いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

地デジ9層倍

2007年07月13日 | たまには意見表明
 薬九層倍(くすりくそうばい)という四字熟語があります。昔から薬は原価に比べて売値が非常に高く、売れればぼろ儲け、という意味で使われます。今の薬はほとんどが開発費と流通経費ですから、製造原価がいくら、とか言ってもほとんど意味はありませんけどね。

 これに語呂だけ似た話が、地上デジタル放送のコピー制限を、悪評高い「コピーワンス」から「9回までコピー可能。ただし孫コピー不可」に緩和したらどうか、という総務省の関連業界への要請です。「著作権団体や放送局も歩み寄る見通し」ということはつまり、既得権をほとんど失わないということでしょう。他の記事では「10回まで緩和」となっているものもありますが大同小異です。

 「1回から9回に緩和」と言えば9倍も自由になったのか、と錯覚しますがさにあらず。HDDからDVDへのダビングができるだけで、孫コピーは作れません。従って、HDD上で編集したものをDVDに整理するとか、編集を繰り返して自分なりの保存板を作ることができません。例えば私がよく録画する格闘技関係では、2時間番組で正味の試合は30分そこそこなんてことが珍しくありません。だから編集できない子コピーばかりができてもたいして有難くないのです。また、レコーダーで録画しておいて、編集には機能の充実したパソコンを使うということもできません。アナログに比べれば不便はやっぱり不便です。

 そもそも無料の地上波にコピーガードを付加しているのは日本だけ、と読売新聞の論調は厳しいものがあります。他の大手新聞が系列の放送局に遠慮して記事すら載せないのに比べると、この単刀直入な姿勢は大いに評価できます。

 放送局が、このような一般視聴者をも権利侵害者として敵視するような姿勢を続ける限り、視聴者がインターネットテレビに期待するところは大きいでしょう。「あるある大事典」の失態を契機にわかったことは、スポンサーの花王が1回の放送当たり1億円もの広告費を支出していたにも関わらず、テレビCMの元締めである電通とキー局、下請を介して制作者であるプロダクションが受け取ったのはわずか860万円だったという驚くべき利権体制です。これに比べれば、「薬九層倍」なんて可愛いものではありませんか。

 下請クリエイターを安くこき使うことしか考えていない放送局が、「著作者の権利を守るためにコピーガードに理解を」なんて笑い話もいいところ。彼らは広告屋としての独占的な地位を守りたいだけです。1億円でいい番組作りを期待していたであろう花王も舐められたものです。

 踏みつけにされた視聴者とスポンサーの利害が一致する解決法とは何でしょうか?それがまさに、電通と既存の放送局を通さないインターネットテレビです。例えばソフトバンクがスポンサーを募って、海外から日本人向けにインターネット放送を始めたら?

 恐らく、オリンピックやサッカーワールドカップといった最強のコンテンツの入札が次にあれば、電波利権にしがみ付く旧勢力と、インターネットを武器とする新勢力の逆転を象徴するイベントになるのではないでしょうか。日本での放送権をめぐって、これまでにない巨額の入札が行われるでしょう。地上デジタルへの転換で体力を消耗した旧勢力に対して、新勢力は設備投資が遥かに少なくて済みますし、既存のテレビから家庭の娯楽における覇権を奪い取ろうというIT企業からの出資が期待できます。インテルやマイクロソフト、グーグル、アップルなどの資金力があれば、オリンピックなど有力イベントの放送権を独占して日本の民放キー局を一気に葬り去ることは十分に現実性があります。

 そんなシナリオを回避したいなら、コピーワンスと五十歩百歩の「9回まで緩和」や「10回まで緩和」ではなく、アメリカ並みのコピーフリーにするのが最善の選択です。ここで視聴者は甘い顔をせずに、腰砕けになった放送局や総務省を追い込んで、視聴者の側を向いた制度に変えさせるべきです。ええっ、どうせインターネットテレビで何でも見られるようになるなら地デジなんかどうでもいいって?まあ、そりゃそうなんですが。
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