アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

Steps Ahead

2018-07-11 23:30:17 | 音楽
『Steps Ahead』 Steps Ahead   ☆☆☆☆☆

 今日は久しぶりに、私が好きなジャズ/フュージョンのCDを一枚紹介しようと思う。ステップス・アヘッドである。ステップスと言えば(ちなみに初期のバンド名はステップスだったが、商標問題か何かで本作からステップス・アヘッドに変わっている)六本木ピットインのライヴ盤が有名で、ヴィブラフォン奏者のマイク・マクニエリがリーダー、メンバーにはホーン奏者のマイケル・ブレッカーを擁する。初期はドラムをスティーヴ・ガッドが叩いていた。本ディスクのメンバーをちゃんとご紹介すると、マイク・マイニエリ(ヴィブラフォン)、マイケル・ブレッカー(テナーサックス)、イリアーヌ・イリアス(ピアノ)、ピーター・アースキン(ドラムズ)、エディ・ゴメス(ベース)である。

 さて、六本木ピットインで録音された有名なライヴ盤『スモーキン・イン・ザ・ピット』はフュージョンにカテゴライズされているものの4ビートでもあり、ほぼストレートアヘッド・ジャズといっていい演奏だったが、このアルバムは16ビートが主体の、都会的な、いわゆるフュージョン音楽である。が、楽器はすべてアコースティック。勝手に断言するが、これこそが本ディスクのミソである。つまりフュージョンをエレクトリックではなく、アコースティックでやっている。特にベースがアコースティックであることが、個人的には非常にツボである。艶のある、音の粒立ちがはっきりした美しい音で、ビヨーンとうねるダブルベースの音が好きな人にはたまらない。ノリノリの曲、静かでメロウな曲と、どっちにも見事にハマる、存在感のある音を堪能できる。

 そしてまた、ウェザー・リポートで有名なピーター・アースキンのドラムがきめ細かくて的確で、かつダイナミックで、なんとも素晴らしい。私がこのアルバムを繰り返し聞く一番の理由は、このリズムセクションの快感であることは間違いない。

 それからロック方面ではあまり見かけないヴィブラフォンという楽器も、このバンドの音を特徴づけている。本ディスクのクールで涼し気な佇まいは、リーダーであるマクニエリのヴィブラフォンによるところが大きいと思う。どんなに熱いブロウをサックスが繰り出しても、ヴィブラフォンの涼し気な音がシャボン玉のようにそれを包み込み、クールダウンすることでバランスが取れる。また、メロウで静かな曲においてはヴィブラフォンが甘さを中和し、大人っぽい渋みを付け加える。「Skyward Bound」なんて涙がちょちょ切れそうな美しいスロー・バラードだし、かと思うと「Northern Cross」では一転して緊張感のある即興演奏を繰り広げる。
 
 曲は全体に都会的で、熱すぎず、メロウ過ぎず、クール過ぎず、しかしすべてがバランスよく調和して心地よい。ノリノリの曲と静かな曲の配分も良い。この後ステップスは急速にエレクトリック化していくので、フュージョン・テイストとアコースティック楽器の演奏が融合した本作は過渡期の作品ということになるだろうが、だからこそ私はこのアルバムを珍重し、愛聴している。



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