いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

公務員は減らせるか

2005年09月01日 | たまには意見表明
 国家および地方財政再建の策として、公務員の大幅削減および給与削減が主張されることが多いですが、マニフェスト(政権公約)などに記載されているということは、それが国民にとって利益になるんだという目論見があるからでしょう。大手の新聞もこの論調に乗っている記事が多いようです。あたかもそれが「改革」の本質であるかのように。

 でも実際に公務員が減って、給与も下がったとしたら、何が起こるでしょうか?新聞はそこまで解説してくれていません。極楽親父のように、人生も半ばを迎えますと、「説明できないもの」、「ムードだけで進められているもの」は胡散臭いという経験が身に着いています。今日はこの「今そこにある胡散臭さ」について考えてみましょう。

 まずお断りしておきますが、極楽親父は地方公務員です。従ってこの問題について利害のない立場ではありません。しかし、財政再建と公務員の処遇については、利害のない国民はいないはず。それなのに論調を引っ張っているのは一部の人たちだけ。

 皆さん関係があるんですよ。それぞれの立場から考え、声を上げなければ、ムードに乗っかって「改革」とやらを実現したつもりが、ごく一部の人たちだけの利益のために奉仕させられていただけ、という苦い思いをまたも負わされることになりかねません。今までの政治とは、まさしくそういうものだったからです。

 民間ではリストラの嵐が吹き荒れたのも昔のことのようですが、その時期に「良いリストラとは本社をリストラすること」と聞いたことがあります。会社の価値を調べるアナリストが言ったことらしいですが、つまり現場の職員を切り捨てるよりも、会社が肥大化する中で権益を拡大してきた、よく調べれば会社にとって貢献度の低い管理部門の病巣を探して切除しなさい、という格言のようです。

 経営者にとっては、現場の下級職員を切る方がずっと簡単。現場の職員はほとんど派遣、という会社もたくさんあります。しかし、これは大きな木を剪定するのに、根から切って行くようなもの。現場のリストラが過ぎると、確実に会社のポテンシャルは低下します。典型例がダイエーではないでしょうか。

 あの巨大なダイエーの経営が傾いてから、極楽家の近所のダイエーでは素人目にもわかるリストラが実行され、ローカルながら売れているテナントが追い出され、本社の管理部門が選んだであろう、どこにでもある陳列ケースが取って代わりました。パートの店員に商品のことを聞いても要領を得ず、仕舞いには店員が店頭から消え、探すのに苦労する始末。その一方で、ビール会社からの派遣の人でしょうか、目の前で困っているお客に目もくれず、何もない空間に向かって発泡酒の試飲を呼び掛けている滑稽さ。これじゃ売れませんよ。

 同じ時期にイトーヨーカ堂に行ったら、店員が自分の売り場に気を配っているのがよくわかり、気持ち良く買い物できました。商品を売るのは人だというのがよくわかりました。

 公務員を減らすという意味合いは、当事者である官庁と国民の間に大きな差があると思います。単に「多く辞めさせればいい」という数合わせでは、現場が機能しなくなり、公共サービスの大幅な低下を招くでしょう。現場の人数は減っても、業務の量は減らないからです。では、「良いリストラ」のために切除するべき「病巣」とは誰でしょう?極楽親父の脳裏には、一部の国会議員の顔がありありと浮かびます。でも、そんな人ほど辞めさせるのが難しいんですよ。

 給与削減も、新聞が書き立てるほど簡単じゃありません。強引な論調では、「2割以上の削減」とか書いてありますが、一律で減らせると思ってるんでしょうか?それだけ減らされれば、技能のある人から出て行くに決まってるからです。極楽親父は病院での地位が高いわけではありませんが、日本の歴史上でも3,000人に足りない特殊資格者なので、転職先には全く困っていません。過剰気味の勤務が少しこたえていますし、家族にも不自由な思いをさせているので、業務が正当に評価されないなら、すぐに移るつもりです。

 強引な給与削減で最初に出て行くのは、公務員を辞めても他で十分に評価される人たちでしょう。市民病院の腕利き外科医、世界から注目される研究者、児童から慕われる学校の先生、独自の技術を持つ技官、航空自衛隊のトップガンなど。公務から足を洗うことで、彼らにはより良い待遇が約束されています。こうした「つぶしの利く人」が公務員を続けているのは、地位や給与での評価は十分でないにしても、必要とされている自覚があるから。「公務員なんかいらない」という風潮が強くなれば、喜んで出て行くでしょうね。

 残った病院や研究所や施設の機能を、派遣や業務委託でカバーできるでしょうか?大学病院で散々「定数削減」の弊害を見てきた者として、新聞が無邪気に書き立てているような、リストラさえすればという論調に疑問を感じます。

 もちろん、税金で公務員を雇っているわけですから、決定権は納税者にあります。リストラが必要なのも確かです。ただし目下の雰囲気では、「日産のようなリストラ」よりは「ダイエーのようなリストラ」に近づいているように思えてなりません。

 カルロス・ゴーンさんは大の運転好きで、車そのものや製造、営業の現場を自ら見て回ることを重視された人だそうです。国や地方自治体の機関が実際にどう機能しているのか、為政者はもとより、多くの人に現場を見て理解してほしいものだと思います。
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