いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

「モンスター」著作権者の時代

2008年03月13日 | たまには意見表明
 モンスターペアレント、モンスターペイシェント(患者)という禍々しい言葉がメディアを賑わせています。それらの報道によれば、論理性や協調性に欠け、自分の権利だけ主張して状況や相手の立場を考えない人を「モンスター」と称号?付きで呼ぶらしいです。いずれも和製英語であり、海外では通じません。欧米では自己主張の強いのが当たり前だからでしょうかね。

 さて、自己主張と言えば最近では著作権についての事件が多くなりました。最新のニュースでは、予備校の教材に著作物を無断引用されたとして著作者らが訴訟を起こしています。

「教材に作品無断使用」作家らが予備校に賠償・削除求める(読売新聞) - goo ニュース

 原告であるなだいなださんの著作物が著作権法で保護される対象であることは明らかですし、著作権者として収入を得ることは尊重されるべきですが、ただし今回の件に関しては疑問なしとしません。被告である河合塾は、なださんの作品を直接選択して引用したのではなくて、過去の大学入試問題として採用されたものを問題集に含めただけだからです。河合塾は私立の予備校に違いありませんが、法律で認められた学校法人であり、今回の引用では教材としての引用であることに疑いはないからです。

 我が国の児童や学生が効率よく学習して教育の成果を上げるためには、河合塾のような私的教育機関は重要な存在であり、教育を目的とした事業において公的な教育機関との間に不合理な差別を認めるべきではありません。公的な教育機関だけですべての児童や学生が要求するものを提供できるはずがないからです。教育水準を上げることは我が国が国際競争の一線で生き残れるために不可欠であり、これを実現するためには理不尽な民間いじめなどしている余裕はないはずです。「官から民へ」は教育においても必然の流れです。

 河合塾が出版で利益を得ているのは本当でしょうが、それなら応分の著作権料を支払えばいいだけのことで、引用を差し止める必要などないでしょう。穴だらけの問題集なんか誰が喜びますか!また金銭補償がされる場合は上記理由に鑑み、一般の著作権料より安く算定されるべきだと考えます。裁判所は多くの国民が納得できる判断を示して頂きたいですね。

 原告が被ったとされる金銭被害についても大いに疑問であり、なださんの著作を読もうという人が、わざわざ原本ではなく河合塾の問題集を買うでしょうか?実質的には問題集を通じてなださんの作品が知られるので、むしろなださんにとっては金銭的利益があるとさえ予想されます。なださんは著書の書評や図書館による購入、貸出しさえ著作権侵害とお考えなのでしょうか?それならある意味で辻褄は合うのですが。

 「金銭には関係なく、とにかく引用はいけない」と言うのならそれもおかしな話で、それなら大学入試問題に採用された時点で、本来の姿とは違う部分的な引用がなされているはずなので、この部分を河合塾の責任とするのは合理的でない気がします。完全な形で著作を読んで欲しいと言う気持ちはわからないではないですが、引用なしで学習や研究が進まないのは、医学者でもあるなださんなら周知のことと思います。なださんは論文を書く時に他の文献を(もちろん無料で!)引用したことがないのでしょうか?河合塾の問題集を買って勉強するのは高校生や予備校生ですよ。人生の成功者として、少し太っ腹なところを見せてもいいのではないですか?

 著作権の延長問題でよく議論されるところですが、著作権の範囲を広げて、著作権者が今より金銭的に報われるようにしたところで、著作者自身がその恩恵に浴することはほとんどないと報告されています。長年に渡って著作物が商業利用されるのはほんの一部の作者のほんの一部の作品だけであって、それ以外の著作物に包括的な利用制限をかぶせてしまうことは却って著作物が有効利用される機会を失わせるだけであり、得をするのは例外的な「キラーコンテンツ」を抱えた企業だけ。これに対して著作物の利用者である多くの国民は余分なコストを負担したり、著作物に触れる機会を奪われたりで一方的に被害を受けるわけです。

 もし今回の裁判で原告が著しく有利な判決を得るようなら、著作権者が次々に「モンスター」化して、一般国民は著作による恩恵から大きく遠ざけられることになるでしょう。そんな悪夢を見たくはないのですが。
コメント (2)
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