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『ゴースト・ストーリー』 コールドプレイ ☆☆☆☆☆
コールドプレイ6枚目のスタジオ・アルバム。前作『Mylo Xyloto』(マイロ・ザイロトと読むことを今回ネットで調べて初めて知った)が、華やかな色彩感とキャッチ―なメロディが溢れ出す無敵のポップ・ロック・アルバムだったとすれば、本作はうって変わって内省的な、静謐感の漂うアルバムである。昼に対する夜、太陽に対する月、のようなイメージだ。だから地味と言えば地味である。が、私にとってこのアルバムはコールドプレイ久々の大ヒットである。ツボに来た、と言ってもいい。
『X&Y』『美しき世界』『Mylo Xyloto』と大ヒット・アルバムを連発してきたコールドプレイは、もはやぐうの音も出ない世界的メガ・ヒット・バンドとしての地位を確立済みだ。好き嫌いはあっても、それを否定できる者はどこにもいないだろう。彼らのメロディ・メイカーとしての才能に疑問の余地はない。サウンドもどんどん洗練され、先鋭性とポップ性を兼ね備えたプロダクトとして一分のスキもない域に達している。加えて、ここまでヒット・アルバムを連打した後でも失速の気配がまったくない。それどころかますます快調だ。とんでもないモンスター・バンドである。
が、そう思いつつも、個人的にはこれまでずっと「最高に好き」レベルには至らなかった。アルバムが出たらとりあえず聴き、「やっぱり外れないな、このバンドは」と思いつつしばらく聴き、やがてなんとなく離れる。そんなことの繰り返しだった。理由の一つはクリス・マーティンのヴォーカルである。この独特のダミ声は特徴的で、コールドプレイの重要なオリジナリティ要素だと思うが、それほど好みではない。それに、メモラブルな声だけれども表現力は広くないと思う。どれを聴いても同じように歌っている。
もう一つは、メロディが醸し出す情感の幅である。グッド・メロディを連発する彼らだが、曲の醸し出す情感はどれもよく似ている。『X&Y』を最初に聴いた時どの曲もいいと思ったが、同時にどの曲も似ていて区別がつかなかった。メロディそのものは違っているので、焼き回しでもマンネリでもないのだが、曲の感触が似ているのである。そのため、彼らの曲をラジオでひとつだけ聴くと突出感があって「おっ、いいな」と思うのだが、アルバムで聴くと平坦に思える。これは私だけだろうか。
つまり、彼らには必殺パターンがあってそれは最強なのだが、アルバムが必殺パターンで埋め尽くされているため平坦に聴こえるのである。普通のバンドもそのへんの事情は同じはずだが、必殺パターンを連発するとマンネリ化して飽きられるので、自然とここぞというところで出すようになる。ところがコールドプレイはヘンに器用なためか、必殺パターンをマンネリだと感じさせずに、ちょっとずつ変えて連発できるのだ。変なことを言うと思われるかも知れないが、彼らのアルバムを聴いていると私はそう感じてしまう。大ヒットした『X&Y』『美しき世界』『Mylo Xyloto』、どれもそうだ。
ところが、『ゴースト・ストーリー』は違う。はっきり言うと、このアルバムでの必殺パターン曲は冒頭の「Always In My Head」とラストから二曲目の「A Sky Full of Stars」ぐらいだろう。シングルになった「Magic」でさえ、メッチャ地味なのである。じゃあ他は捨て曲かというと、そんなことはない。私は四曲目の「True Love」が死ぬほど好きなのだが、これはコールドプレイの王道パターンではない。なんだか可愛らしい曲で、淡々としているのだが、しかしその中にコールドプレイのグッドメロディが燦然と輝いている。
最初聴いた時は、アンビエント風の曲が多いなと思った。「Ink」「Midnight」「Oceans」など電子音が多くて、露骨にアンビエント風サウンドである。だから「ははあ、唯一アッパーな『A Sky Full of Stars』を最大限盛り上げるために、他はアンビエント風に抑えたのかな」と思ったのだが、何度か聴くうちにアンビエント風楽曲群も実は全然アンビエントではなく、スルメ曲揃いであることに気づいた。最初は露骨な繋ぎだと思った「Midnight」でさえ、今ではそのメロディとアレンジの簡素な美しさに聴き惚れてしまう。どう考えても「A Sky Full of Stars」のプロローグである「Oceans」も、アコースティック・ギターと電子音の織りなす幽玄境に魅了される。
つまり、アルバム全体の緩急がくっきりしている。突出する部分が見事に突出し、他はきっちり抑制されている。流れが美しく、バランスが取れている。かつ、抑制されている部分は聴き込むと味が出るスルメ曲ばかりだ。これはやられる。以前のアルバムのような詰め込み感がなく、似通った売れ線の曲ばかり集めました感がない。タイトル通り、ひとつのストーリーを物語るアルバムになっている。クライマックスである「A Sky Full of Stars」が終わった後、エピローグとして鳴り出す「O」のイントロの美しさに涙しないリスナーはいないだろう。
このアルバムが内省的で悲哀の色が濃いのは、直前に起きたクリス・マーティンとグエネス・パルトロウの離婚が原因とされているようだが、アルバムの完成度はそんな感傷性をものともしない強度を誇っている。お見事というしかない。もともとコールドプレイの音楽には抜きがたい哀愁があるが、それが硬質なアンビエント風サウンドでコントロールされ、お得意のキャッチ―なメロディは抑制されて一層蠱惑的になり、まるで夜空に広がる星屑のようなえも言われぬ美しさだ。ただし、その美しさに気づくためには、何度も繰り返し聴かなければならない。これは、そんなアルバムだ。
コールドプレイ6枚目のスタジオ・アルバム。前作『Mylo Xyloto』(マイロ・ザイロトと読むことを今回ネットで調べて初めて知った)が、華やかな色彩感とキャッチ―なメロディが溢れ出す無敵のポップ・ロック・アルバムだったとすれば、本作はうって変わって内省的な、静謐感の漂うアルバムである。昼に対する夜、太陽に対する月、のようなイメージだ。だから地味と言えば地味である。が、私にとってこのアルバムはコールドプレイ久々の大ヒットである。ツボに来た、と言ってもいい。
『X&Y』『美しき世界』『Mylo Xyloto』と大ヒット・アルバムを連発してきたコールドプレイは、もはやぐうの音も出ない世界的メガ・ヒット・バンドとしての地位を確立済みだ。好き嫌いはあっても、それを否定できる者はどこにもいないだろう。彼らのメロディ・メイカーとしての才能に疑問の余地はない。サウンドもどんどん洗練され、先鋭性とポップ性を兼ね備えたプロダクトとして一分のスキもない域に達している。加えて、ここまでヒット・アルバムを連打した後でも失速の気配がまったくない。それどころかますます快調だ。とんでもないモンスター・バンドである。
が、そう思いつつも、個人的にはこれまでずっと「最高に好き」レベルには至らなかった。アルバムが出たらとりあえず聴き、「やっぱり外れないな、このバンドは」と思いつつしばらく聴き、やがてなんとなく離れる。そんなことの繰り返しだった。理由の一つはクリス・マーティンのヴォーカルである。この独特のダミ声は特徴的で、コールドプレイの重要なオリジナリティ要素だと思うが、それほど好みではない。それに、メモラブルな声だけれども表現力は広くないと思う。どれを聴いても同じように歌っている。
もう一つは、メロディが醸し出す情感の幅である。グッド・メロディを連発する彼らだが、曲の醸し出す情感はどれもよく似ている。『X&Y』を最初に聴いた時どの曲もいいと思ったが、同時にどの曲も似ていて区別がつかなかった。メロディそのものは違っているので、焼き回しでもマンネリでもないのだが、曲の感触が似ているのである。そのため、彼らの曲をラジオでひとつだけ聴くと突出感があって「おっ、いいな」と思うのだが、アルバムで聴くと平坦に思える。これは私だけだろうか。
つまり、彼らには必殺パターンがあってそれは最強なのだが、アルバムが必殺パターンで埋め尽くされているため平坦に聴こえるのである。普通のバンドもそのへんの事情は同じはずだが、必殺パターンを連発するとマンネリ化して飽きられるので、自然とここぞというところで出すようになる。ところがコールドプレイはヘンに器用なためか、必殺パターンをマンネリだと感じさせずに、ちょっとずつ変えて連発できるのだ。変なことを言うと思われるかも知れないが、彼らのアルバムを聴いていると私はそう感じてしまう。大ヒットした『X&Y』『美しき世界』『Mylo Xyloto』、どれもそうだ。
ところが、『ゴースト・ストーリー』は違う。はっきり言うと、このアルバムでの必殺パターン曲は冒頭の「Always In My Head」とラストから二曲目の「A Sky Full of Stars」ぐらいだろう。シングルになった「Magic」でさえ、メッチャ地味なのである。じゃあ他は捨て曲かというと、そんなことはない。私は四曲目の「True Love」が死ぬほど好きなのだが、これはコールドプレイの王道パターンではない。なんだか可愛らしい曲で、淡々としているのだが、しかしその中にコールドプレイのグッドメロディが燦然と輝いている。
最初聴いた時は、アンビエント風の曲が多いなと思った。「Ink」「Midnight」「Oceans」など電子音が多くて、露骨にアンビエント風サウンドである。だから「ははあ、唯一アッパーな『A Sky Full of Stars』を最大限盛り上げるために、他はアンビエント風に抑えたのかな」と思ったのだが、何度か聴くうちにアンビエント風楽曲群も実は全然アンビエントではなく、スルメ曲揃いであることに気づいた。最初は露骨な繋ぎだと思った「Midnight」でさえ、今ではそのメロディとアレンジの簡素な美しさに聴き惚れてしまう。どう考えても「A Sky Full of Stars」のプロローグである「Oceans」も、アコースティック・ギターと電子音の織りなす幽玄境に魅了される。
つまり、アルバム全体の緩急がくっきりしている。突出する部分が見事に突出し、他はきっちり抑制されている。流れが美しく、バランスが取れている。かつ、抑制されている部分は聴き込むと味が出るスルメ曲ばかりだ。これはやられる。以前のアルバムのような詰め込み感がなく、似通った売れ線の曲ばかり集めました感がない。タイトル通り、ひとつのストーリーを物語るアルバムになっている。クライマックスである「A Sky Full of Stars」が終わった後、エピローグとして鳴り出す「O」のイントロの美しさに涙しないリスナーはいないだろう。
このアルバムが内省的で悲哀の色が濃いのは、直前に起きたクリス・マーティンとグエネス・パルトロウの離婚が原因とされているようだが、アルバムの完成度はそんな感傷性をものともしない強度を誇っている。お見事というしかない。もともとコールドプレイの音楽には抜きがたい哀愁があるが、それが硬質なアンビエント風サウンドでコントロールされ、お得意のキャッチ―なメロディは抑制されて一層蠱惑的になり、まるで夜空に広がる星屑のようなえも言われぬ美しさだ。ただし、その美しさに気づくためには、何度も繰り返し聴かなければならない。これは、そんなアルバムだ。
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