『バートルビーの仲間たち』 エンリーケ・ビラ=マタス ☆☆☆☆☆
これも10月に日本に帰った時に仕入れてきた本だが、素晴らしく面白かった。訳者あとがきに、アントニオ・タブッキが「この本は面白いよ」と薦めたとあったので買ったのだが、やはりタブッキの推薦は間違いない。バートルビーとはメルヴィルの短篇小説の主人公の名前で、法律事務所で働いているにもかかわらず何を頼んでも「せずにすめばありがたいの . . . 本文を読む
『罪と罰 白夜のラスコーリニコフ』 アキ・カウリスマキ ☆☆☆★
カウリスマキのデビュー長篇を再見。ドストエフスキーの『罪と罰』の映画化である。デビュー作がこれとは、すごい度胸だ。しかしこれを観ると独特のカウリスマキ・スタイルはすでに完成しており、ほとんど青臭いところがない。実に堂々としている。これには驚いてしまう。
役者の無表情演技、ぶっきらぼうなセリフ。陰影と色彩に富んだ映像。シニ . . . 本文を読む
『アサイラム・ピース』 アンナ・カヴァン ☆☆☆☆
皆様、年の瀬をどのようにお過ごしでしょうか? 私は超絶多忙により、ここしばらくブログ更新が滞っていました。とりあえず昨日で峠は越え、クリスマスは自宅で迎えることができそうですが、しかしこの閉塞状況は来週以降も限りなく続く。なんとかならんかなあ。
というぼやきはさておき、10月に日本に帰国した時、念願だったアンナ・カヴァンのデビュー短篇 . . . 本文を読む
『Wind On the Water』 Crosby & Nash ☆☆☆☆★
最近よく聴いているアルバム、クロスビー&ナッシュの『Wind On the Water』をご紹介したい。1975年発表の古いアルバムで、私は最近まで聴いたことがなかったが名盤の誉れ高い一枚である。言うまでもなくCSN&Yの中の二人、デヴィッド・クロスビーとグラハム・ナッシュ二人組のアルバムで、当然ながらテイスト . . . 本文を読む
『関心』 アルベルト・モラヴィア ☆☆☆☆
モラヴィアの邦訳本は大部分が絶版になっているが、前々から読みたかった『関心』をこのたび古本で入手した。1968年刊行。定価600円。ページもすっかり灼けていてもんのすごく古い本だが、まだ読める。これはあの大傑作『倦怠』の次の作品なのだから、読まないわけにはいかない、読まずには死ねない。
冒頭読み始めるとただちに、『倦怠』との類似に気づく。とて . . . 本文を読む
『女経』 増村保造/市川崑/吉村公三郎監督 ☆☆☆☆★
日本版DVDで再見。「じょきょう」と読む。三話入ったオムニバスで、それぞれ若尾文子、山本富士子、京マチ子の三大女優と増村保造、市川崑、吉村公三郎の有名監督の組み合わせになっている。非常にゴージャス感があるオムニバスだ。三話それぞれのタイトルも「耳を噛みたがる女」「物を高く売りつける女」「恋を忘れていた女」と洒落ている。
まず「耳を . . . 本文を読む
『かげろう絵図』 松本清張 ☆☆☆☆☆
10月に日本に一時帰国した際、機中で読むために持参した娯楽小説である。松本清張の時代劇を読んだのは初めてだったが、これがまたメチャ面白い。さすがは松本清張だ。時代劇は嫌いという人以外には絶対的におススメする。どうやら米倉涼子主演でTVドラマ化されたことがあるらしく、私は観ていないが、知っている人もいるかも知れない。まあTVドラマの出来はどうあれ、原作 . . . 本文を読む
『エレナの惑い』 アンドレイ・ズビャギンツェフ監督 ☆☆☆☆☆
iTunesのレンタルで鑑賞。ズビャギンツェフ監督の映画を観たのは初めてだったが、同じロシアということもありタルコフスキーに似ていると言われているらしい。まあ確かに長回し、静謐感、彫琢された映像、謎めいたディテールなど表面的な共通点は多いかも知れないが、映画のコアにあるものというか、最終的に目指すものは結構違うという印象を受け . . . 本文を読む
『ロリア侯爵夫人の失踪』 ホセ・ドノソ ☆☆☆☆★
アマゾンで入手不能なので古本で入手。軽いポルノと聞いていたのでそれほど期待していなかったが、これなら高い金出して買った甲斐があった。全然悪くない。もちろん重量級の作品ではないが、ドノソらしい曲者の技が縦横に駆使された快作、佳作である。
筋立ては、たとえば『エマニュエル夫人』のような典型的なポルノ小説のそれである。古風な上流社会を舞台に . . . 本文を読む
『「女の小箱」より 夫が見た』 増村保造監督 ☆☆☆★
日本版DVDを購入して鑑賞。しかしまあ、良くも悪くも昭和っぽいというか、俗悪とサービス精神の間を行きつ戻りつしながら突っ走るような、あざとさと猥雑なエネルギーに溢れた映画である。ドロドロの濃縮昼メロという感じでもある。何かといえば物悲しい旋律が流れてくるのも、昔のメロドラマっぽい。
まず、いきなり若尾文子の入浴シーンでスタート。最 . . . 本文を読む