『自由の幻想』 ルイス・ブニュエル監督 ☆☆☆★
日本版DVDを購入して再見。遺作『欲望のあいまいな対象』の一個前の映画だが、これはもうブニュエル流のコント集である。一つ一つのコントが面白いかどうか以前に、これを映画でやったということがとりあえずすごい。
「物語は1808年トレドから始まる…」というプロローグのキャプションからしてもうギャグである。これはトレドが舞台の物語でも歴史物でも . . . 本文を読む
『葬儀を終えて』 アガサ・クリスティー ☆☆☆☆
週末に一冊クリスティーを読む習慣はまだまだ続く。なぜかいくら読んでも飽きないのである。Wikipediaによるとクリスティーは聖書とシェイクスピアの次によく読まれており、ユネスコの統計では「最高頻度で翻訳された著者」のトップ、ギネスブックでは「史上最高のベストセラー作家」に認定されているという。ただよくできたミステリというだけでは、この異常 . . . 本文を読む
『暗くなるまで待って』 テレンス・ヤング監督 ☆☆☆☆★
DVDで再見。久しぶりに観たら、前観た時より面白かった。もともと芝居だった作品で、舞台がほぼアパートの中だけに限定され、緻密な脚本の妙と役者の演技で魅せる渋いサスペンスものである。ハリウッド製の派手なスリラーに比べると地味に思えるかも知れないが、精密に計算し尽くされた脚本はお見事の一言で、だんだんと緊張感が高まっていき最後には息をつ . . . 本文を読む
『ローマ帽子の秘密』 エラリー・クイーン ☆☆★
最近角川文庫で出ている新訳の国名シリーズは、Amazonのカスタマーレビューを読むとこれまででベストの翻訳ととても好評のようなので、久しぶりにこの『ローマ帽子の秘密』、つまり国名シリーズ第一作にしてエラリー・クイーンの処女作を角川版で再読してみた。中学以来である。
ブロードウェイの劇場で男が殺され、なぜかシルクハットだけがなくなっている . . . 本文を読む
『三重スパイ』 エリック・ロメール ☆☆☆★
ロメール監督の2004年の作品『三重スパイ』を日本版ブルーレイで観賞。最近ブルーレイのきれいさに目が慣れてしまって、DVDを見ると画質の荒さが気になるようになってしまった。そのせいで好きな映画のDVDをブルーレイに買い換える大作戦を推進中だが、金がかかって仕方がない。
それはさておき、21世紀のロメール作品は初めてだったが、いつも恋愛がらみ . . . 本文を読む
『市に虎声あらん』 フィリップ・K・ディック ☆☆
唐突に出版された、フィリップ・K・ディック幻の処女作。SFではなく普通小説である。ページ数も多く、みっちり書き込まれていて、当時まだ25歳だったディックの力のこもり具合が分かる。翻訳者の阿部重夫と山形浩生があとがきで本書をかなり褒めているので、つい期待してしまったが、やはり満足な出来ではなかった。まあ、それはそうだろうな。ボツになって机の . . . 本文を読む
『放浪記』 成瀬巳喜男監督 ☆☆☆
成瀬監督の『放浪記』をDVDで再見。これは『浮雲』と同じ原作者・林芙美子の私小説の映画化で、林芙美子の一代記である。森光子のロングラン公演で知っている人も多いだろう。名作の誉れ高い映画だが、私はそこまで良いとは思わない。一度観てピンと来ず、再挑戦したがやっぱり同じだった。
行商夫婦の娘として生まれたふみ子は貧乏しながら詩や小説を書き、女給をし、文人連 . . . 本文を読む
『三つのブルジョワ物語』 ホセ・ドノーソ ☆☆☆☆☆
ドノーソの短編集を再読。面白い。相当面白くかつ巧緻、玄妙、しなやか、幻惑的である。再読であるにもかかわらず、読みながら興奮した。収録短編は「チャタヌーガ・チューチュー」「緑色原子第五番」「夜のガスパール」の三篇で、それぞれ微妙に雰囲気が異なっている。
私が一番好きなのは「チャタヌーガ・チューチュー」で、このタイトルからも分かるように . . . 本文を読む
『麦秋』 小津安二郎監督 ☆☆☆☆☆
小津の代表作の一つ、『麦秋』を再見。やはり大傑作。この圧倒的な完成度、楽しさ、そしてセンチメンタリズムではない本物の情感に圧倒されるラスト。素晴らしい。芸術とはこれである。
これは『晩春』の2年後の作品で、同じく原節子主演、役名も「紀子」で同じ、物語も紀子の結婚話と、とてもよく似ている。が、似たテーマを扱って『晩春』が直球だとすると、こちらは変化球 . . . 本文を読む
『ひらいたトランプ』 アガサ・クリスティー ☆☆☆
これはクリスティー作品の中でもA級に属する、と本書の解説にあり、またクリスティー自身の序文にも「エルキュール・ポアロの自慢の手柄話」と書かれているので、自信作なのだと思う。殺人の状況がもはやどんなトリックの余地もないくらいシンプルで、かつ犯人も四人の中の一人に限定されているという、非常に特色あるミステリである。四人の中が誰が犯人であっても . . . 本文を読む