いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

唇滅びて歯寒し

2007年07月24日 | たまには意見表明
 ついに法律で明示された地上アナログ放送の停波期限までちょうど4年、ということで新聞でもネットでも関連記事が目に付きます。総務省の責任で放送局側の整備が着々と進んでいるようですが、問題は受信する方です。今の普及ペースでは期限に間に合わない世帯が千万単位で出てくる恐れがあるからです。総務省としては何としても消費者に機器整備を促したいところですが、逆に「買い控え」を誘発するようなニュースが目立ちます。

 タイトルは「唇滅べば歯寒し」とも言いまして、原典は中国です。唇と歯は助け合いの関係にあり、動きが干渉して邪魔になることがあっても、片方がなくなれば残った方ももたない、という意味の諺です。

 放送番組やレンタル、あるいは販売されているDVD、ビデオなどのコンテンツを制作し販売する側の放送局や音楽産業(まとめて著作権者)とテレビや録画・録音機材を製造販売するメーカー団体(代表してJEITA)はコンテンツの普及を通じて長らく協力関係にあったはずですが、このところ非常に険悪な空気になってきました。

 HDD付DVDレコーダーのコピー制限、通称コピーワンスは明らかにレコーダー販売の妨げとなっており、ユーザーに後押しされる形でJEITA側は見直しを希望していましたが、「コピーガードを外すと海賊版流通の温床になり著作者の権利が守れない」とする著作権者側は交渉の席に着きませんでした。実はコンテンツを創造する著作者と、その権利を享受する著作権者とは違います。著作権者はこうした論理のすり替えで、今まで視聴者を欺いてきました。ややこしいですが、彼らが守りたいのは著作者の権利ではなく、著作権者の権利です。

 このままコピーワンスが定着し、レコーダーの販売が先細りになるのと並行して、電波によるテレビ放送やコンテンツ販売も先細りになるのかと思われたのですが、総務省の後押しで何年越しかの交渉がやっと一応のまとまりを見せました。それが「コピー9回とムーブ1回。ただし孫コピー不可」というコピーワンスに毛の生えたような緩和策です。これでどの程度視聴者が騙されるかが問題なのですが、早くも批判が出ているようです。

 孫コピーができないということは実質的に編集ができないということです。また、この案では、コンテンツのコピー回数をどこかにカウントする機能が必要なので、現行のレコーダーの制御ソフト(ファームウェア)を大幅に変更する必要があります。恐らく今まで市場に流通してきた280万台(JEITAによる統計)の地上デジタルチューナー付レコーダーでは緩和の恩恵がほとんどないと予想されています。

 これでは、地上デジタル対応レコーダーを購入しようとしている人は、緩和策対応機が出るまで待とうとするでしょう。並行して検討されてきた(らしい)、B-CASカード不要のデジタル機器も製品化が待たれており、それでなくても買い控えが起こりやすい状況なのです。今でさえ4年後のアナログ停波に間に合わないほど代替が進んでいないのに、それに輪を掛けた問題続出でメーカーは新製品を投入しにくい状況です。

 しかも著作権者とJEITAの綱引きはまだ終わったわけではなく、更に混乱する可能性もあります。それにしてもこのような国民多数が利害を有する政策が、利権者同士の会合で決まってしまうこの国の政治もどうかしています。一応、消費者団体も交渉に参加しているようではありますが、その「消費者団体」は我々一般消費者の意見を汲み上げようとはしていません。主張しているところを聞いてみると、消費者と言うよりは教育関係者などのようです。これで「消費者も納得した」などと片付けられたらかないませんね。

 今のところ、コンテンツの消費者である一般視聴者の立場に近いのがJEITAです。著作権者はこのJEITAを叩いて悪者に仕立て上げることで、厚かましい過剰権利の主張を通そうとしているようです。こんな乱暴な言い方はしたくないのですが、消費者の代表もなしに負担だけさせられる不合理は民主主義の原理に反しています

 JEITAを攻撃して、世界でも珍しい一般地上放送の完全コピーガードを維持したところで、視聴者が地上デジタルにそっぽを向けば、受信機やレコーダーは売れませんし、機材に依存してきたコンテンツも売れません。著作権者はJEITAに参加する機器メーカーを衰退させておいて、自分は生き残れるとでも思っているのでしょうか?まさに「唇滅びて歯寒し」です。

 不十分な緩和策ではデジタル受信機の普及は進みませんし、既存のレコーダーも救済できません。JEITAとしては消費者の不満をバックにより強い交渉に出たいところですが、著作権者も強硬です。

 この膠着状態を打破するためには、やはり圧倒的に数の多い一般視聴者の代表を入れるか、一時休戦して広く視聴者の意見を汲み上げるかするべきです。視聴者は組織化されていないから参加させにくい、ということなら、視聴者に最も立場の近い家電小売業界の代表を入れたらどうでしょう。ヤマダ、コジマといった大規模小売業は、流通業全体の中でもトップランクに近いほど成長しており、彼らの意見を無視してデジタル家電の普及を図ることなど不可能です。今までこれと言って政治的な権力を行使して来ませんでしたが、今回は視聴者に代わって現場の声を総務省に届けて欲しいと願います。ヤマダ電機さん、ご一考願えませんか?
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