをして寝ると喉の痛みがおさまりますよ。喉の弱い人はおためしください。

この間、ヒックンが泊まりに来ました。家に来るのが嬉しくてたまらないようすで、2週間に一度は泊りがけでやってきます。

最近、宿題や家でやっているドリルなど持ってきます。おじいちゃんにみてもらうのですが、やり始めるまでに時間がかかります。早く遊びたくて、「こんなにたくさんやりたくない」と30分ぐらい泣くのです。

なだめたりすかしたりして、ようやくやり始めると、10分ぐらいで終わるのですが……。
このごろ車遊びはほとんどしなくなりました。パズルやボードゲーム、トランプなど、おじいちゃんやわたし相手に楽しそうに遊びます。

「こんど、うちに来て。サンタさんがニトリのクリスマスツリーを持ってきてくれたんだよ」
と言いました。学校から帰ってきたら、大きなツリーがあったそうです。
「ニトリのってどうしてわかるの?」
「ニトリで売っていたのと同じだから」
「サンタさんがニトリに行って買ってきたのかな?」
「わかんない」
「24日にはプレゼントをくれるんだよ。サンタさんに手紙を書くんだ」
手紙はパパやママには見せないそうです。サンタさん、ちゃんと持ってきてくれるかな?

夜、ママと帰るとき駐車場まで送って行くと星が出ていました。
「あの星、ヒックンのこと好きなのかな? この前もヒックンのあとついてきたんだよ」
そういえば25年ぐらい前、息子も同じようなこと言ってたっけ。

こんなふうに言える時期は短くて、大切な宝物のような時間なのですね。


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恐れの中にあって

2013-11-26 21:05:37 | 教会
24日の礼拝では、先週と同じモーセの誕生の聖書箇所(出エジプト記2:1-10)からメッセージが語られました。

イエス様とモーセにはいくつもの共通点があると聞いて、そういえばそうだなあと思いました。

イエス様とモーセ、どちらも赤ん坊虐殺の中で守らています。
イエスの時代のヘロデ王は、博士たちからイエスの誕生のことを聞いて、救い主の存在を(王位を脅かす存在として)恐れ、幼子を虐殺しました。
でも、どちらも親たちの愛により守られました。

モーセは、水から引き出されたということで、死んでよみがえることを意味しています。へブル人としては死に、エジプト人として生き、のちにエジプト人として死んでへブル人を救いました。
イエス様も死んで、よみがえられました。

また、モーセの入れられた籠はノアの箱舟とも共通点があるそうです。パピルス製の籠には沈まないように瀝青と樹脂が塗られました。箱舟は木のやにが塗られました。

塗るとは、おおう(カファール)という意味があるそうです。贖いの血が塗られ、罪がおおわれることを意味します。神様が罪をおおって救い出してくださるのです。
モーセの籠もノアの箱舟もどこかへ行くために作られたのではありません。荒波の中でも決して沈まないように工夫して作られています。

ただ、浮いていれば救われるのですね。どこかへ移動しようとする必要はないのですね。決して沈まない箱舟に乗っているという気持ちで過ごせば平安な気持ちでいられるのだなあと思いました。

ヘロデ王もエジプトの王もこの世での自分の地位が危うくなるのを恐れて幼児大虐殺を命じました。恐れの原因を抹殺しようとやっきになりましたが、結局は失敗してしまいます。

モーセの母やイエスの両親は、やはり恐れがありました。子どもの命を守ることによって自らの命が危うくなりましたが、愛によって恐れの中を生き抜きました。

「神は、恐れの原因を取り除くことによってではなく、恐れの中を生きた勇気ある人たちによって救いをもたらしてくださいました」
と牧師先生が言われました。

恐れの中にあって、勇気を持って生きることができるのでしょうか? 

わたしには勇気などありません。10年前、乳癌になってからは、常に恐れと不安がありました。でも、神様が必ず守ってくださる、必ず最善をなしてくださると信じて、「恐れるな。わたしはあなたとともにいる(イザヤ41:10)」のみことばに必死にしがみついて歩んできました。これからも恐れや不安と共に生きていくでしょう。

メッセージを聞いて、恐れや不安があってもいいんだと神様から言われたようでほっとしました。



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ほんとうは人見知りなんです

2013-11-23 11:18:45 | エッセイ
わたしの通っている教会の婦人会は4つあります。20代、30代の婦人はルツの会。40代の婦人はユニケ会、50代は泉会、60代以上はナオミ会です。

泉会以外は皆、聖書にでてくる女性の名前です。泉会だけなぜ人の名前でないのかよくわかりませんが……。
泉という言葉はすてきですね。水がこんこんとわき出て、いつも新しくされているイメージです。もちろん、泉という言葉は聖書にたくさん出てきます。

泉会のメンバーは、40人ぐらいいます。人数が多いので、顔は知っていても名前がわからない方もいます。
泉会の11月の会報に原稿を頼まれたので自己紹介がてら書かせてもらいました。ここでも紹介させていただきますね。

       
ほんとうは人見知りなんです

わたしは子どものころ、内弁慶でした。家では大きな声でわがままを言ったりするのですが、一歩外に出ると人形のように無口でした。

ろくに挨拶もできませんでした。雨の日が好きだったのは、傘がさせるからでした。知り合いの人に出会っても、傘で顔を隠して知らんぷりしているような変わった子どもでした。

 人から見られること、注目されることがいやで、意識して目立たないようにしていました。必要なことの3割ぐらいしか言えず、いつもストレスを抱えていました。
 人前で話すときは緊張してかたまり、小さな声で話すので、「蚊の鳴く声より小さいね」と言われていました。

 そんなわたしが、「声がでかい」と子どもたちにしかられるようになり、人前で話すのにはそれほど緊張しなくなりました。言いたいことの9割は言えるようになっているので、子どものころ無口だったと言うと「嘘でしょ」と言われるほどです。

 それでも昔の性質が残っていて、ほんとうは人見知りなんです。一度親しくなってしまった人に対してはいいのですが、それほど親しくない人には、こちらから話しかけられず、話しかけられてもそっけない態度をとってしまうのです。

 教会内でも「文香さんに嫌われたみたい」と、言われたことがあります。ごめんなさい。違うんです。ほんとうは、人が好きで好きでたまらないのです。それなのに人見知りがまだ直らないのです。話しかけられると嬉しいので、泉会の皆さん、よろしくお願いします。

 最近気づいたことは、言いたいことの9割も話してはいけないということです。余計なひとことを言ったとき、相手を傷つけることが多いからです。8割ぐらいに留めておきたいのですが……。口での失敗は数限りなくあります。
「主よ、唇の扉に立ってこの口をもって罪を犯さないようにしてください」と祈っています。



日本クリスチャン・ペンクラブの理事、三浦喜代子さんがCGNTVの「本の旅」という番組に出演されました。ここをクリックして、番組を見る→「美しき姉妹たち」の右側300Kまたは56kをクリックしてご覧ください。

「本の旅」には2010年12月にわたしも「リピート・シンドローム」で出演させていただきました。
司会は、わたしのときと同じ久米小百合さんです。久米小百合さんは、かつて久保田早紀という名前で歌手として活躍されていた方です。



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小さな愛

2013-11-20 20:49:20 | 教会
今日は水曜礼拝の後、子ども家庭集会とJCPクリスマス会で行う朗読劇の練習をしました。
教会学校クリスマス会の劇の準備も佳境に入り、気持ちはクリスマス一色です。
17日の礼拝メッセージは、9月11日のメッセージの続きでした。9/11のブログをご覧ください。

メッセージを聞いて感じたことを書かせていただきます。


旧約聖書に登場するモーセという人物は、生まれた時から危機的状況にありました。エジプトの王が、へブル人の女が産んだ子が男の子だったら殺せと助産婦に命令していたからです。
神を畏れたシフラとプアというふたりの助産婦は王の命令に従いませんでした。

母親のヨケべテは、そのかわいいのを見てモーセを生かし、隠しておきました。
(出エジプト記2:1)

王の命令に逆らえば、自分が殺されるかもしれないのに、ヨケベテは恐れませんでした。
かわいいと思う気持ちは愛からきています。愛が恐れに勝ったのですね。

3か月の間、隠していましたが、隠しきれなくなって、瀝青と樹脂をぬったパピルス製の籠にモーセを入れ、ナイル川岸の葦の茂みの中に置いたのです。そのときのヨケべテはどんな気持ちだったでしょう。
胸が張り裂けそうな気持で、なんとか助けられるように祈りながら籠を置いたことでしょう。

わたしは、最初赤ん坊の入った籠を川に流したように思っていましたが、そうではなく、葦の茂みに置いたこのです。そこは、王女がときどき水浴びに来る場所だということをヨケべテは知っていたのかもしれません。

万が一王女が見つけたとしても、そのままほおっておかれるか、父親に告げて殺されることになるという可能性も大きかったのです。
ところが、王女は、その赤子をみたとき、「彼女はその子をあわれに思い(出エジプト2:6)」助けたのです。

「あわれに思うことが、救いの始まりとなる」と牧師先生が言われました。

ようすを見守っていた姉のミリアムは、「乳母を呼んできましょう」と言って、自分の母親を連れてきました。

かくして、モーセは乳離れするまで実の母に育てられたのです。

ミリアムは機転の利く賢い子どもですね。「この子の母親を知っています」と言うのではなく、王女自身が育てることはできないので乳母が必要なことを知っていて、母親とは言わずに母を連れてきたのですから。

モーセが乳離れしたら、王女の息子として宮殿で育てられます。
それまでの短い間、ヨケベテはどんな思いでモーセを育てたのでしょう。やがて手放さなくてはならないことがわかっているので、モーセと過ごす時間を大切にしたことでしょう。祈り、神様のことを語って聞かせたでしょう。モーセにとって実の母の記憶はほとんど残らなかったもしれません。でも、母の祈り、神を畏れる信仰がしみ込んでいったことでしょう。

この後モーセはイスラエル民族をエジプトから救い出す人になります。

モーセは母親と姉の愛、王女の愛により命が救われました。

大きな愛でなくても、かわいい思ったり、あわれに思ったりする小さな愛が人の命を救うのすね。


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37年たっても

2013-11-15 20:29:09 | 日記
神戸の保育科の短大に通っていたわたしは、人形劇部に入っていました。同期のメンバーは11人。人形劇部の名前から「ロッチ」と呼んでいます。

そのうち9人が関西(西宮、神戸、姫路、相生など)在住で、わたしを含めたふたりが関東です。
卒業してしばらくは定期的に集まっていたのですが、最近は関西のメンバーだけでも集まることが少なくなったそうです。数年前、わたしが久しぶりに神戸へ行ったときは、都合をつけて7人のメンバーが集まってくれました。

「ロッチ」のメンバーのひとり、S子から久しぶりに携帯メールが届きました。メンバーのTちゃんが盲腸炎で入院、Nちゃんのご主人が入院中であることが伝えられました。そして、それぞれ近況を教えてくださいというメールに、ほとんどの人が一斉メールで返事をしたので携帯は鳴りっぱなしになりました。
わたしのガラケーは一度に5人までしか送れません。型が古いのでしょうか……。

久しぶりにロッチの仲間とメールのやり取りをした翌日、Nちゃんのご主人が亡くなられたというメールが届きました。そんなに悪かったの? と驚き、お子さんがいないNちゃんのことを思うと悲しみでいっぱいになりました。

葬儀は姫路だというので、関西のメンバーはお通夜に出る人、葬儀に出る人、出られないけれど香典を預ける人を確認し、香典の額、電車の時間と待ち合わせ場所をあっという間に決めていました。Nちゃんのことを少しでも慰めたいと思って、忙しい中都合をつけてお通夜や葬儀に出ようとしている仲間たちの思いやりの心に胸があつくなりました。

Oちゃんからのメールには、「いつもながらロッチのチームワークの良さと熱い思いに感心しました。」とありました。
卒業して37年にもなるのに……。たまにしか会っていないのに、学生時代の友達っていいなあ……。

Nちゃんのご主人が亡くなられる前の日にS子からメールが届いたことで、A子が「S子がたまたまロッチメンバーにメールをくれたことに不思議な導きを感じます」というメールを送ってきたことに驚きました。(A子はクリスチャンではありません。)

本当に不思議な導きです。

葬儀に行けなかったわたしは、あとでNちゃんに手紙を書くことにしました。Nちゃんに慰めがありますように。



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似顔絵描きの一生(7)最終回

2013-11-13 16:10:48 | 童話
 子どものころのことや宮殿で王に気に入られていたときのこと、宮殿から追い出されたことなどが次々と思い出されました。最後にあの人に会ったときのことを思い出しました。  

 悲しげな眼で何かを訴えているようでした。
「わたしが間違っていました。王宮でぜいたくに暮らしているうちに、貧しい人を無視するようになってしまったのです」
 ジョエルは手を組んで祈りの姿勢をとりました。そのとき、自分の手が思うように動かせることに気づきました。体中の痛みもうそのように消えています。

 ジョエルはとび起きると、描きかけの絵の前にすわりました。ふと窓に目をやると、あの人の顔がみえました。はっとして窓辺までいくと誰もいません。もういちど絵の前に座って窓に目をやると、あの人の顔がありました。瞳の色がはっきりとみえます。
「この色だ!」
 
 ジョエルは白と黒と茶、青と藍色の絵具をまぜ、紙切れにためし描きをしました。
「少し違う。何かが足りない」
 水を足したり絵具を足したり減らしたりしながら何度も何度も色を作りました。
「もう少し、もう少しなのに……色が作れない」
 ジョエルは絶望して頭をかきむしりました。

「ジョエル、あきらめるな」
 耳元であの人の声がしました。あの人がジョエルに寄り添うように立っていました。
(熱病で死にかけていたとき水をくれたのも、飢えていたときパンをくれたのもあなただった。あなたはいつも一緒にいてくれたのですね)
「ありがとうございます」
 ジョエルの目から涙がこぼれ落ちました。それがパレットの上にポトリと落ちました。筆でまぜると、あの人の目の色そっくりになりました。ジョエルは震える手で瞳をぬりました。

「涙色の瞳」
 ジョエルは満足そうにつぶやくと、あの人の腕に抱かれて目を閉じました。
 

 翌日ジョエルの家を訪れた人は、安らかなほほえみを浮かべて死んでいるジョエルと、完成した肖像画をみつけました。肖像画は後に美術館におさめられ、多くの人の心を慰め続けました。

                          おわり


長い作品を最後まで読んでくださってありがとうございます。2009年のブログにイエス様の瞳の色について次のように書いています。

【10年ぐらい前、聖書を舞台に童話を書いているとき、「イエス様の目は何色ですか?」とS牧師に尋ねたことがありました。民族学的に考えて何色ですか?という意味で聞いたのですが、S牧師は少し考えてから、 「イエス様の目は涙色」と答えてくださいました。
いっさいの苦しみ、痛みを引き受けてくださったイエス様の目は、きっと涙色なのでしょうね。】


そのときから、涙色の瞳の童話を書きたいと思っていました。
ようやく書けました。もの書きは、絵を描く人と音楽を奏でる人、演劇とも共通するところがありますね。

いちずに求めていく晩年のジョエルのようになりたい。生きているうちに神様の御心とひとつになった作品を書きたいと願っています。



日本クリスチャンペンクラブのHP更新しました。ここをクリックしてご覧ください。



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似顔絵描きの一生(6)

2013-11-11 12:47:55 | 童話
(6)

 娘の家をあとにすると、いつしか足が自分の生まれた村に向かっていました。
(父さんは元気かな。相変わらずお酒を飲んでいるんだろうな)
 窓から家の中をのぞくと部屋はきちんと片づけられており、人の気配がありません。隣の家から男の人が出て来ました。濃いひげが生えていたのですぐにはわかりませんでしたが、太い眉と大きな目をみてニコラだと気づきました。

「ニコラじゃないか。戦地からもどってきたんだね」
 ニコラは不思議そうな顔をしてジョエルを眺めました。
「ぼくだよ。ジョエルだよ」
「えっ、ジョエル! 大きくなったなあ」

 ニコラは自分より背の高くなったジョエルをみて驚き、肩を抱きしめました。二人はしばらく再会の喜びに浸っていましたが、ニコラがふと口をつぐみ、悲しそうな目でジョエルをみつめました。

「お前、あれから家を出て一度も帰らなかったんだって? 三年前お父さんは病気になって死んでしまったよ。ベッドの中でお前の名前をずっと呼んでいたんだぞ」
「お酒ばかり飲んで、ぼくのことを殴っていた父さんが、ぼくの名前を?」
ジョエルは不思議でなりません。
「父さんは、弱くて寂しがり屋だったんだよ。だからお酒がやめられなかった。ジョエルのことが憎くて殴っていたわけじゃなかったと思うよ」

 ニコラの言葉を聞いて、父さんに悪いことをしてしまったと思いました。三年前といえば、宮廷画家として王宮にいたころです。父さんのことなどすっかり忘れて王様に喜ばれる絵を描くことに夢中になっていました。(王様を描くことより大事なことがあったのに……)そう思ったとき、またあの人の姿が頭に浮かびました。

(7)

数年後、ジョエルはあの人に出会ったとき一緒にいた娘と結婚し、ふたりの男の子が生まれました。でも、あの人に会うことはありません。
ジョエルはあの人の姿を求めながら、似顔絵描きを続けていました。貧しい人からはお金をとりませんでした。
 
 六十年の月日がたち、ジョエルの腰はすっかり曲がってしまいました。奥さんは天国へいき、息子たちはふたりとも外国で暮らしていました。
 ジョエルはリュウマチという病気になって、絵筆を持つのも大変になりました。それでも絵筆を指にしばりつけて描いていました。あの人の似顔絵はずっとイーゼルの上に乗せたままです。あと、瞳の色をぬるだけで完成するのに……。

  ジョエルは自分のいのちが長くないことを知っていました。最後に絵を仕上げてから死にたいと願いました。
朝から雨が音をたてて降っていました。リュウマチの痛みがひどくて、ジョエルは横になっていました。何日も食べていませんでした。


つづく




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似顔絵描きの一生(5)

2013-11-09 17:28:55 | 童話
「悪いけどそんな暇はないね。似顔絵を描く画家はいくらでもいるだろう。別の画家に描いてもらいなさい。それでは失礼」
 
ジョエルは女の人に背を向けると馬車に乗りこみました。馬車の中から振り返ると、女の後ろにやせた男の人が立っていました。その人は悲しそうな目でじっとジョエルをみつめていました。ジョエルの胸はずきりと痛みました。

(仕方なかったんだ。王様に待ってもらうことなんてできない。そんなこと言ったら機嫌を損ねて宮廷から追い出されてしまうかもしれない)
 ジョエルは心の中で必死に言い訳をしていました。
 

(5)
それから三年の間は夢のような日々でした。ジョエルは王や王妃の絵だけでなく、頼まれて宮廷に出入りする貴族の絵を何枚も描きました。

 ところがある日、女王が新しい画家を連れてきて王に紹介しました。王が新しい画家に命じると、画家はすらすらと絵筆を動かしました。その絵はちっとも似ていませんでした。王は十歳も若いように描かれ、女王は実際より鼻が高く、目がぱっちりと描かれていました。
 王と女王は新しい画家をたいそう気に入って、その画家にばかり絵を描かせるようになりました。ジョエルにはちっとも声がかかりません。とうとうジョエルは宮殿を追い出されてしまいました。

 ジョエルは、しかたなく前住んでいた場所に帰っていきました。小屋に入ると、壁に自分が描いた一枚の絵が貼ってありました。
(あっ、この人は……)
ジョエルは男の似顔絵をみてはっと胸を突かれました。宮殿の門前で女の人を追い払ったとき、女の人の後ろにいたその人の悲しそうな顔を思い出しました。

 ジョエルは宮殿でもらった絵具で男の顔を描きはじめました。瞳を描こうとしたとき、絵筆が止まりました。
(何色の目だったかな?)
 前に描いた絵は黒一色で描いているので、瞳の色はわかりません。
 その人のやせたほお、とがった鼻、うすいくちびるははっきり思い出せるのに、目の色だけはベールに包まれているようにぼんやりとした記憶しかありません。
(あの人と、もっと前にも会っているぞ)

 ジョエルは子どものころ、死にかけている母親の似顔絵を描いてほしいと家にやってきた女の子を思い出しました。そのとき女の子と一緒にいた男があの人だったのです。
(あの子に聞いてみよう。あの子はまだあの家に住んでいるだろうか……)

 記憶をたどりながら、女の子の家を捜し歩き、ようやく見つけることができました。女の子はすらりと背の高い娘になっており、年とった母親と暮らしていました。

「あのおじさんは、あれからもう一度きてくれて、母さんの病気を治してくれたのよ。でも、その後は一度も会ってないの……。瞳の色? うーん。覚えてないわ。もし、おじさんに会えたらわたしにも知らせて。お礼が言いたいから」
 娘は目をキラキラさせていいました。

                               つづく



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似顔絵描きの一生(4)

2013-11-07 13:20:44 | 童話

(4)
 六年の月日がたち、ジョエルは二十歳の青年になりました。顔料を手に入れて、色つきの絵を描くようになっていました。あるとき、道端で絵を描いていると大風がふいてきて絵がとばされてしまいました。

 その数日後、貴族の馬車がジョエルの小屋の前に停まりました。立派な身なりをした男が降りてきて、ジョエルに深々と頭を下げました。
「宮殿までお越し願いたい」
「……?」

 あまりにも突然のことに、ジョエルは声も出ません。
「あなたの描いた絵が、王様の目に留まりました。」
 絵が王に仕える貴族の馬車にとんでいき、それをみた貴族が王にみせると、王はたいそう気に入って、「この絵を描いた人を捜して王宮に連れてこい」と命令していたのでした。
「王様があなたに肖像画を描いてほしいといっておられます。どうか宮殿においでください」
「き、宮殿に……」 
 ジョエルは夢をみているのではないかと思いました。
 
 
 ジョエルは王様に気に入られ、宮廷画家として住みこみで絵を描かせてもらうことになりました。
 ジョエルに与えられた部屋には、まわりにダイヤがちりばめられた豪華なベッドがありました。床は大理石です。天井からは何十本ものろうそくが灯るシャンデリアが吊るされていて、夜でも絵を描くことができます。

 夢にまで見た高価な絵具、絵筆や紙、イーゼルもそろっていました。一日三回食べきれないほどのごちそうが運ばれてきて、夜は羽根布団にくるまって寝る生活にジョエルは雲の上にいるような気持でした。

 今日は王がキツネ狩りに行くのでついてくるようにいわれました。狩りをする王の姿を描くように命じられたのです。
 ジョエルは約束の時間より早くしたくをすませ、門の近くで待っていました。

 貧しい身なりをした女の人が門に近づいてきました。
「似顔絵の天才と呼ばれている画家に会わせてください」
 婦人は門番にすがるようにしていいました。
「おまえのようなみすぼらしい者がくるところではない。帰れ!」
 門番は女の人を追い払おうとしています。

「お願いします。天才画家にお願いがあるんです」
 女の人はますます大きな声を上げて叫びましだ。そのとき、宮廷にいる画家はジョエルひとりでした。
「天才画家ってぼくのことかな」

 天才画家だなんていわれたことに気をよくしてジョエルは女の人に話しかけました。
「ああ。あなたでしたか。お願いです。わたしの娘が死にかけているのです。どうか娘の絵を描いて下さい」
 婦人はひざまずき、地面に頭をすりつけるようにひれふしました。
「うーん……」
 ジョエルが考えこんでいると、ラッパの音が鳴り響きました。王を乗せた馬車がやってきたのです。 
               
                      つづく




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似顔絵描きの一生(3)

2013-11-05 20:32:24 | 童話

(3)
 ジョエルは画材と着替えをかばんにつめこむと、家をとび出しました。冷たい秋風がジョエルを追いかけてきました。ジョエルは町へ向かって息の続くかぎり走りました。

 ジョエルは村はずれの家畜小屋で一晩過ごし、翌朝町へいきました。町にはいろいろな人が歩いていました。シルクハットをかぶりステッキを持って歩く紳士。羽飾りをつけた大きな帽子をかぶっている婦人。でっぷり太った商人風の男性。はだしでぼろぼろの身なりをした子どもたちもいました。

 ジョエルは道端の石に腰を下ろして、ひとりの婦人を描きはじめました。婦人が気づいて近づいてきました。
「まあ、わたしのことを描いているの?」
「勝手に描いてすみません」
 ジョエルは叱られるのかと思い、深く頭を下げました。
「買わせてもらうわ」

 目の前に銀貨を出されて、ジョエルは驚きました。これなら立派にひとりで生きていけると思いました。
 ジョエルは似顔絵描きとして生きることを決意しました。スタートはよかったのですが、その後はいいことばかりではありません。どんなに心をこめて描いても、「似てない!」と文句を言われ、お金をもらえなかったり、逆に簡単に描いただけで喜ばれたり。銀貨をくれる人はそれから現れず、収入はわずかです。その日の食べ物を買うのがやっとの生活でした。夜は道端に寝て、雨の日は教会に泊めてもらって暮らしていました。

 家を出て二年目の冬、寒気がして震えが止まらなくなりました。道端で一枚きりの毛布にくるまってうずくまっていると、今度は火のように身体が熱くなりました。はやり病の熱病にかかったのだと気づきました。でも、ジョエルのことを気にかけたり、世話をしてくれる人はひとりもいません。
 
 のどがかわいてたまらなくなりました。でも、体が弱っているので水を汲みに行く力がありません。そのとき、目の前に小さなコップが差し出されました。差し出したその人は、やせた男の人でした。どこかで会ったことがある気がしましたが思い出せません。
 ジョエルはコップを受け取ると一気に飲み干しました。冷たい水がのどを通っていくとき、熱が下がり、病気が治ったことに気づきました。
 
 
 家を出て四年目、小さな小屋に住むようになっていましたが、雨ばかり降って仕事がない日が続きました。何日も食べるものがありません。体を動かす気力もなく、床に横たわっていました。

「このまま、飢えて死ぬんだな」
 ジョエルがひとりごとをいったとき、戸口が開いて、あの人が入ってきました。その人はひときれのパンをジョエルの手ににぎらせると、にっこりほほえんで何もいわずに出ていきました。
 パンを食べたとき、体に力がよみがえってくるのを感じました。雨音はぴたりとおさまっていました。
 
 ジョエルは助けてくれた人のことを忘れないため、その人の似顔絵を描きました。木炭しかないので、黒一色で描き、壁にはりつけておきました。

                             つづく



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似顔絵描きの一生(2)

2013-11-03 16:43:37 | 童話
(2)
ニコラが戦地に行った次の日、ジョエルの家に村の人たちがぞろぞろやってきました。ニコラのお母さんがジョエルの描いた絵を近所の人にみせたので、それが評判になっていたのです。

「ジョエル、わたしのことを描いてちょうだい」
「わたしの子どもを描いてほしいの」
「おばあさんの絵を描いて」
 次々注文がきて、ジョエルがとまどっていると、めずらしくお酒を飲んでいない父さんが、にこにこして番号の書かれた布きれを配りはじめました。

「お金を払える人が先だよ。並んで、並んで」
「前金だなんて、がめついわね」
「当たり前だ。金を持ってないやつは、帰った、帰った」
お金を持ってこなかった人たちは、プリプリしながら家にもどっていきました。

「父さん、ぼくの絵は、お金をもらえるようなものじゃないよ」
ジョエルが父さんのシャツを引っ張りました。
「うるさい。お前は黙って絵を描けばいいんだ!」
 ジョエルは仕方なくいちばんたくさんお金を出してくれた人から描きはじめた。
 父さんはもらったお金で酒を買ってきて飲みました。ジョエルがいくら止めてもききません。
「ぼくは父さんの酒代をかせぐために描いているんじゃないんだ!」
 ジョエルは裏通りに出ると、樽を蹴りながら叫びました。
 
父さんが出かけているとき、トントン戸をたたく音がしました。戸を開けると見知らぬ男の人が立っていました。
その人は、やせていてほおがげっそりとしていましたが、目は深い泉のようで、すいこまれそうな瞳をしていました。服は穴だらけで裾はぼろぼろでした。その服は何日も洗っていないように汚れやシミがついていました。
「何か用ですか?」
ジョエルがたずねると、男の後ろから小さな女の子が顔を出しました。

「うちにきて。母さんの絵を描いてほしいの……お金は持ってないんだけど」
女の子はすがるような目でジョエルをみつめました。
「母さんは、あと一週間の命だっていわれたの」
女の子の目から涙がほろりとこぼれ落ちました。

ジョエルは自分の母さんが死んだときのことを思い出して、胸がズキリと痛みました。
「いいよ。きみの家にいこう」

女の子の家は隣村でした。ベッドにはやせて顔色の悪い女の人が寝ていました。ジョエルは、女の人が元気だったときの顔を想像して描きました。

描き終えたとき、家の中には病気のお母さんと女の子しかいませんでした。
「父さんはどこへいったんだ?」
 女の子にたずねると、
「あの人はお父さんじゃない。知らないおじさん」
と答えました。

「わたしが、『お母さんそっくりの絵を描ける人がいたらいいのに……』っていったら、あのおじさんがきて『その人のところへ連れていってあげよう』っていってくれたの。あたしは、だれにも聞こえないような小さな声でいったのに不思議ね」
 女の子は出来上がった絵を満足そうにながめました。

「あのおじさんはね、真っ白な服を着て青いマントをはおっていたの。でも、ジョエルの家にいく途中で道路で寝ていた人と服を取りかえたの。だから、あんなボロボロな服を着ていたの。それから、その人にマントもあげちゃったのよ」
 女の子は大きな目をくりくり動かしました。

家に帰ると、いきなり父さんにほおをなぐられました。
「お前、お金も出せないようなところへいって似顔絵描きやったんだって!」
 女の子のお母さんの絵をただで描いたことが早くも父さんの耳に入っていました。
「悪いかい?」
「悪いに決まってるだろ!」
「どうして悪いんだよ」
「金も払えないやつのために絵を描くなんて……」
「金、金、金……何でも金だ。金が入れば全部酒代になってしまうのに」
 
ジョエルがいいおわらないうちに反対のほおをなぐられました。
「もう、がまんできない!」

つづく


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似顔絵描きの一生(1)

2013-11-02 13:21:29 | 童話
童話を書くときは、読者の対象年齢を考えて書きます。小学校低学年向け、高学年向け、中学生向けなど……。

でも、この作品は対象年齢を考えずに書きました。あえて言うなら高学年から大人向けです。

童話や小説を20年以上書き続けていましたが、何度か転機が訪れました。この作品は、今回大きな節目を越えて書いたものです。

このような作品を募集しているところがないため投稿できませんので、ブログで公開させていただくことにしました。連載は8回くらいになりそうです。最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

          
 似顔絵描きの一生       土筆文香

(1)
 むかしフランスの田舎にジョエルという名の十歳の少年がいました。ジョエルは絵を描くのが好きで、今日も木炭で板切れに一心に絵を描いていました。

「お前、また遊んでるのか!」
 父さんがふらついた足取りで近づいてきました。またお酒を飲んでいるようです。
「遊んでるわけじゃない。父さんこそ昼間から飲んで……」
「なんだとぉ、口答えする気か」
 父さんがこぶしを振り上げたので、裏口から素早く外へ逃げました。

 ジョエルは裏通りの樽の上にすわりました。樽の上で昼寝をしていた野良猫が、うらめしそうな顔をしてジョエルをにらむと、塀にとび移りました。
 ジョエルは絵の続きを描きました。輪郭だけ描いたのですが、母さんの顔がうまく書けません。頭の中でははっきりと母さんの顔がみえるのに、いざ描こうとすると真っ白になってしまいます。

(どうして思い出せないのかな……。母さんが天国へいったのは、先月のことだったのに……)
髪は目に浮かびます。自分と同じ栗色です。腰まで長くてひとつにしばっていたのですが、半年ほど前に突然ばっさりと切ってしまいました。
母さんは、小麦粉とバターを買ってきて、たくさんパンを焼いてくれました。久しぶりに食べる白いパンに感激してジョエルは五つも食べました。あのとき、母さんはパンを食べたのでしょうか。自分が食べるのに夢中で気づきませんでしたが、ひとつも食べなかったような気がします。

 夜、スカーフを取った母さんの頭をみたとき、心臓が止まるほど驚きました。髪を売ったお金でパンの材料を買ってきたのでした。
 父さんが働きさえすれば、こんな貧しい暮らしをすることがないのに……。母さんは働き過ぎて病気になったのです。母さんが死んだのは父さんのせいだと思うと、怒りがこみ上げてきました。

 ジョエルは母さんの後ろ姿を描くことにしました。腰まである栗色の毛を描いていると、隣の家のニコラがやってきました。年はジョエルより十歳年上で、兄さんのようにやさしい青年です。
「やあ、細かいところまでよく描けてるじゃないか」
 ニコラは絵をのぞきこんでほほえみました。
「でも、顔が描けないんだ……」
 
 ジョエルが悲しそうな目でニコラをみつめました。
「後ろ姿の方がいいぞ。顔は想像できるからな。母さんは、笑っているときも泣いてるときもあっただろ。いま、どんな顔してるんだろうって想像するのは楽しいじゃないか」
 ニコラの言葉を聞いてジョエルの暗い心にぽっと灯がともりました。

「ジョエル、お願いがあるんだ……」
 ニコラが少し改まった顔でいいました。
「何?」
「おれの……似顔絵描いてくれないか」
 ニコラは顔を赤らめてポリポリ頭をかきました。
「えっ、ニコラの?」
「おれ、来月戦地へいくんだ。だから、おれの似顔絵を母さんに渡したいんだ。絵があれば、少しは寂しさもまぎれると思って」
「うん。わかった」
 ジョエルはニコラの少しとんがった口、口のまわりに生えているポシャポシャしたひげ、太い眉毛、大きな目、そして高くてカッコイイ鼻を一生懸命観察して描きました。

 次の日、できあがった絵をニコラに渡すと、
「ありがとう、ジョエル。お前、天才だな」
ニコラは喜び、一週間後に戦地へ向けていってしまいました。
  
                          つづく


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