アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

Three and Two

2018-09-25 21:48:09 | 音楽
『Three and Two』 オフコース   ☆☆☆☆

 オフコース7枚目のオリジナル・アルバム、『Three and Two』。1979年発表のアルバムで、傑作『We are』のひとつ前、五人体制となって最初のアルバムである。

 当時すでにオフコースのファンだった私は、このアルバムが出た時のことをよく覚えている。色んな意味で衝撃的だったからだ。まずはジャケットを見て唖然となった。「誰だこいつら?」それまでオフコースといえば当然小田、鈴木の二人組だった。過去のアルバムでもバンドの写真といえば必ずこの二人が写っていた。それなのに、このたびジャケット全面に堂々と写っているのは見たこともない三人組、しかもルックス的に微妙。従来のファンが激しい違和感を覚えたのも無理はないだろう。

 実のところこの三人は二人時代からずっとオフコースのバックバンドとして一緒に活動していて、その意味では過去いくつかのアルバムも五人で作っていたのである。ただこのアルバムからバックバンドでなく正式に「オフコース」のメンバーになった、ということなのだが、しかしこの変更は単に体裁が変わりました、という以上の変化をオフコースにもたらした。サウンドが激変しているのである。

 そのあたりの因果関係には個人的に非常に興味があるが、詳しいことは分からない。三人を正式メンバーすることがサウンド変化の呼び水になったのか、あるいはサウンドを変えようという計画が先でメンバー変更もその一環だったのか。いずれにしろ、レコードに針を落としてまた驚いた。一曲目は小田の「思いにままに」だが、アカペラのコーラスはそれまでのオフコースのイメージだとしても、続いて始まる演奏が明らかにロック色を強めている。それまでのオフコースのサウンドといえばストリングスやブラスも入り、ギターや鍵盤はアコースティック・メインという繊細なものだった。ところが「思いのままに」ではアコースティック・ギターもアコースティック・ピアノもなく、鳴っているのはロック風のエレクトリック・ギターとエレピ、音は力強く明快である。間奏ではシンセサイザーのソロまでフィーチャーされている。

 もちろん、この前兆はシングル「愛を止めないで」においても確かにあった。あれもボストンのパクリと言われたほどハードロック風のギターをフィーチャーした曲だったが、その次のシングル「風に吹かれて」ではまたストリングスが入って従来のイメージに戻っている。だからアルバム全体がこうまでロック色を強めたものになるとは思っていなかった。

 特に鈴木の曲でそれが顕著だ。B面の「SAVE THE LOVE」は鈴木と松尾のツイン・ギターが炸裂するハードロック・チューンで、本アルバム中最長の大作でありかなり気合が入っている。まあ、これはこれで悪くないと思う。ハードロック風のギターがどうというより、オフコースの分厚いコーラスとハードなギターの融合が面白い。ただ、やっぱり鈴木氏の声はこういう曲調に合わないなあ。この派手な曲の次にやっぱり鈴木作のしっとりしたバラード「汐風のなかで」を持ってきてメリハリをつけているが、このハードロックとバラードという強弱のつけ方は、これ以降のアルバムでも鈴木の得意なパターンとして活用される。

 しかし個人的には、鈴木氏は前作『FAIRWAY』の「美しい思い出に」や「この空にはばたく前に」のようなAOR路線の方がやっぱりしっくり来るし、持ち味を活かせていたと思う。「失恋のすすめ」みたいなジャズっぽいテイストも、小田にはない要素としてオフコースを面白くしていた。それにいきなり取って代わったこのハードロック路線は、マジメに研究して器用にこなしているとは思うが、マジメで器用なハードロックなんて誰が聴きたいだろうか。

 前にNHK『若い広場』にオフコースが登場した時のインタビューで、鈴木は「エレクトリック・ギターを使うからには、アコースティックをただエレクトリックに持ち替えたというだけでなく、エレクトリック・ギターでしかできないことをやりたい」と語っていた。基本マジメな人なのだと思うし、どうせやるなら本格的にというのは正しい姿勢だと思うが、そもそも彼はハードロックをやりたかったのだろうか。エレクトリック・ギターを持ったからロックやらなきゃ、と考える必要はないし、やっぱり得意なこと好きなことをやるのが一番だ。ラリー・カールトンが好きならそういう音楽をやればいい。大体彼の緻密で几帳面なサウンドづくりには、どう考えてもハードロックよりAORが向いている。『FAIRWAY』の曲はなかなか良かったし、あの方向性でどんどんセンスを磨いて日本のスティーリー・ダンを目指して欲しかった、と思うのは私だけだろうか。

 一方、小田和正はブレない。アコースティックからエレクトリックになったからと言って「それらしい」音楽をやろうなどとは考えてはいない。もともとのカラーであるキャッチーなメロディと爽快感が増し、いよいよブレークの予感に満ち溢れている。実際、このアルバム直後に大ヒット・シングル「さよなら」がリリースされているわけだが、その予告編というべきこのアルバムではトレードマークのハイトーン・ヴォイスはますます透き通り、旋律はメロディアスで、サウンドは躍動感に満ち、すべての曲が傑作と言っても過言ではない。ベストアルバムやライヴに収録されたことのない「その時はじめて」や「愛あるところへ」も、捨て曲どころか実にいい曲だ。

 五人体制になった影響かあるいは慎重なプランニングの結果かは分からないが、抒情的なフォークのテイストを引きずった二人組時代のサウンドから見事に脱皮し、ウェスト・コースト・ロックを思わせる明快で躍動感溢れるバンドに生まれ変わったオフコース。『Three and Two』はオフコース史上もっとも溌剌としたアルバムであり、長いトンネルをついに抜けたというワクワク感が聴き手にも伝わってくる。このサウンドが更に彫琢されて、次作『We Are』に結実することになる。
 


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