アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

10cc

2017-11-19 20:30:34 | 音楽
『10cc』 10cc   ☆☆☆☆

 10ccのデビュー・アルバム。エリック・スチュアート、ロル・クレーム、ケヴィン・ゴドレー、グレアム・グールドマンの四人が揃ったオリジナル10ccの素晴らしさは言葉に尽くせないが、その記念すべき第一弾アルバムがこれである。オリジナル10ccが残したアルバムは4枚あって、アルバムごとにその音楽は驚くべき変化を見せるが、このデビュー・アルバムで聴けるのはそんな中でももっとも軽やかで、遊び心に満ち、パロディ精神旺盛な、キュートな楽曲の数々である。

 そのサウンドはまさに万華鏡、メロディは愛らしくキャッチ―、ヴォーカルやコーラスは茶目っ気たっぷりで華麗。セカンド、サードとなるにつれだんだん楽曲の完成度が上がり、それとともにおふざけ度は目減りしていくが、このアルバムでは愉快なおふざけもたっぷり盛り込まれている。おふざけといっても楽屋落ち的または自己満足的なものではなく、エンターテインメントとしてきちんと作品に昇華されている。要するに、祝祭的なのである。

 一発目の「いけないジョニー」からもうキュートさ全開。後の名作『オリジナル・サウンドトラック』『ハウ・デア・ユー』で10cc絶頂期の輝きを知り尽くしていた私でさえ、最初にこの「いけないジョニー」を聴いた時は新鮮な驚きに打たれたものである。『オリジナル・サウンドトラック』の頃と比べてこのアルバムで顕著な二大特徴は、オールディーズ風アレンジとロル・クレームのへなへなファイルセットだけれども、「いけないジョニー」の冒頭5秒を聴いただけで誰もがその魅力にハッとなるだろう。かつて学生時代に私がこれを聴かせた軽音の女の子は「いけないジョニー」で「へえ~お洒落!」と声を上げ、「ラバー・ブリッツ」を聴いて笑い転げた。

 とにかく、曲者四人によって結成された10ccの斬新で実験的で若々しいアイデアがぎっしり詰まっている。ストリングスと分厚いコーラスと甘酸っぱいオールディーズ風メロディとへなへなファルセット・ヴォイスがたまらなくキュートな「いけないジョニー」、へなへなファイルセットでビートルズ「Oh! Darling」のパロディを歌う「ドナ」、キャッチ―なメロディーに乗せて虹のように華麗なヴォーカライゼーションを聴かせる「ディーン・アンド・アイ」、ビーチボーイズ風コーラスの軽快なナンバー「ラバー・ブリッツ」、妖しく美しいバラード「ママにフレッシュ・エア」、などなど。

 四人が四人ともリードヴォーカルをとれる器用さを活かした華やかなコーラス・ワークが実に楽しく、かつ、全員がマルチ・インストゥルメンタリストということで楽器編成に縛られず、自由な発想でのアレンジが可能になる。演奏テクニックこそそれなりだが、アイデアで見事にカバーしている。演奏テクニックに頼るようになり失速していく『ブラッディ・ツーリスト』以降の10ccとは対照的である。

 オリジナル10ccの最大の特徴は、何か一つの音楽様式をゴリゴリきわめるのではなく、オールディーズ、ポップス、フォーク、ハードロック、レゲエ、ボサノバ、ジャズ、ミュージカル音楽、映画音楽などから無節操においしいとろこを抜き出し、組み合わせるという折衷スタイルにあり、彼らの音楽が最初「パロディ音楽」と言われたのもそれが理由である。このデビュー・アルバムではその組み合わせがもっとも大胆かつ軽やかになされているが、こんな音楽作りが当時きわめて斬新だったことは言うまでもない。サイケデリックからプログロッシヴ・ロックへ、という流れがジャズやクラシックとロックを融合させて新しい音楽を作る試みだったとすれば、10ccは軽音楽のありとあらゆるジャンルから拾い上げたスタイルをパロディ的に組み合わせることで、新たな音楽を作り出した。そしてそれは「重厚長大」を志向したプログレッシヴ・ロックとは真逆の、「軽やかさ」と「遊び心」を旗印とする、メタポップス、メタロックとでもいうべき音楽であった。とはいえ、当時彼ら以上に真に「プログレッシヴ」なバンドが存在したかどうか疑問である。

 オリジナル10ccの歩みはスチュアート&グールドマン組とゴドレー&クレーム組の音楽性の違いが徐々に顕在化していく過程でもあるのだが、このアルバムでは四人の個性がまったく渾然一体となっていて、その意味でも完全なごった煮スープ状態である。また、この後だんだんエリックがリード・ヴォーカリストとして10ccの顔になっていくが、このアルバムで目立っているのは間違いなくロル・クレームのファルセット・ヴォイスである。シャボン玉のように軽やかで元気いっぱいで機知に溢れた、ある意味もっとも10ccらしいアルバムかも知れない。



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