『惑星ソラリス』 アンドレイ・タルコフスキー監督 ☆☆☆☆☆
しばらく前に『惑星ソラリス』の日本版ブルーレイを購入したが、途中で強烈な眠気に襲われ爆睡してしまったため、このたび再見した。眠くならないよう昼間に観たのがよかったのか、今回は眠くならなかった。
タルコフスキー監督の代表作ともいえる濃密な内容で、ミステリアスな形而上学性と多義性がとぐろを巻き、異常なまでのテンションの高さで観客 . . . 本文を読む
『ロシア幽霊軍艦事件』 島田荘司 ☆☆☆☆
再読。本書は島田荘司らしいスケールの大きな不可能興味で始まるが、その後パズラーではなく意外な歴史大ロマンへ展開していく異色の作品である。不可能興味というのは箱根の旅館にある古い写真で、そこには芦ノ湖に出現した巨大な軍艦が写っている。湖である芦ノ湖に軍艦が出現できるわけがない。が、写真はインチキではなく、軍艦もハリボテではなく、何より実際にその時そ . . . 本文を読む
『彼女が消えた浜辺』 アスガー・ファルハディ監督 ☆☆☆★
『別離』のアスガー・ファルハディ監督の2009年作品。さすがによく出来た映画で、技巧が冴え、ビジュアルも美しく、プロットも緊密で飽きさせない。ドキュメンタリー風に緩く始まる序盤さえ乗り切れば、後は目が離せなくなる。全体を貫くピリッとしたサスペンスは『別離』と同質のものだ。が、『別離』と比べると小粒感は否めない。
仲のいい友人グ . . . 本文を読む
『丹生都比売 梨木香歩作品集』 梨木香歩 ☆☆☆★
以前、『家守綺譚』に感嘆した梨木香歩の短篇集を読了。なかなか良かったが、『家守綺譚』を初めて読んだ時の感動には及ばなかった。例によって、日常と異界がさりげなく溶け合っているような梨木香歩の世界である。あたりまえの日常を綴る筆致で、不思議な世界が語られる。
全部で9篇収録されているが、書かれた年代はかなり長期にわたっていて、作品の感触も . . . 本文を読む
『Out of the Blue』 Electric Light Orchestra ☆☆☆☆☆
私がELOを聴き出したのはここ数年のことだ。以前は名前だけ知っている程度で、よくアラン・パーソンズ・プロジェクトとごっちゃにしていた。バンド名からテクノとシンフォニック・ロックが融合したようなイメージを持っていたが、実際に曲を聴いてみると明るくキャッチーなポップ・ロックだった。どうやら初期はプ . . . 本文を読む
『氷』 アンナ・カヴァン ☆☆☆★
昔サンリオ文庫で出ていたという、アンナ・カヴァンの『氷』を読了。初アンナ・カヴァンである。
序文でクリストファー・プリーストがアンナ・カヴァンの小説を「スリップストリーム文学」と呼び、「スリップストリーム文学」について色々と語っているが、ガルシア・マルケスやボルヘスや村上春樹までスリップストリームと呼んでいてワケわからない。「本質的に定義不能な概念」 . . . 本文を読む
『雁』 豊田四郎監督 ☆☆☆★
日本版DVDで鑑賞。DVDジャケットは色付きだが実はモノクロ映画である。
率直に言って、色んな点でぬるさを感じさせる映画である。音楽は垂れ流しだし、顔のアップばかり多いし、結末も舌足らずだ。が、にもかかわらずわりと好感を持ったのは、「高峰秀子を見たい」というもともとの欲求は一応満たすことができたし、おまけにこの映画の中の高峰秀子は、成瀬監督の映画みたいに . . . 本文を読む
『殺人課刑事』 アーサー・ヘイリー ☆☆☆☆★
再読。アーサー・ヘイリーの遺作である。Amazonを見ると絶版になっているようだが、そのことがまったく腑に落ちないエンタメの傑作である。ヘイリーといえば病院や銀行や電力会社という娯楽スリラーらしからぬ題材で小説を書く作家だが、長いブランクの後に発表されたこの最後の小説は殺人事件の捜査をする刑事と、普通のミステリ仕立てになっている。そこが逆にヘ . . . 本文を読む
『サンドラの週末』 ジャン・ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ監督 ☆☆☆
iTunesのレンタルで鑑賞。ドキュメンタリー・タッチの映画で、劇伴は一切なし。回想シーンや説明的なフラッシュバックもなし。ひたすらリアリズムに徹したカメラが、一人の女性の土曜、日曜、月曜の三日間を追っていく。スターのオーラをすっかり消したマリオン・コティヤールが、ごく普通の女性労働者サンドラを演じている。 . . . 本文を読む
『陰鬱な美青年』 ジュリアン・グラック ☆☆☆☆☆
ジュリアン・グラックは『アルゴールの城にて』『シルトの岸辺』の作者で、その宝石のような完成度の幻想小説を愛する私はなんとか他の作品も読みたいと願い続けているのだが、こういう作家の小説はなかなか手に入らない。非常に残念だ。と思っていたところへこの『陰鬱な美青年』が復刊されたことを知り、すかさず取り寄せた。いやーありがたい。値段も高いが、それ . . . 本文を読む